主人公の作家志望の青年の名前が村上というのが、なんだかおかしくていけない。
原作が発表は1982年、映画は84年で、村上春樹はまだ「羊をめぐる冒険」や「パン屋襲撃」くらいしか著名な作品を書いていないのだが、原作の立松和平は1948年生まれの村上のひとつ上くらい(資料によってばらつきがある)
しかし、学生運動の記憶が底流にあるのは共通しているよう。
主人公は小説家志望の青年なのだが、まだ古い感じの文士や文壇が生きていた時の小説家のイメージと、現代風の(30年前の現代だが)モラトリアムの両方の面を併せ持っている。
音楽は山下洋輔で、BGMというのにとどまらず、まだ学生運動をやっていた時代やアーティスト志望の青年たちの集まりの空気を出す役割も担っていて、良くも悪くも画面そっちのけで響いている。
田舎出身のいささか粗野な青年と、東京生まれの育ちのいいお嬢さんの恋愛を描いているわけだが、どこか田舎出身というのがコンプレックスというより押しの強さに転化させているようなのは、原作者その人のイメージと写ってしまう。
監督は橋浦方人。かなり期待された人のはずだが、どういうわけかぴたっと劇映画から足を洗ってしまった。