尾形修一の紫陽花(あじさい)通信

教員免許更新制に反対して2011年3月、都立高教員を退職。教育や政治、映画や本を中心に思うことを発信していきます。

最高裁裁判官の国民審査はどうするか

2021年10月25日 22時43分04秒 |  〃  (選挙)
 衆議院選挙と同時に最高裁判所裁判官国民審査も行われる。これは最高裁判所の裁判官を国民が罷免できる唯一の制度である。最高裁は多くの判決を通して国民に大きな影響を持っている。最高裁は司法権の最高機関だから、多くの国民が関心を持つべきだと、まあタテマエではそうなるけど、じゃあ現在の最高裁長官の名前を知っているかと言われてもすぐに答えられる人は少ないと思う。現在は第19代の大谷直人長官だが、数年で交代していくから覚えていられない。大谷長官も2022年6月までである。

 最高裁裁判官は70歳が定年なので、大谷長官も来年で定年になるわけだ。最高裁裁判官は40歳以上から任命されるが、戦後の最高裁発足直後は別にして、もう半世紀以上も60歳以上しか任命されていない。そして最高裁裁判官は10年に一度国民審査を受けると決められているから、最高裁裁判官にとっては人生で一度の国民審査である。

 でも国民審査で罷免されることはない。今まで一度もないし、今後もないだろう。我々は衆議院議員の選挙に行くのであって、小選挙区の個人名と比例代表の政党名を書いた上、誰も知らない裁判官の名前を書いた紙を渡されても、どうしたら良いのか判らない。罷免したい裁判官の名前に「×」を付けるか、白紙のままかのどちらかなので、つまり「○」を付ける方式ではないから、多くの人は何も書かないまま投票する。議員選挙では「白紙」は棄権を意味するが、国民審査では「白紙」は「罷免しなくても良い」の意味なのである。

 それで良いのかという問題意識から、今回は「主権者である私たちが最高裁を変えよう」というリーフレットが作られた。作ったのは「日本民主法律家協会・国民審査プロジェクトチーム」である。選択的夫婦別姓正規・非正規の格差是正冤罪(大崎事件、袴田事件)、一票の格差の4つの観点から、各裁判官がどのように関わっているかを検証して、望ましくない裁判官を指摘している。他にも重要な裁判はあるだろうし、最近任命されたばかりで最高裁判決への関わりがない人もいる。しかし、参考にはなるので、それを基に検討してみたい。(なお、このリーフレットは「澤藤統一郎の憲法日記」に教えられた。)
(リーフレット)
 最高裁の裁判官は、内閣が任命する。アメリカの場合、上院で承認される必要があり、非常にシビアな聴聞会が開催される。日本は日銀総裁や公正取引委員会委員長などは国会の同意が必要なのに、最高裁裁判官のような重大な職責を持つ役職が単に内閣だけで任命できてしまう。裁判に訴えても何だか政府よりの判決が多いような気がするのは、一つにはこの任命方法があると思う。(これに関しては憲法改正が必要。)とにかく内閣が任命する最高裁裁判官に対して意見を表明できるのは国民審査だけなのである。

 最高裁の裁判官は全部で15人いる。15人全員で裁判することもあるが、それは憲法上の新しい判断などの場合で、通常は第一、第二、第三の三つの小法廷に分かれて裁判をしている。15人の内訳は、法律で決まっているわけではないが、今までの慣例として大体固定化されている。裁判官出身が6人、弁護士出身が4人、検察官出身が2人、行政官出身が2人、学者出身が1人というのが、現在の大体の出身枠である。(昔は裁判官と弁護士枠が同じ5人だった。)以下に今回の対象裁判官を列記するが、カッコ内には出身と所属小法廷、年齢。

深山卓也(裁、第一、67) 合憲  
三浦守(検、第二、65)  合憲
草野耕一(弁、第二、66) 違憲
宇賀克也(学、第三、66) 違憲
林道晴(裁、第三、64)  合憲
岡村和美(行、第二、63) 合憲
長嶺安政(行、第三、67) 合憲
安浪亮介(裁、第一、64)
渡邉惠理子(弁、第三、62)
岡正晶(弁、第一、65)
堺徹(検、第一、63)

 合憲、違憲と書いたのは、2021年6月23日にあった「選択的夫婦別姓訴訟」の憲法判断である。最高裁では多数意見だけでなく、少数意見も公表される。最後の4人は7月以後の就任なので、裁判に関与しなかった。いろんな裁判があって、それぞれが様々に関与している。調べてみれば、いろんなサイトがある。僕は夫婦別姓問題だけで判断するのもどうかなと思う。(憲法判断は難しい論点がいくつかあるし、さらに合憲判断をした裁判官に×を付ける運動をすると、今度は違憲判断をした裁判官に×をしようという極右活動家の運動を誘発しかねない。)
(国民審査のモデル用紙)
 しかし、僕はこの間の最高裁の判断の中にどうしても納得できないものがある。それは大崎事件の再審取り消し決定である。当時「大崎事件再審取り消しー信じがたい最高裁決定」(2019.6.28)を書いた。この決定に関与した深山卓也裁判官は「×」を付けることにする。また東京高裁長官から最高裁入りして、あらゆる判決で多数意見、つまり保守的な判断を繰り返している林道晴裁判官も「×」を付けようかと思う。また検察官出身の三浦守裁判官は、林裁判官と同様に多数派を形成しているだけでなく、かつて大阪高検検事長として湖東病院事件の再審開始決定を最高裁へ特別抗告した責任者である。それは最高裁で棄却され、再審が開かれ無罪判決が出た。無罪の事件を引き延ばした責任は大きいと思う。

 ということで、3人に×を付けようと思うのだが、どうせ罷免には至らないので他の人に勧めるつもりもない。もっといろいろの裁判を調べてもいいんだけど、覚えていられない。4年間衆院選がなかったため、国民審査が11人というのはかつてない多さである。衆院選が優先だが、ちょっとヒマがある人は調べてみてはどうかなと思う。せっかくの制度なんだから。まあ参考ということで。
コメント (2)
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