prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「お父さんのバックドロップ」

2006年06月11日 | 映画
中島らもの原作と大きく変えたところというと、お母さんを早くなくしてお父さんが男やもめになっているという設定と、所属しているのを「新世界プロレス」というインディーズともいえない弱小団体にしたこと。
今のインディーズに入ったら宇梶剛士は巨漢レスラーで通るくらいだもの。
それでずいぶんドサ回り的な情感が強まった(鶴瓶が出てくるシーンのバックのポスターのボクシング・ジム代表の名前が「丹下段平」だったりする)。
引退なんて格好のいいもんじゃない、クビのことや、というセリフがドサの侘びしさをよく出した(脚本 鄭義信)。

「下田牛之助」という上田馬之助をもじった強引なネーミングも、ちょっと意味が通じにくくなっているかもしれず。ただし、レスラーのキャラクターとしては猪木のパロディみたい。

ぼくがお父さんが嫌いなのが、プロレスなんてインチキなものをやって、本当の勝負から逃げているから、というのが原作の理屈だが、ここでは母親をおっぽりだしてプロレスをやっていたから、病気で死にかけていても、という具合に組み替えている。
インチキだろうが侘びしかろうがなんだろうが、それが「仕事」だからやらなくてはいけない、そして仕事というのは違う意味で真剣勝負なのではないのかなあ、と見ていて思った。それが息子に伝わっているかというと、ちょっと弱い。

ラストの試合、空手家の突き、蹴りを何十発も受けるなんて、プロレスではないのだからムリ。かなりここで気持ちが引いた。

主役の男の子(神木隆之介)の半ズボン姿が、ええとこのぼんみたいな感じで妙に可愛い。
(☆☆☆★)



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お父さんのバックドロップ

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「盲獣VS一寸法師」

2006年06月10日 | 映画
石井輝男という半世紀かた撮影所で腕を培ってきたベテラン監督が、素人と同じ土俵に立って自らデジカメをまわして編集もやってしまったという珍しい作り。

切断された脚をぶら下げた風船を発見した人々とカットバックするあたりさすがに編集の腕は確か。
デジタル映像だと手足の切断など血みどろの描写がいかにも作り物であることがバレバレになってしまうのは難。

金のかかっていないこと丸わかりなところも自主映画だが、古い建物を見つけてきたロケハンの手はかかっている。

主演がリリー・フランキーというのは、今見るとびっくり。
役者陣はラストぬうっと顔を出す丹波哲郎を除いて知名度はあるが素人衆だが、ミゼット(小人症)を堂々と出してくるのは今どき珍しい。

場面展開が行き当たりばったりもいいところで、安っぽさとチャチさとともにひたすらぐるぐる色々な物を見せるだけの昔の見世物小屋的。
スジで見せないので、妙に早送りしにくい。
(☆☆★)



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盲獣VS一寸法師

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「夢駆ける馬ドリーマー」

2006年06月10日 | 映画
「実録」ヤクザ映画「仁義なき戦い」について脚本の笠原和夫が「実録というのは堂々とウソがつけるということです。まさかと思うような設定や展開でも、いや、実録ですから、と言えば通ってしまう」と語っていた。
これが実話にインスパイアされたストーリーというのも、似たようなものではないか。えっ、こんなことってホントにあるの? というところがずいぶん多い。

デビッド・モースのとことん憎まれるために出てきたような役の設定ぶりなど、いかにもハリウッド映画的。
この映画のウマは、馬糞をたれないみたいだ。

馬がダコタ・ファニングを乗せて暴走する場面、当然だが乗っているのは大人のスタントマンで、ただし暴走する前に帽子をかぶって目立たなくしている。これ「E.T.」の自転車チェイスの前に子供たちがフードをかぶるのと同じ演出。

ファニングは歯並び悪いけれど、成長したらどうするつもりだろう。ハリウッド・スターの歯並びというのは三島由紀夫が「トイレのタイルみたい」と形容したくらいやたらと整っているものだが。

「ソーニャは売り物じゃないわ」というのに対して、「世界中のすべての競走馬は売り物だ」と父親のカート・ラッセルが返すが、競馬にまつわる色々なビジネスが細かく描かれているのが興味深い。馬を競りにかけるためのレースなんてあるの、知らなかった。
(☆☆☆)



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「雪に願うこと」

2006年06月08日 | 映画
重荷を引いてあがくようになんとか前進するばんえい競馬の姿に、生きていくことの重さを見るのは、倉本聰の「ばんえい」でもあった発想だが(といっても、ドラマは見ておらずシナリオを読んだだけ)、実に丁寧に楷書で描かれた多くの人生スケッチの集積の厚みが見事。
画面には出てこない人物(たとえば借金に追われて失踪した伝説の名騎手)も、なんだか知っている人のような気がしてくる。

