星のひとかけ

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カナダ建国の歴史と家族の物語(その3):『ノーザン・ライツ』『バード・アーティスト』ハワード・ノーマン著

2024-08-20 | 文学にまつわるあれこれ(ほんの話)
7/24 に カナダ建国の歴史と家族の物語(その2)を書いて以来 ほぼ1カ月経ってしまいました。 立秋も過ぎましたけれど まだまだ猛暑に台風にゲリラ豪雨に…

そろそろ暑さから逃れて 移住したくなってしまいますね(笑 ・・・それはムリなので せめて物語で秋の似合う大自然のなかへ。。



『ノーザン・ライツ』ハワード・ノーマン著 川野太郎・訳 みすず書房 2020年


舞台は1950年代の カナダ マニトバ州北部。 前回のトロントがあるオンタリオ州の西隣。けれども五大湖に面した前回の地方とはまったく逆で、 ずっとずっと北、北極海につながるハドソン湾に近い地方の話です。

内容はみすず書房のページにリンクしておきます(>>

たった1軒だけの村。 母と息子のノア、 父は地図製作者なのだけれど、常に家を留守にしていて帰ってくるのはクリスマスとほんのたまに予告も無くふらり、と。。 

この本を読みはじめた時、(日本て北緯何度まで?)(北緯60度って北極圏?)とか私が質問するので煩かったのか、 家族に昔の地図帳をほいと渡されて、、それでカナダのマニトバ州を見たのですが、そこには南にウィニペグという都市と 北のハドソン湾沿いにチャーチルという町と、たった二つしか町が無い。 ウィニペグ以北へ通じる鉄道も書いてない。。 マニトバ州の北部って人いるの? 住めるの…? それで google mapを見てみたのですけど、 マニトバ州を拡大、拡大、、いくら拡大しても次から次と大小の湖が浮かび上がってくるばかり、、

上記のみすず書房のページに 本の目次が載っていますが、そこにある「パドゥオラ・レイク」という湖も(あまりにも湖が沢山あって)ついぞ見つけられませんでした。。

湖ばかりの地で鉄道も見当たらなく、、 この本では交通や物流の手段は「郵便飛行機」。 水上にも着水できる郵便機がいくつもの湖をまわって集落ごとに荷物を届ける。 時には人を乗せて別の集落へ連れてってくれる。 

『ノーザン・ライツ』の冒頭で、母とたった二人で暮らしていたノアの元へ、ある日 両親を亡くした従妹がやって来て新しい家族として暮らし始める。 少年になったノアは、同年代の子がいる別の集落へ夏のあいだだけ行ってその子の家で暮らすようになる、、 でもその子を育てているのはほんとの両親ではなくて、、。

7月に書いたカナダの物語『優しいオオカミの雪原』(>>)も、 『ライオンの皮をまとって』(>>)も、 産みの両親以外のひとと暮らす家族関係が描かれていましたが、 『ノーザン・ライツ』でも〈家族〉とは何だろう… と考えさせられます。 
ほとんど不在のノアの父親、 父と母の夫婦という関係、 親を亡くした従妹、 友だちの村で過ごすノアを育ててくれる人々、 狩猟をし、デコイを作る男、 村の商店主、 先住民の教え、、。 極北のちいさな村では みんなが少しずつ繋がって 少しずつの家族のように支え合っている。 

ある時 ふいに無線機を持って帰って来た父(そしてすぐにまた行ってしまうのですが…) 無線機をラジオの周波数に合わせて都市トロントのラジオを聞く。 本の朗読の時間、 音楽の時間、、 ラジオはノアの学校にもなる。。 村で唯一の商店で開くパーティー、 無線機から流れるラジオの音楽。 パーティーにはやって来てもダンスには加わらず、 でも共に時を過ごして帰っていく先住民の人たち。

ノアの成長と、 極北の暮らしと自然、、 悲劇も起きるのだけれど でも物語はどこかあたたかく、 登場人物はそれぞれに真摯で、 うつくしい。

後半の物語は、 村を離れるという母の決断、 大都会トロントに舞台を移して、 潰れかけた映画館を買い取って そこで家族の新たなスタートをするノア達の物語になります。 消えた父親のその後や、、 ラストには ノアの少年時代の記憶とのちょっとしたミラクルな出会いも。。 

