ポール・トーマス・アンダーソン監督の新作映画「ファントム・スレッド」(Phantom Thread)は隅々まで磨き上げられた傑作で、美しくて怖い映画だった。今年のアカデミー賞で、衣装デザイン賞を受賞した他、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演女優賞、作曲賞にノミネートされた。主演のダニエル・デイ=ルイスはすでに3回のアカデミー賞を獲得しているから、さすがに4回目はなかったけれど、圧倒的な迫力で完璧主義者の衣装デザイナーを演じてる。これで俳優を引退すると言ってるそうで、この映画で専門家はだしの技術を身に付けたデザイナーをやるとか…。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/thumbnail/16/6a/a3be9f9fe91410458864bdd0d33a1bac_s.jpg)
最初は時代がよく判らないけど、1950年代初めのイギリスが舞台になっている。レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)は上流階級に大人気の「オートクチュール」(高級仕立服)のデザイナーである。完璧主義者であり、人間関係より「芸術至上主義」的な人物で、仕事の実務面は姉が仕切り、女性パートナーは居つかない。最近疲れ気味みたいだから休暇を取るべきだと姉に言われて、ドライブに出る。そしてホテルのレストランでウェートレスをしていたアルマ(ヴィッキー・クリープス=「マルクス・エンゲルス」のマルクス夫人)と知り合う。
早速アルマを夕食に誘い、それから自宅へ、そして裸にして、どうなるかと思ったら「完璧な身体だ」という。モデルとして、インスピレーションを作家に与える素晴らしい身体を持っているという意味だった。洗練されたレイノルズに憧れて、「玉の輿」に乗れたのかと思うと単に素材に過ぎなかったのか。自宅に住むようになるが、万事は姉は支配している気配で、「恋愛」の対象じゃなかったのか…。そのうち、食べるときに音を立てるアルマに対して、「ジャマをするな」とレイノルズは怒る。
この二人の関係はどうなって行くのかと思いつつ、豪華な衣装を楽しみながら見ていくと…。途中から驚くべき展開になっていく。ベルギー王女のウェディングドレスを頼まれ、そのことしか頭にないレイノルズが突然倒れる。まさに「恋の中毒」とでもいう展開で、どうなるか一刻も目が離せない。亡き母の幻影、姉の存在に呪縛されたようなレイノルズだったけど、アルマが思いもかけず存在感を発揮していく。その成り行きの恐ろしさに、つくづく人間の心の底をのぞきこむ感じだ。
(ダニエル・デイ=ルイス)
映画的な完成度が高く、社会性より作家性の映画だからアカデミー賞などアメリカの賞レースでは不利。僕は「シェイプ・オブ・ウォーター」や「スリー・ビルボード」と同じぐらい、素晴らしく面白くて出来がいいと思った。ポール・トーマス・アンダーソン(1970~)は、いつものように脚本も書いている。ダニエル・デイ=ルイスが2度目のオスカーを受賞した「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007)のように力強い映画だ。その後の「ザ・マスター」「インヒアレント・ヴァイス」は作家性が強かったが、今回はアカデミー作品賞にノミネートされるぐらいの大衆性はある。
アカデミー賞を取ったマーク・ブリッジスの衣装デザインが本当に素晴らしい。ほれぼれと見ていて、これはオートクチュール界の裏話かと思っていたら足をすくわれた。音楽は最近ずっと監督と組んでいるレディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドで、初めてアカデミー賞にノミネートされた。ポール・トーマス・アンダーソンの今までの人脈に中で作られていることが完成度の高さにつながっていると思う。監督はヒッチコックの「レベッカ」をイメージして書いたと言ってるようだが、なるほどという感じ。愛の映画に時代は関係ない。こういう映画もあるということだ。
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最初は時代がよく判らないけど、1950年代初めのイギリスが舞台になっている。レイノルズ・ウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)は上流階級に大人気の「オートクチュール」(高級仕立服)のデザイナーである。完璧主義者であり、人間関係より「芸術至上主義」的な人物で、仕事の実務面は姉が仕切り、女性パートナーは居つかない。最近疲れ気味みたいだから休暇を取るべきだと姉に言われて、ドライブに出る。そしてホテルのレストランでウェートレスをしていたアルマ(ヴィッキー・クリープス=「マルクス・エンゲルス」のマルクス夫人)と知り合う。
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早速アルマを夕食に誘い、それから自宅へ、そして裸にして、どうなるかと思ったら「完璧な身体だ」という。モデルとして、インスピレーションを作家に与える素晴らしい身体を持っているという意味だった。洗練されたレイノルズに憧れて、「玉の輿」に乗れたのかと思うと単に素材に過ぎなかったのか。自宅に住むようになるが、万事は姉は支配している気配で、「恋愛」の対象じゃなかったのか…。そのうち、食べるときに音を立てるアルマに対して、「ジャマをするな」とレイノルズは怒る。
この二人の関係はどうなって行くのかと思いつつ、豪華な衣装を楽しみながら見ていくと…。途中から驚くべき展開になっていく。ベルギー王女のウェディングドレスを頼まれ、そのことしか頭にないレイノルズが突然倒れる。まさに「恋の中毒」とでもいう展開で、どうなるか一刻も目が離せない。亡き母の幻影、姉の存在に呪縛されたようなレイノルズだったけど、アルマが思いもかけず存在感を発揮していく。その成り行きの恐ろしさに、つくづく人間の心の底をのぞきこむ感じだ。
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映画的な完成度が高く、社会性より作家性の映画だからアカデミー賞などアメリカの賞レースでは不利。僕は「シェイプ・オブ・ウォーター」や「スリー・ビルボード」と同じぐらい、素晴らしく面白くて出来がいいと思った。ポール・トーマス・アンダーソン(1970~)は、いつものように脚本も書いている。ダニエル・デイ=ルイスが2度目のオスカーを受賞した「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」(2007)のように力強い映画だ。その後の「ザ・マスター」「インヒアレント・ヴァイス」は作家性が強かったが、今回はアカデミー作品賞にノミネートされるぐらいの大衆性はある。
アカデミー賞を取ったマーク・ブリッジスの衣装デザインが本当に素晴らしい。ほれぼれと見ていて、これはオートクチュール界の裏話かと思っていたら足をすくわれた。音楽は最近ずっと監督と組んでいるレディオヘッドのギタリスト、ジョニー・グリーンウッドで、初めてアカデミー賞にノミネートされた。ポール・トーマス・アンダーソンの今までの人脈に中で作られていることが完成度の高さにつながっていると思う。監督はヒッチコックの「レベッカ」をイメージして書いたと言ってるようだが、なるほどという感じ。愛の映画に時代は関係ない。こういう映画もあるということだ。