星のひとかけ

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ワレリー・ゲルギエフ指揮 ウィーンフィルハーモニー管弦楽団@サントリーホール

2020-11-18 | LIVEにまつわるあれこれ
ちゃんとした感想など書けないけれど、 思い出だけ残しておこう…

あの日 新聞を開いたとき、 あの広告欄が輝いて見えました。。 (え!? ウィーンフィル来るの? 来れるの??) (追加公演ですって…!) (チケット買えるかも……)

、、なんだか 大戦中の封鎖された灰色の街にオーケストラが来てくれるような、、 いつかの 「ショスタコーヴィチ 死の街を照らした交響曲第7番」という番組で観たような 奇跡の演奏会みたいな、、 そんな気持ちで追加公演のチケットを求めました。。

、、だって今年、、 本当に、 ほんとうは、、 ベルリンフィル in Tokyo 2020 を観ることを夢見ていたのだもの、、 ドゥダメル指揮で。。 新宿御苑の一万人コンサートで第九を聴くのを(抽選に当たるかもわからないのに) ずっと楽しみにしていたのだもの。。 その夢も泡と消えて…  、、たくさんの他のコンサートもすべて中止になって、、

11月に楽しみにしていた、 東響さんの公演も 指揮者のノットさんが来日できなくなってしまったし…… 

 ***

ゲルギエフさんの指揮のウィーンフィルを見に行けるなんて、 たぶん一生に一度かぎりのことかもしれないので、 数日前から緊張しっぱなしでしたが、 でも、 (ウィーンフィルだから…)と思って聴くのはよそう、 とだけ決めて、、 サントリーホールの席につき、、

ステージの上にぽつりぽつり 楽器の音を出している楽団員さんを眺めます。。 ハープ、、 第一ヴァイオリンさん、、 木管さん、、 

(・・・ ! ・・・)

音出しのその 音 がすでに違う、、 なに これ…?


この (何これ?) は、そのあとも幾度となく頭をかけめぐりました。。



ドビュッシー:『牧神の午後への前奏曲』
ドビュッシー:交響詩『海』~3つの交響的スケッチ~

ストラヴィンスキー:バレエ音楽『火の鳥』(全曲、1910年版)

 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 指揮:ワレリー・ゲルギエフ



「牧神」は 昨年8月、PMFでゲルギエフさんの指揮で一度聴いているのですが 感想を書いてなくて、、 今 過去ログを見たら、 どうも私の具合が悪かったみたいで何も書き残してない。。 おぼろげな記憶を辿って思うに、 PMFの演奏もとても繊細で音楽としてうっとりと楽しめた覚えがあるのだけれど、、 今回は気がつけば終わってしまっていた「牧神」でした、、

なんだろう、、 媚薬の粉がきらきらするようなハープや、 ニンフの歌声のようなフルートや、、 今、 ハープやフルートと書いていますけれど、 何て言ったらいいのかな、、 楽器が奏でられているということに気づかない感じ、、。 楽器など見たことも無い人間が 目の前に不思議な弦とか箱とかを見て、 そしたらそこから えも言われぬ美しい音が出てくる、、 それを初めて目にしたらきっと魔法と思うでしょう。 そんな感じ。

え? え…? と思っているうちに「牧神」は終わってしまい、、 この驚きがますます高まるのが次の「海」

これはもう 「海」という音楽でなくて 「海」でした。 波打ち際の泡、、 波頭できらめく太陽、、 うねり、、 風、、

魔法の箱や 魔法の杖を持った人たちが 腕をさっと動かすと、 そこに水が生まれ、 波がうごき、 泡がきらめく、、 (前にも書きましたが)難聴の私には 音の方位はほんとうなら存在しないはずなのに、 音の場が見える、、 こちらに泡、、 あそこに波、、 まばゆい光、、 

前回、 これはもう 音 ではなく、 美 なのだな、、 と書きました。 この世界の美しい自然が奇跡であるように、 美そのものが眼前にあらわれている奇跡。

ヴァイオリンも、 金管も、 打楽器も、、 みんな見知っている楽器なのにどれも初めて耳にするもののように 心が驚く。 金管楽器からは自然の光がこぼれているようだったし… 打楽器はまるで金でできたシャボン玉がパンと目の前で弾けるみたいな… 、、音を聴いている という感覚じゃないの。 そこ、 ここ、、 と音の場に魔法がつぎつぎあらわれるみたい。 そしてクライマックスになると全体の映像と色彩がすべてひとつになって、、 マスクをしたまま(たぶんぽかんと口を開けたまま) 涙がこぼれてきました。

