「淵に立つ」「よこがお」等で現代日本を代表する若手映画監督となった深田晃司監督の「本気のしるし 劇場版」が公開された。名古屋テレビ放送(メーテレ)の深夜枠で2019年に全10回放送されたドラマを再編集したもので、開催されなかったカンヌ映画祭の公式選定作品に選ばれた。途中休憩を入れて全4時間を超えるが、全く退屈しないで見続けてしまう。どこにでもいるような人たちを描いているにもかかわらず、かつて見たことがないようなドラマだ。
星里もちるの漫画が原作で、2000年から2002年に連載されたという。監督はその時から映像化したかったということだ。東京のおもちゃ商社に勤める辻一路(森崎ウィン)は、会社でもしっかりしているように見えるが、実は本気になったことがない。今も恋愛禁止の職場で「二股」中である。職場で煙たがられている細川先輩とちょっとカワイイと人気のみっちゃんと。
そんな彼がある夜、コンビニで地図をいつまでも見ている不思議な女性と出会う。車で来ていて、その車が近所の踏切で立ち往生している。電車が近づいてきて、何とか辻が救出する。警官が来るが、その時に女は「運転していたのはこの人」と辻を指さす。以後、彼女に振り回されてゆくのである。その女性が葉山浮世(土村芳=つちむら・かほ)だった。土村芳はとても不思議な、迷惑だけど放っておけない、何となく気になってしまう女性を好演している。どこかで見たようだと思うと、「Mother」で長澤まさみの妹役だった人だった。
(コンビニで出会った浮世)
その後レンタカー会社から電話がある。車の中に辻の名刺があったという。お金を少し貸したので、浮世の免許をスマホで写真に撮ってから名刺を渡していた。それも迷惑だが、少しすると今度はヤクザらしき金貸しからも電話がある。借金を返せないと言うので売り飛ばすことになるが、たった120万だから肩代わりする気はあるかというのだ。辻は浮世と何の関係もないけれど、何となく気になるので払ってしまう。相手組織の脇田(北村有起哉)は何度も出てくるキーパーソンだが、辻の心の奥を言い当てる。浮世につい関わってしまうのは、破滅願望だと。
浮世と関わって、辻は細川先輩もみっちゃんも失うことになる。しかし浮世には謎の奥に謎、嘘の奥に嘘が隠されていて、一体何者なのだろうか。愛してしまったのか、親切心なのか、何だか自分でも判らないうちに、どうしようもなく関わっている。仕事もうまく行かなくなるが、何故か最近話題のIT企業からヘッドハンティングの話も…。それもまた浮世絡みだったとは…。一体浮世とは何者か、脇田も興味を持って自動車教習所で一緒だった友人を見つけてくる。その女性と浮世は、技能も学科も不得意で、そこをある男性につけ込まれたのだという。
美しい風景が見られるとか、驚くような映像や編集で見せるわけではなく、ただひたすら浮世をめぐる人間関係だけである。それが面白いから、延々と見飽きない。だが納得できるかというと、どうも今ひとつ納得できない感じがする。現実にいればはた迷惑なだけだと思うが、確かに会社の仕事や女性関係も充実していたわけでもないのだろう。辻の家族関係や履歴が一切出て来ないが、だからこそ成立する物語だ。浮世という女性に惹かれる理由も判らないではないけれど、自分だったら切るかもしれないなと思った。いいのか悪いのか、よく判らないけど。
ついでに書いておくと主演の「土村芳」の名前、「かほ」と読ませるのはきつい。「芳」には「芳しい、良い香りがする」という意味がある。その「香り」から取っているんだと思われるが、「香り」の歴史的仮名遣いは「かをり」である。「シクラメンのかほり」という歌があったが、それも間違い。香りだったら「シクラメンのかをり」でなくてはおかしい。(だから「眞鍋かをり」は正しい。)以上、「かほ」という名前ではなくて、「芳」の訓読みとしてはおかしいなという話である。
星里もちるの漫画が原作で、2000年から2002年に連載されたという。監督はその時から映像化したかったということだ。東京のおもちゃ商社に勤める辻一路(森崎ウィン)は、会社でもしっかりしているように見えるが、実は本気になったことがない。今も恋愛禁止の職場で「二股」中である。職場で煙たがられている細川先輩とちょっとカワイイと人気のみっちゃんと。
そんな彼がある夜、コンビニで地図をいつまでも見ている不思議な女性と出会う。車で来ていて、その車が近所の踏切で立ち往生している。電車が近づいてきて、何とか辻が救出する。警官が来るが、その時に女は「運転していたのはこの人」と辻を指さす。以後、彼女に振り回されてゆくのである。その女性が葉山浮世(土村芳=つちむら・かほ)だった。土村芳はとても不思議な、迷惑だけど放っておけない、何となく気になってしまう女性を好演している。どこかで見たようだと思うと、「Mother」で長澤まさみの妹役だった人だった。
(コンビニで出会った浮世)
その後レンタカー会社から電話がある。車の中に辻の名刺があったという。お金を少し貸したので、浮世の免許をスマホで写真に撮ってから名刺を渡していた。それも迷惑だが、少しすると今度はヤクザらしき金貸しからも電話がある。借金を返せないと言うので売り飛ばすことになるが、たった120万だから肩代わりする気はあるかというのだ。辻は浮世と何の関係もないけれど、何となく気になるので払ってしまう。相手組織の脇田(北村有起哉)は何度も出てくるキーパーソンだが、辻の心の奥を言い当てる。浮世につい関わってしまうのは、破滅願望だと。
浮世と関わって、辻は細川先輩もみっちゃんも失うことになる。しかし浮世には謎の奥に謎、嘘の奥に嘘が隠されていて、一体何者なのだろうか。愛してしまったのか、親切心なのか、何だか自分でも判らないうちに、どうしようもなく関わっている。仕事もうまく行かなくなるが、何故か最近話題のIT企業からヘッドハンティングの話も…。それもまた浮世絡みだったとは…。一体浮世とは何者か、脇田も興味を持って自動車教習所で一緒だった友人を見つけてくる。その女性と浮世は、技能も学科も不得意で、そこをある男性につけ込まれたのだという。
美しい風景が見られるとか、驚くような映像や編集で見せるわけではなく、ただひたすら浮世をめぐる人間関係だけである。それが面白いから、延々と見飽きない。だが納得できるかというと、どうも今ひとつ納得できない感じがする。現実にいればはた迷惑なだけだと思うが、確かに会社の仕事や女性関係も充実していたわけでもないのだろう。辻の家族関係や履歴が一切出て来ないが、だからこそ成立する物語だ。浮世という女性に惹かれる理由も判らないではないけれど、自分だったら切るかもしれないなと思った。いいのか悪いのか、よく判らないけど。
ついでに書いておくと主演の「土村芳」の名前、「かほ」と読ませるのはきつい。「芳」には「芳しい、良い香りがする」という意味がある。その「香り」から取っているんだと思われるが、「香り」の歴史的仮名遣いは「かをり」である。「シクラメンのかほり」という歌があったが、それも間違い。香りだったら「シクラメンのかをり」でなくてはおかしい。(だから「眞鍋かをり」は正しい。)以上、「かほ」という名前ではなくて、「芳」の訓読みとしてはおかしいなという話である。