岩清水日記

「あしひきの岩間をつたふ苔水のかすかにわれはすみわたるかも」良寛

『ふがいない僕は空を見た』 窪 美澄 著

2011-07-03 10:52:49 | 


読了。
小説を読むことは少ない。
理由は特にない。
自分勝手な優先順位が低いと。
これも突然高くなったりすることもあるのだけれど。

そして、久しぶりに評判の小説を読んでみようと思った。

『ふがいない僕は空を見た』
タイトルからすると男性、それも若い主人公と思い込む。

この小説は5話からなる。
第一話は確かに高校生の男子の話だ。
近所の主婦と不倫をする話。
斉藤辰巳くん。
彼の母親は自宅で助産院をしている。

ところが第2話になると、視点が変わる。
今度は不倫相手の主婦の話となる。
「あんず」は不妊治療中だった。
夫となにかと関わってくる義母。
しかたなく不妊治療のためのアメリカに行くことになってしまう。
この小説から去る。
夫が置き土産に、斉藤君と妻の不倫中の画像をネットに流してしまう。

第3話
斉藤辰巳に好意を持っている同級生が話を引き継ぐ。
「松永」は、友人から画像をプリントしたペーパーを見せられる。
「松永」の心模様が綴られるうちに、この小説の素晴らしさに読者は気づいていく。

『ふがいない僕は空を見た』はとても大切な「時代の財産」のように思える。
簡単には言えないが、生きるということの大切さと、人のつながりということの不思議さかもしれない。
やっかいな時代に生れて、それでも生きていく。
心に中にさわやかのものを持ち続けたいと思いながら。

著者による人間讃歌といっていいと思う。

なお、第4話は、同級生の「福田」くん。
第5話は、斉藤辰巳の母が語る。

斉藤辰巳くんが助産院の子という設定が見事。

小説を読まない私のお薦めです。

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