石井裕也監督の「アジアの天使」という映画をやっている。石井監督は今年になって「茜色に焼かれる」という傑作があったばかり。まあ「アジアの天使」の方が先に撮影していたんじゃないかと思うけど、一人の監督の力作を続けて見られるのはうれしい。この映画は全編韓国ロケで作られた作品で、主要な撮影スタッフも韓国人がやっている。石井監督とパク・ジョンボム監督(「ムサン日記〜白い犬」)が2014年の釜山映画祭で知り合って、その関係でパク監督がプロデューサーを務め、出演もしている。
「茜色に焼かれる」は主演を務めた尾野真千子が全体のバランスを崩すほどの異様な存在感を発揮していた。それがダメと言いたいのではなく、その力業が日本の現在に送るメッセージとして心に残るのである。この「アジアの天使」も設定や人物が日常的には理解不能なレベルで、何なんだろうと思いつつも魅惑されてしまうような映画だった。冒頭で日本から来た子連れの青木剛(池松壮亮)がタクシーを放り出される。混んでいるから後は歩いてくれと言うんだけど、言葉が判らないから事情も理解不能。彼は兄に会いに来ているのだが、目的地と思われるところに来ても兄はいなくて部屋には韓国人がいる。
(兄のオダギリジョーと弟の池松壮亮)
後で判ってくるけれど、池松は妻を若くして亡くした売れない小説家である。兄(オダギリジョー)が韓国で成功しているからぜひ来いと言うから、絶望のあまり家もたたんで韓国に来たのである。韓国には仕事もあるというから来たのに、兄は怪しげな化粧品を売っているだけ。部屋にいた監督人は同僚だというが信用出来ない。兄を演じるオダギリジョーがまたいつものように「いい加減で頼りない」役柄を絶品で演じている。それにしても、幼い子どもを連れて韓国に来ちゃうというのに、言葉を全然勉強せずに来るなんて信じられない。
ある日兄と商品の仕入れにショッピングセンターに出かけると、そこでは歌手が歌っているが誰も聞いていない。この歌手が元アイドルのチェ・ソル(チェ・ヒソ)で、そこからソル一家の物語も語られる。幼くして父母を失い、ソルは兄と妹を養うために芸能活動を続けていた。青木がソルの歌に魅せられている間に、兄と子どもが先に食事をしてしまう。そこで一人で食事をしに行くと、ソルも一人で食事に来る。青木が挨拶しても、言葉が判らないからバカにしてると思う。(チェ・ヒソは「金子文子と朴烈」の主演女優で、幼い頃に日本にいたこともあるから本当はこの程度の日本語は判っているはずだけど。)
(チェ・ヒソ演じるソル)
兄の相棒は予想通り財産を持ち逃げして兄は一文無しになるが、東北部の江陵(カンヌン)に行けばワカメが手に入るという。電車で向かうと、そこには母の墓参りに出かけるソル一家も乗っていた。子どもを介して知り合いになって、ついトラックで一緒に墓探しに付いていく。ソルの兄は場所を知ってるというが、道に迷ってしまう。そんな時にソルが病気になってしまい…。筋の説明で長くなったが、こうして韓国の田舎を舞台にしたロード・ムーヴィーになっていくのである。そこが非常に魅力的で、キム・ジョンソンの撮影も見事だ。
ソルの兄は途中まで歴史問題もあるし、日本人とそんなに仲良く出来ないなどと言っているが、そのうち言葉も判らぬながら魂の通う関係になる。母親の墓を守ってくれていた親戚に挨拶しようと出掛けていくと、韓国式の宴会が始まる。青木とソルも好い関係になるが、その時子どもが行方不明になる。みんなで探し回るが結局警察に保護されていた。それから朝まで海辺で過ごすと、皆がいろいろと思いがあふれてくる。それでも兄のオダギリジョーは最後までいい加減で、親戚一家の娘こそ運命の人だなどと言い出す始末。ここに出て来る人々は市井に生きる人々で、頭で考えた「日本人」「韓国人」ではない。
石井監督の演出も韓国人俳優には最初は理解されなかったらしい。今まで組むことが多かった池松壮亮を主演に迎えて、石井作品の融通無碍な感じが出ている。段々韓国人側も石井監督のムードに慣れてきた感じがする。とにかく韓国の風景が僕には懐かしく、その独特な魅力はぜひ多くの人に見て欲しいと思う。観念的に思う時の韓国とは少し違う庶民の韓国がそこには描かれる。題名の「アジアの天使」とは何かというと、本当にアジアの天使が出て来るのには唖然。青木兄弟もソルも天使を見ていた。石井脚本の無理が韓国で生きている。