佐藤浩市の男っぽい色気は出色。
馬が本当に伊勢谷友介に対して親愛のそぶりを見せている。
馬たちが厳寒の中、もうもうと身体中から湯気をあげて進む姿がなんとも美しい。完全にレースの間に馬が動かなくなってしまうのにびっくり。よっぽど重たいのだろう。

脇が山崎努や草笛光子をはじめ役者が揃っているが、ただ格の高い役者をあてはめているだけでなく、すべての役者からそれまで見せなかった顔を引き出している演出力に感心する。
小泉今日子、吹石一恵と元(?)アイドルが並ぶが、根性がないとアイドルなんてできないのだろうなと勝手に考えたくなるような、しっかり生きてきた「顔」を見せる。

仲の悪い兄弟が「仲直り」するのではなく、互いの違いをしっかり認めて別れるラストの締めは、大人のもの。

障害物の前でためにためた馬がいよいよという瞬間、ぶっとい脚がぶるっと震えるのを捕らえたカメラと、ピックアップした編集の冴え。
(☆☆☆★★★)



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「ブロークン・フラワーズ」

2006年06月07日 | 映画
ホントに主人公の男と女たちの間にアフェアがあったのかなあ、と思いたくなるくらい意外と描写にコクや幅が乏しく、もっぱら豪華な女優陣の貫禄とキャリアに頼っている。「空気感」とかいうものはあるのだろうが。
ピンクの封筒とかピンクのリボンとか手紙の送り手の女がピンクという色と結び付けられているのだが、どの女がどんな色が好きだったのか覚えていないのだろうか。いないとして、その曖昧さがきちんと描かれているとは思えない。「今になって」思いつきのように急に出てきたので、20年間の厚みがないのだ。
ありていに言って、この作りは思わせぶりに思える。浅薄な主人公だから、では済まない。
フレデリック・エルメスの撮影の色調は魅力。
(☆☆★★★)



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塩田真弓キャスター目撃

2006年06月07日 | Weblog
テレビ東京の「ワールドビジネスサテライト土曜版」の塩田真弓キャスターが、新宿ビックカメラの大型テレビ売り場で取材中。
番組ではちょいちょい見る光景だけれど、生は初めて。
画面で見る感じより、びしっとメイクを決めてました。


夫婦印プロデュース「満月 平成親馬鹿物語」

2006年06月06日 | Weblog
水谷龍二作・演出
菅原大吉 竹内都子(ピンクの電話)の実の夫婦二人だけのウェルメイド・プレイ。
それぞれの一人娘と一人息子が駆け落ちして、父親は焦りまくり、母親は悠々たるものというコントラスト。
最初から最後まで、ずうっとどっちか酒を飲みっぱなしというのも珍しいのではないか。

竹内が生で見ると生きている福笑いみたいで、顔も身体も芝居も自由に伸び縮みしている。
沖縄に温泉があるというと、確かにあれそうだったっけという感じ。
千秋楽のシアタートップスの場内は満員で、菅原の水虫や竹内の酒乱芝居など、大受け。



「将軍月光に消ゆ」

2006年06月05日 | 映画
第二次大戦中、非エリートイギリス軍人とギリシャ・パルチザンの寄せ集め部隊が、ギリシャ在住のドイツの将軍を誘拐してイギリスまで連れてくるという、「ナバロンの要塞」と「鷲は舞い降りた」を足して二で割ったようなストーリーに、コメディタッチを大いに付け加えた作り。
「赤い靴」や「ホフマン物語」のパウエル=プレスバーガー作品と思うと戸惑うくらい違う。

将軍が誘拐されながらしぶとく将校としての扱いを要求したりこっそり次々と策を打つあたりもいいし、ギリシャ少年の扱いも気持ちいい。風光も明媚。
後に地獄に堕ちたような役を得意とするようになった若きダーク・ボガードが別人のようなユーモラスな二枚目ぶりを見せる。
ロングショットがあまりに引きすぎているので、小さいテレビ画面ではちょっと見ずらいところあり。
(☆☆☆★★)

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「ニワトリはハダシだ」

2006年06月04日 | 映画
在日、知的障害児、警察と検察の癒着と汚職、などなどをよくこれだけアブないところまで突っ込んだなと思うくらい詰め込んでいて、社会派風なのかというと、喜劇であり、人情劇であり、ごった煮というか合金というか、何か別ものになっているのは、なるほど森崎東流。
ただ、個々の刑事や検事のイメージの作り方そのものが、割と型にはまっている感じ。
彼らの上から見た大文字の「日本国」より、泥臭い海辺の町の風景の方が本物のこの国という感じ。



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「デス・サイト」

2006年06月03日 | 映画
ダリオ・アルジェントの今のところ最新作。
といっても、残忍な殺人、エキセントリックな音楽、゛部分的に意味なく凝り狂ったカメラワーク、女をいたぶる趣味、犯人探し風の作劇でまるで納得できない解決、などなどいつものアルジェント節。

普通の評価基準でいったらなんじゃいこれは、でしょうね。
そんなン、なんで見るのかといわれると、妙に癖になっているからとしか言いようがない。