読み終えて温もりの残る読書でした。

 ***


『バード・アーティスト』ハワード・ノーマン著 土屋晃・訳 文藝春秋 1998年

同じハワード・ノーマンの小説。 当初は『ノーザン・ライツ』だけ読むつもりだったのですが、 その紹介文に 「デヴィッド・ボウイが「人生を変えた100冊」に選んだ長編小説『バード・アーティスト』の作者ハワード・ノーマン」と書いてあって、 ノーザン・ライツの紹介なのに何故わざわざ『バード・アーティスト』の作者、と書いてあるんだろう… と気になって、、 

こちらの舞台は、 1910年代の まだイギリスの植民地だった時代のカナダ東海岸、 ニューファンドランド島。 本の目次と、 物語の冒頭部分が紀伊国屋書店のページに載っていますので そちらにリンクします(>>https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784163180502

『ノーザン・ライツ』と同様に、『バード・アーティスト』も ファビアンという男の少年時代からを描く、 ファビアンとその家族の物語なのですが、 物語の冒頭で 「私は灯台守りのボソ・オーガストを殺したが…」という告白があり、 それによって読む者はこの小説が穏やかなものではない、 ファビアンの闇の部分にも触れる心の準備をさせられます。

ニューファンドランド島は美しい島。 パフィンをはじめとする水鳥の宝庫。 ファビアンは幼い時から鳥を描くことに魅せられ、 ただひたすら鳥の絵を描きながら成長します。 、、大自然はとても美しいはずなのに なんとなくファビアンに寄り添えない印象なのは、 ファビアンには主体性が感じられないこと。。 鳥をみつめて描く、、 そのままに ファビアンは周囲の出来事をただ見つめている。 言われるまま、というか流れのまま。 恋人とも、家族とも、 結婚までも、、 特になにかを主張するでもなく言われるまま…

(理解できない…)と思う部分がとても多くて、、 ファビアンの主体性の無さもそうですが、 ファビアンの母の行動も、 家族の崩壊を招いたその後の生き方も、、。

『ノーザン・ライツ』のノアの物語の穏やかさは それはリアルな物語ではなく、 どこか夢物語なのだとでも作者は言おうとしているかのように、 『バード・アーティスト』では不可解な心理や不正やあやまちが描かれます。

その一方で、 この村に生きる人物のなかには、 ひとすじの真っ当さを感じられる登場人物もいて、、 作者は 罪を背負うことになる主人公のほかに、 誰にかえりみられることもない代わりに自分にとっての真実を保って生きている人間をも書こうとしたのかな、とか思ったり。。 

「デヴィッド・ボウイが「人生を変えた100冊」に選んだ…」というのも含めて (わからない…よくわからない…) と思いながら読んでいました。。 それが人間のリアル、 人の生き様のリアル、、 なのかもしれませんけれど…。

 ***

ところで…

昨夜の満月 スタージェンムーンでしたが、 カナダのトロントにほど近いところに スタージェン湖というのがあるそうです。

このSturgeon Lakeに限らず、 トロント近郊にもたくさんの湖があって、 湖畔にはコテージなどがあって、 大都市トロントに暮らす人たちは休日にコテージを借りて キャンプをしたり、 湖でカヌーを漕いだり、 フィッシングをしたり、、ですって。。 羨ましいな。。

、、なんて言う私も 子供時代には湖で遊んだ記憶があります。 全面結氷した湖でスケートしたことも何度も。。 森のなかの湖と真っ青な冬の空と真っ白な湖の雪とアイスリンク。 それは今まででもっとも美しい記憶のひとつ。 どこまでも透明な空気。 氷のちょっとした凸凹と、 そこに引っかかるスケート靴のエッジ。 ゴゴゴ…と湖の氷が軋む幽かな音。
温暖化のすすむ地では これから先もう二度と体験できない〈湖からの恩恵〉でした。



あぁ… 湖に行きたくなりました…









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