ピアノの教師に通っている女の子(スーザン・ストラスバーグ)が戯れに柵にさわったりして、家が近づくと調子が一転して近所の人たちが遠巻きに囲んでおり、何かと思ったらナチスが家族を連れだしており、思わず近所の人が止めるのも聞かずにトラックに乗って(乗せられて)しまう、このオープニングの転調が怖い。
ユダヤ人であることを隠して(隠れ蓑に犯罪者だと名乗る)ナチスの代わりにKapoカポ(ナチスの代わりに収容者の管理をする裏切り者)として、何重にもねじれた、しかも絶対に明かしてはならない秘密を抱えた存在になる。
いるだけでドラマチックな役で、現に一見すると何もせず、周囲が電気が通じた柵に触れて死んでもこれといって何もしない、というかできない。
スーザン・ストラスバーグにしてみると「女優志願」の二年後、22歳の時の出演作。
父親=アクターズ・スタジオの創設者リー・ストラスバーグがなまじ偉かったとか、悪い男にひっかかったとか変な夫と結婚したとか、子供が障碍者だったとか諸事情があってB級作(「マニトゥ」とか)に出るようになる前。