尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

「米朝首脳会談」をどう見るか

2018年06月17日 22時48分10秒 |  〃  (国際問題)
 6月12日にシンガポールで、ドナルド・トランプとキム・ジョンウンの会談が行われた。事前に2回書いたから、会談そのものについても書いておきたいと思う。だけど、正直あまり細かく見ていなかった。今回は家族の突然の入院と重なってしまい、どうしてもそっちに気を取られた。そういう時は大ニュースも霞んでしまう。僕にとってはもっと重大な袴田事件の再審決定には時間を作って出かけたが、会談前日の悪いニュースに愕然とし過ぎてしまったこともある。

 僕の感想はまず首脳会談というのは「政治ショー」なんだなあということだ。これは悪く言ってるわけではない。カナダのシャルルボワで直前に行われていた「G7」サミットだって政治ショーだろう。実務家どうしの折衝では解決できないこともある。だからこその首脳会談だが、政治家だからどうしても政治的な駆け引きや思惑が関係する。会談後にあれこれ言われているが、とにかく会ったわけで、それが一番重大なんじゃないかと思う。まあ当初は「朝鮮戦争終結宣言」とか「米朝国交正常化」という観測もあったから、それを思えば「中身が薄かったな」とも思ってしまうけど。

 何で6月12日だったのだろうか。当初から「早すぎるな」という気がした。この日程だったから、トランプはサミットを中座して出かけることになった。もしかしたらそれが理由か。さすがにサミット出席そのものはキャンセルできないが、自分が批判されると判ってる会談には出たくないだろう。貿易問題などの議論に深入りする前に、「俺様はこれからサミットより大事な会談に出かけるぞ」と言って出てきてしまう。一方、直後に韓国の統一地方選挙が予定されていて、ムン・ジェイン大統領与党が圧勝した。(保守系野党は慶尚北道と大邱は死守したのみ。)選挙日程は事前に判っているので、事実上キム・ジョンウンがムン・ジェイン政権に「恩を売った」と言える。

 共同宣言を読んでみると、気になることがあるのは間違いない。最初の方で「トランプ大統領は北朝鮮に安全の保証を提供することを約束し、金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への、確固として揺るぎのない約束を再確認した。」その後に「新たな米朝関係の樹立が朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与すると確信し、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を推進することができると確認し、トランプ大統領と金委員長は以下のことを表明する。」
 
 その「以下の表明」は4項目にわたっている。細かな部分を省いて順に紹介すると、
①新たな米朝関係を樹立することを約束する。
②持続的で安定した平和体制を構築するために共に努力する。
③北朝鮮は朝鮮半島の完全な非核化に向けて努力することを約束する。
④身元特定済み遺骨の即時送還を含め、捕虜や行方不明兵の遺骨収集を約束する。

 「北朝鮮」と訳しているのは日本の新聞で、原文は「DPRK」である。「朝鮮民主主義人民共和国」の英語名の略語だが、本来は呼び方も重要なので原文通り訳すべきだろう。ところで以上を見てみると、DPRKが「約束」しているのは「非核化」ではなく、「非核化に向けて努力すること」である。それに①③④は「約束」しているが、②の「平和体制構築」は双方の「努力」に止まっている。とりあえず努力することはできるが、約束はまだできないのか。

 だから非核化に関する「CVID」がないじゃないかと指摘するする人がいる。なんだそれはと言うと、〝Complete, Verifiable, and Irreversible Dismantlement”の略で、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」のことだ。そんな言葉も知らなかったけど、「検証可能」は必須だが「完全」と「不可逆的」は定義が難しい。原子爆弾を作るためにはウラン濃縮技術と原子炉が必要だけど、原子炉の最終的な解体には何十年もかかることは原発の廃炉と同じ。「完全」な非核化には何十年もかかるわけだが、それまで制裁を続けることはありえない。

 保守派の中には、ここぞとばかり「キム・ジョンウンにだまされてはいけない」と言って回るひともいる。大歓迎して「米国と北朝鮮の信頼感」という人もいるけど、僕が思うにトランプもキム・ジョンウンも信用できないとするのが普通の感覚ではないか。日本政府は「北朝鮮の態度はまだはっきりしない」から米国から購入予定のミサイル防衛システムは予定通り配備を進めるそうだけど、そうすると完全な非核化、ミサイル放棄が実現して困るのはアメリカ側ではないのか。日本に防衛装備を買わせるまで「北朝鮮情勢のあいまい化」を続けながら、アメリカ本国では平和の使徒のようにふるまって中間選挙に臨む。そういうことなのかなと思う。

 本気で交渉する気があるなら、もっとシンガポールにいるのが普通だろう。そそくさと帰ってしまったのは、「今回は顔合わせ」と決めていたからだと思う。そして会って見て、サミットであれこれうるさく指図する「大国」に比べて、礼遇してくれるキム・ジョンウンに親近感を持って帰った。そういうことだと思う。前に書いたように、似た者同士だから相性がいいのかもしれない。今後も様々なことが起こりそうだけど、今後は日朝交渉にも注目が集まる。安倍首相の自民党総裁選とも絡んで注目が必要だ。(安倍氏が退陣した場合、日本国内で強力な政権ができない可能性が高い。親安倍グループが反対キャンペーンをすれば、日朝交渉はつぶれる。だから、当然北側は安倍三選と絡めて日程を考えてくるだろう。)
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