休憩時間になっても動けない…  (凄いねぇ… ほんとにすごいんだね…) って、 そんな言葉しか出てこない、、

今回、 別プログラムがチャイコフスキーの「悲愴」で、 そちらも聴いてみたかったと最初思いましたが、 「牧神」「海」 そして「火の鳥」、、 まさに夢幻の世界。 魔法の世界に浸っているようでした。

「火の鳥」の大団円の飛翔、、 音が大きいのにすべてがクリアで、 重なり合うパーカッション陣も コンマ何秒まで一致しているみたいで、、 (でも正直そんなことよりも) ただただ幸せで、、 (もしどこかに天国があるとしても 天国なんか行かなくてもいい… わたしここにいる… このままずっとここにいたい…) って思っていました。 

病に息をつめた日々の中で、 すばらしい魔法で「火の鳥」を見せてくれたオーケストラ…

感謝と、、 感動と、、 


でも、

ほんとうに驚いたのは、 そのあとだったのです。


アンコールの 「皇帝円舞曲」 ヨハン・シュトラウス二世。 まさに (何これ~~~~) !!! 
ここまででも十分驚きの連続だったのに、、 (こ、これがウィーンフィルだったのかぁ…) と。。 すべての演奏者が揃った時のなんという精度。 なんと華やかな音色。。 この瞬間、 サントリーホールは楽友協会。 弦を操る楽団員さんたち、 みなさんすごく楽しそうに身体を大きくうねらせて、、

このときばかりは 指揮のゲルギエフさんが目に入ってきません。。 毎年のお正月にTV越しにうっとりとこれを聴いていたのに、、 今聴いている これは現実? 夢?  、、観衆みんながそう驚いて 感激しているのを 楽団員さんたちは知ってて愉快に思っているかのように、 ほんとに楽しそうに弾いていらっしゃいました。

このオーケストラのもっとも得意な、 もっとも熟練した、 その演奏というのは もう別次元のものなんだなぁ… とただただ驚き。。 ほんとうに幸せなワルツでした。 


 ***

ウィーンフィルの皆さんは最終日の公演の後すぐに帰国されて、 でもウィーンではロックダウンが続いていて、 帰ってからも演奏の叶わない日々が続き、、 でも 来年のニューイヤーコンサートはやるつもりでいるとのこと。。 絶対にやって欲しい。 お客さんのすべてが二週間の自粛期間をとったとしても、 全員の検査をしてでも、 それでも開催して欲しい。 世界中に待っている人たちがいると思うし。。

レポート >>https://ontomo-mag.com/article/report/after-wphweek2020/

       https://ebravo.jp/archives/69626


今回の来日のインタビューではないのですが、 和樹さん、 直樹さんのヘーデンボルク兄弟のインタビュー記事をみつけました。 「辛いときに聴く音楽」のお話。。 このインタビューを受けたときには、 二年後の世界がこんなコロナ禍で 世界中のひとびとが長くつらい時間を耐えていかなければならなくなるなんて、 誰も思いもしなかったでしょうけれど、、

 文春オンライン >>https://bunshun.jp/articles/-/9402

インタビューの中で 「舞踏会の音楽」について、、 長い冬、 死の季節を乗り越えるための… という部分があって、 成程と思いました。 今回のアンコールの あの胸躍るシュトラウスのワルツ、、 それをコロナ禍の今、 過酷な行程を経て来日して下さったウィーンフィルで聴けたこと、、


このつらい季節を乗り越えて、 来年またニューイヤーコンサートで聴けますように。。


あの 魔法のような、 目の前に音の光景がまざまざと浮かび上がる歓び、、 それは 録音とか配信では同じように体感できるものでは決してないから、、 だから 再び 必ず、、 またいろんな演奏会がたくさんの人の前で行なえる世の中になって欲しい、、 なるはずだと信じてる。。


そのために また耐えていこうと思う。


音は消せても、 美はけっして消せないから。。


永遠に消えないから。。