prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「バビロン」

2023年02月22日 | 映画
「雨に唄えば」のサイレント映画からトーキ―へ移行するゴタゴタの描写はすごく笑えるんだけど、こちらのゴタゴタは全然笑えない。
センスの問題もあるのだが、それ以前にサイレント映画の表現というのがどんなものだったのか、わかるように押さえていないからではないか。
初めからすごくゴージャスな音(ドルビーアトモスで見た)が鳴り響いていて、それ自体はいいのだれどサイレントって感じがまるでしない。
サイレント映画の字幕を描いて撮影しているところは良かった。

バビロンというタイトルからしてケネス・アンガーの「ハリウッド・バビロン」を意識しているのは明らかだが、あそこのたとえば晩年のジュディ・ガーランドの写真一発の凄みは再現不可能だろう。

象が出てきたり、バカみたいな享楽的なパーティーが開かれたりなどはフェリーニ的になるモチーフだと思うけれど、ああいう造形力は真似できないし、エリッヒ・フォン・シュトロハイムが秘密主義で撮影しているスタジオから歯形や鞭の跡がついた出演者が放心状態で出てきたとかいう狂気がかった退廃は、コンプライアンス下で製作される現代では描くのはムリだろう。
何かと隔靴掻痒な感じが強い。
お金かかってるねー、と感心はするが。スカトロ趣味もなんだか秀才監督としては柄じゃない感じ。

イノセントな青年が狂気がかったハリウッドを地獄めぐり式に体験していくという体裁は「イナゴの日」風でもあるけれど、あそこまでグロテスクに踏み込むと今度は客が引くという問題もある。

劇中映画の監督が女だったり アジア系が出演していたり、使用言語も英語に限ずスペイン語やイタリア語が出てきたいと、今の映画だから 多様性 には大いに気を使っている。

マーゴット・ロビーはスリムすぎて往年のハリウッド女優の体形ではないなーと思って見ていた。