白塗りの乙羽信子は道化のメイクというべきだろう。「道」のジュリエッタ・マシーナをいやでも思わせるわけだが、作られたのは1954年で「道」と同じ。シンクロニシティというか。
新藤兼人の、リアリズムだけにとどまらない一種のデフォルメ志向がこの頃からはっきり現れている。
推測だけれど、監督になる前、シナリオライターとしてやっていた以前は水谷浩のもとで美術部に所属していて、画も描けるというのが関係している気がする。「鬼婆」の頃など綿密な絵コンテを用意していた。もちろん例外はあるが、画を描ける監督はデフォルメに寄ることが多い。
工場の組合活動と資本家の対立が割とがっちり描かれ(組合がまだそれほど御用組合化していない)、そこからはみ出た連中という点で、ルンペン・プロレタリアというほぼ死語になった言葉がふさわしい。
宇野重吉がヒロインをだますのに学生だから金が必要だとわざわざ向上心をうたうのも、学生運動前という印象が強い。
信欽三扮する元役者は、明らかにゴーリキーの「どん底」から来ている。
居酒屋のシーンでワンカット大滝秀治らしき顔が写る。
(☆☆☆★★)