岩清水日記

「あしひきの岩間をつたふ苔水のかすかにわれはすみわたるかも」良寛

『孤高の桜ーハンセン病を生きた人たち』 井上佳子著

2008-08-10 21:44:18 | ハンセン病
「ハンセン病」を学ぶ道筋を思案している。
「検証会議」を読みながらも、この本に入る前に読んでおかなくてならない本が
あるのではないかと思っていた。

ひとつは、各療養所の写真集である。
岡山の療養所は訪問することができるが、他の療養所は見当もつかない。
見当がつかないでは、話にならない。
歴史的な写真もみておく必要がある。

療養所のように隔離された施設は、想像することができないのだ。
想像するためのベースとなるものを持ち合わせないためだが。
戦前や戦中、戦後の時代は、当時の写真をみるしかない。
療養所の建物や人々の生活は、写真をみることで理解が早まる。
そこで、手に入る写真集を見ておこうと思う。
かなり多くの写真集がある。これは借りるしかない。

もうひとつの本は、ハンセン病に対して、生半可な知識しか持たない人による
取材である。おそるおそる現場に入って取り組んだ人の本である。
そして、それは自らが差別の加害者でもあることの自覚のある人でなければならない。
すなわち、自分自身を括弧扱いしない人の本が必要だと思った。
それは私自身の立ち位置を教えてくれるはずである。

『孤高の桜ーハンセン病を生きた人たち』 井上佳子著
井上さんは、熊本放送の記者である。
ハンセン病の知識は取材を始めるまでほとんど持っていなかった。
持っているの無知と偏見だった。
熊本といえば、菊池恵楓園があるところだ。
井上さんは、1995年5月、「らい予防法」廃止の動きの中、
菊池恵楓園に取材にでかける。
本の中では、井上さん自身の誤解や偏見、無知についても包み隠さず書いている。
恥も外聞もなく書く。
取材当初の彼女のハンセン病の知識は、ほとんどの日本人と同じレベルといっていい。
当然、私もその中に入る。

本の冒頭で、今から13年前、園内を歩いた印象を書いている。
その菊池恵楓園の第一印象は、私が長島愛生園を訪問したときのものと
驚くほど似ている。
彼女は、5年間を取材に費やして、記念に1冊の本を書いた。
それがこの『孤高の桜ーハンセン病を生きた人たち』だ。

彼女は自らの偏見に目をつぶらない。
そして無知ゆえに犯した過ちを隠さない。
やはりこのような取材者の目が必要なのである。
私が「ハンセン病」を学ぶとき、自らの偏見や無知とも向き合わなければ
ならない。
学ぶことの姿勢を教えてくれる本である。



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2 コメント

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写真採用ありがとうございます。 (岩清水)
2008-08-11 22:21:32
井上佳子さんの感性は、他の人の心をを可能なかぎり自らの中に取り込むことで
磨かれているようです。
取材者に欠かせない資質だと思います。
わかりやすくいえば、男性的というよりは女性的な
感性かもしれません。
このような表現も注意が必要ですね。
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学ぶ姿勢 (bonn1979)
2008-08-11 07:04:15
いい本を教えていただきました。

多くの取材記者は
取材対象よりは自分の名誉が大事で
そこに「いやみ」がのこりますが
貴ブログのこの記事を拝見すると
取材の過程での学びの姿勢に打たれます。

今朝、「2020年の夏」というつたない連載を終えるにあたりハンセン病を例にとりました。
7月26日の貴ブログの写真(人間回復橋)をお借りしました。
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