「茜色に焼かれる」は主演を務めた尾野真千子が全体のバランスを崩すほどの異様な存在感を発揮していた。それがダメと言いたいのではなく、その力業が日本の現在に送るメッセージとして心に残るのである。この「アジアの天使」も設定や人物が日常的には理解不能なレベルで、何なんだろうと思いつつも魅惑されてしまうような映画だった。冒頭で日本から来た子連れの青木剛(池松壮亮)がタクシーを放り出される。混んでいるから後は歩いてくれと言うんだけど、言葉が判らないから事情も理解不能。彼は兄に会いに来ているのだが、目的地と思われるところに来ても兄はいなくて部屋には韓国人がいる。
(兄のオダギリジョーと弟の池松壮亮)
後で判ってくるけれど、池松は妻を若くして亡くした売れない小説家である。兄(オダギリジョー)が韓国で成功しているからぜひ来いと言うから、絶望のあまり家もたたんで韓国に来たのである。韓国には仕事もあるというから来たのに、兄は怪しげな化粧品を売っているだけ。部屋にいた監督人は同僚だというが信用出来ない。兄を演じるオダギリジョーがまたいつものように「いい加減で頼りない」役柄を絶品で演じている。それにしても、幼い子どもを連れて韓国に来ちゃうというのに、言葉を全然勉強せずに来るなんて信じられない。
ある日兄と商品の仕入れにショッピングセンターに出かけると、そこでは歌手が歌っているが誰も聞いていない。この歌手が元アイドルのチェ・ソル(チェ・ヒソ)で、そこからソル一家の物語も語られる。幼くして父母を失い、ソルは兄と妹を養うために芸能活動を続けていた。青木がソルの歌に魅せられている間に、兄と子どもが先に食事をしてしまう。そこで一人で食事をしに行くと、ソルも一人で食事に来る。青木が挨拶しても、言葉が判らないからバカにしてると思う。(チェ・ヒソは「金子文子と朴烈」の主演女優で、幼い頃に日本にいたこともあるから本当はこの程度の日本語は判っているはずだけど。)
(チェ・ヒソ演じるソル)
兄の相棒は予想通り財産を持ち逃げして兄は一文無しになるが、東北部の江陵(カンヌン)に行けばワカメが手に入るという。電車で向かうと、そこには母の墓参りに出かけるソル一家も乗っていた。子どもを介して知り合いになって、ついトラックで一緒に墓探しに付いていく。ソルの兄は場所を知ってるというが、道に迷ってしまう。そんな時にソルが病気になってしまい…。筋の説明で長くなったが、こうして韓国の田舎を舞台にしたロード・ムーヴィーになっていくのである。そこが非常に魅力的で、キム・ジョンソンの撮影も見事だ。
ソルの兄は途中まで歴史問題もあるし、日本人とそんなに仲良く出来ないなどと言っているが、そのうち言葉も判らぬながら魂の通う関係になる。母親の墓を守ってくれていた親戚に挨拶しようと出掛けていくと、韓国式の宴会が始まる。青木とソルも好い関係になるが、その時子どもが行方不明になる。みんなで探し回るが結局警察に保護されていた。それから朝まで海辺で過ごすと、皆がいろいろと思いがあふれてくる。それでも兄のオダギリジョーは最後までいい加減で、親戚一家の娘こそ運命の人だなどと言い出す始末。ここに出て来る人々は市井に生きる人々で、頭で考えた「日本人」「韓国人」ではない。
石井監督の演出も韓国人俳優には最初は理解されなかったらしい。今まで組むことが多かった池松壮亮を主演に迎えて、石井作品の融通無碍な感じが出ている。段々韓国人側も石井監督のムードに慣れてきた感じがする。とにかく韓国の風景が僕には懐かしく、その独特な魅力はぜひ多くの人に見て欲しいと思う。観念的に思う時の韓国とは少し違う庶民の韓国がそこには描かれる。題名の「アジアの天使」とは何かというと、本当にアジアの天使が出て来るのには唖然。青木兄弟もソルも天使を見ていた。石井脚本の無理が韓国で生きている。