空知地域でできた蕎麦を食べるという「空そば祭り」が無事に終了しました。
今日も一日担当は天ぷらで、一日ずっと立ちっぱなしなので疲れましたが、一緒に天ぷらを揚げていた天ぷらの師匠のIさんと、よもやま話をしながらの時間は楽しいものでした。
天ぷらを揚げるスピードが速くてお客さんの列よりも出来上がってゆくので、Iさんは、「俺、ちょっと客引きしてくる」と言って、天ぷらの場を離れて受付近くで通ってゆくお客さんに声掛けを始めました。
すると目に見えてお客さんの数が増えてきます。
私も手を休めて少し客引きをしてみましたが、Iさんが「うちの蕎麦どうですか?」と話しかけて足を止めた人の三分の一くらいが「じゃあ食べてみようかな」と列に並びます。
そもそも蕎麦のことなんてあまり知らない人たちばかりなので、少し興味の湧くような蕎麦の知識で会話をすると案外食いつきが良いのに驚きました。
「受付で『いらっしゃいませ~』と言っているだけじゃあお客さんは来ないよね。他とどう違うか、というところをどう売り込めるかだもの」
Iさんは案外優秀な営業センスを持っていると睨みました。
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わがチームには鰹節屋さんの社長もメンバーですし、そこから手に入れた鰹節を使って朝から目の前で一級のだしを取っているので汁が美味しいのが自慢。
そこで「うちの汁は絶品ですよ」と言ってみたところ「汁じゃなくて蕎麦がおいしいところがいいなあ」と言い返してきたお客さんがいました。
(そういえば粉はどこのなんだっけ?)自分じゃ蕎麦を打っていないのでどこの蕎麦粉だか分らなかったので、事務局長に「うちはどこの粉を使っているんでしたか?」と訊いたところ、「うちの蕎麦粉は新十津川のピンネ農協の"牡丹(ボタン)蕎麦"だよ」とあっさりした返事。
なんと!そんな他のチームと差別化ができるネタがあるんだったらもっとそれを強調すればいいのに!
実際その後から、「うちは今は作る人が少なくなったけれど通好みの"牡丹蕎麦"ですよ」と言うと、それに食いつく人が確実にいました。
「どうして作らなくなったんですか?」
「蕎麦の実が落ちやすい品種なので歩留まりが悪くて農家さんが嫌うんですね。で、実が落ちにくいキタワセという品種にどんどん変わってきた。でもやっぱり食べ比べると牡丹の方が美味しいんです。そこでそういう声を受けてまた作り始めたというわけです」
そんな蕎麦物語で会話をすると、単なる食べ物の蕎麦が興味深い農産物に聞こえてきます。つまりはそんな縁をどう作るか、というところのほんの些細なきっかけの勝負で売れるか売れないかが決まっているのです。
自分たちの出している蕎麦に共感を得られるところへの導き。これができればもう食べてみずにはいられないのです。
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そんな風に天ぷら組が二人して客引きをすると確かにお客さんはぐんと増えたのですが、あまりそれをやっていると厨房から人が飛んできて「天ぷら足りなくなるよ!」との声。そうして「いかん、いかん」と私は天ぷらに逆戻り。
ものはどうやって選ばれて、我々が売る喜びだけでなく、結果として食べてくれた方に喜びと満足を得ていただくか。商売の要諦は、近江商人の「売り手良し、買い手良し、世間良し」の”三方良し"の精神によく表されています。
イベントは外からやってきて参加するのも楽しいですが、「中の人」になって、中からそれを眺めるのもまた格別の喜びがあるものです。
体は疲労困憊ですが、チームで何事かを成し遂げるというのは、人生の一コマとしては充実した一日となりました。
友達がいるってのはいいものです。