
山中伸弥教授のホームページより転載です。
非常に示唆に富んでいますね。
AI・アドバイザリー・ボード第1回会合(8月5日)
AI・アドバイザリー・ボードの第1回会合が本日、開催されました。
このアドバイザリー・ボードのミッションは、内閣府による「AI 等技術を活用したシミュレーション事業」
https://corona.go.jp/simulation/
に対して、専門外の立場からアドバイスをすることです。
第1回の会合では、事業に参画するプロジェクトの概要が紹介されました。私たちからは以下の提言を行いました。
AI 等技術を活用したシミュレーション事業への期待と感染再拡大を受けての提言
2020 年 8 月 5 日
AI アドバイザリー・ボード 委員
黒川 清/安西 祐一郎/永井 良三/山中 伸弥
グローバルに情報が公開される時代にあって、新型コロナウィルス(COVID-19)が世界的なパンデミックとなり、
国内外のさまざまな学術研究が参照されるとともに、各国のCOVID-19 対策や、医療提供システム、公衆衛生施策などが比較検証されつつある。
多大なる貢献を果たしている学術研究者等の専門家に敬意を表したい。
このような時代的背景のなか、我が国における各種の対策を、AI シミュレーション等を用いて効果分析し検証していくことは、
国内におけるCOVID-19 の第二波、三波に対応するうえで極めて重要であり、「AI 等技術を活用したシミュレーション事業」の
開始を決定した西村国務大臣のリーダーシップに敬意を表明する。
本事業の推進は、感染症やシミュレーションの専門家等から構成される検討会議と専門家委員会が行うが、我々アドバイザリー・ボードは、
①国民目線、②未来志向及び③海外協調を基本的認識として、最大限の貢献を約束する。
一方で、本事業の実施が決定された第一波収束直後から、状況は日々変化しており、第一波に対する検証もさることながら、
第二波の襲来とも呼べる感染再拡大への対応が喫緊の課題となっている。
このように感染者が全国的に再増加している現状に鑑み、本アドバイザリー・ボードのミッションの範囲を超えることを承知の上で、
本事業のあり方や本アドバイザリー・ボードの果たすべき役割について、西村大臣に提言を行いたい。
本事業に対する期待
対策効果分析へのAI・シミュレーションの導入に関する検証・提言を行うには、第一に、感染拡大への対策と経済効果への対策のそれぞれ、
および両対策の間の関係に関する対策について、国内外においてこれまで取られた対策、およびこれから取られると予期される対策のうち、
影響が大きいと考えられる対策をリストアップすることがまず重要である。
第二に、これらの対策について、どのようなデータがどのようにして収集され、活用されてきたのか、
また、どのようなモデルがどのようにして検討され、活用されてきたのかを検証することが重要である。
第三に、第一、第二の分析を踏まえ、各対策の検証・提言について、AI とシミュレーションの導入が実際に効果をあげられるかどうかを検討することが重要である。
AI とシミュレーションの手法は万能ではなく、感染症拡大防止と経済効果増強に対してこれらの方法の効果があげられる課題に集中的に取り組むべきである。
また、こうした課題に集中的に取り組んでいることをしっかり広報すべきであり、そうでないと、
「(現実にはモデル構築やデータ収集の段階で恣意性が多々入る可能性があるにもかかわらず)あたかも科学的にみえてしまう」AI・シミュレーションを
導入しさえすればCOVID-19 の蔓延が防止できるかのように、世間が誤解する可能性がきわめて高いと考えられる。
第四に、AI とシミュレーション、およびモデル構築には多くの考え方があり、また、超高速のスパコンを用いなくても検証や予測ができる課題は数多くあると考えられる。
課題の多様性、データのスパース性、モデルのパラメータ敏感性等を考慮すると、コンピュータのスピードがネックになる応用はむしろ限られており、
現在多くの研究者によって進められている手法を迅速に結集するとともにそれらの適切な検証と関連づけを行うことが重要であり、
そのためには、多くの研究者が迅速に参加できるプラットフォームを迅速に構築して運用することが考えられる。
本事業における「専門家委員会」は、これらの点を重視していただきたい。
また、「専門家委員会」はこれらの点に鑑みて重要と考えられる検討課題に焦点を当て、重点的に進めていただきたい。
また、今後の研究事業やその検討にあたっては、異なる意見や仮説を持つ専門家を含めたり、海外の専門家にも参画してもらうなど、
透明性や多様性があり、科学的に批判的吟味を重ねられる体制構築をお願いしたい。
感染者の全国的な再増加を踏まえた西村大臣への提言
〇専門家と政府の役割についての整理・検証・諸外国比較
学術研究者をはじめとする専門家と、政府が果たすべき役割の仕分けや、責任の所在のあり方については、国民的関心事ともなった。
COVID-19 によるパンデミックのような未知かつ不確かな状況において、政府が方針を決定していく際に、どのようなプロセスや
役割の仕分けが必要とされるのか、今後の対策を決定するうえでも整理や検証が求められる。
特に、専門家が前例にとらわれず、批判的吟味に基づく科学的知見をいかに闊達に提供するかが問われている。
いったん決定した政策であっても、刻々と変化する科学的知見に基づき、臨機応変に変更する柔軟性が求められる。
短期的な成果を求めるのではなく、長期的かつ未来志向的観点からの最善の対策を模索するべきである。
同時に、諸外国においてどのような政策決定過程が取られているかを比較検証し、我が国の政策決定の参考とすることも期待される。
〇透明性の高い議論と国内外への発信
我が国のCOVID-19 対策に対する関心は、国民のみならず諸外国からも非常に高い。
各種会議における議論やヒアリングは、透明性をもって進められるべきであり、その内容については、国内外に発信すべく、
日英両か国語で速やかに発信されることが期待される。
転載終わります。
下線は岩清水です。
日本には「富岳」があって独自の研究ができるという考えは意味がないこと。
世界との協調を進めるためには英語での情報提供と誠意策決定過程の透明性が必要であること。
これらは日本の政府、官僚機構の苦手とするところです。
研究者が前に出て推進していかざるを得ないのかと思います。
お読みいただきありがとうございました。