prisoner's BLOG

私、小暮宏が見た映画のノートが主です。
時折、創作も載ります。

「ブラック・スネーク・モーン」

2009年05月17日 | 映画

パンツとTシャツだけの若い女を黒人男が鎖でつないでいる、というジャケットのデザインからするとゲテモノとしか見えない。クリスティーナ・リッチとサミュエル・L・ジャクソン主演というのが微妙で、一流俳優には違いないのだけれど、スカさないで変な映画にも出る人たちなので。エンドタイトルを見ると、製作にジョン・シングルトンがついているのだが、「ボーイズ’ン・ザ・フッド」の監督でもあるが、「ワイルド・スピード2」のプロデューサーでもあるので、あてになるようなならないような。

ところがこれが意外なくらいマジメな内容。アメリカのど田舎での黒人と女性と、抑圧されている同士の共鳴もだが、抑圧している側の白人男の描き方が、途中までよくある暴力亭主かと思うと、もっと程度の高い展開になる。

冒頭のインタビュー映像あたりからして、黒人文化でのブルースの意味、といったことが関係あるらしいのだが、残念ながら理解できない。ただ、ジャクソンのギターと歌が大いにものを言っているのはわかる。
(☆☆☆★)


「ハサミ男」

2009年05月16日 | 映画

原作はずいぶん前に読んだことだけ覚えていて、内容はきれいさっぱり忘れており、おかげで得した気分で見られた。
池田敏春監督らしい魅力のある画があまり見られないのは残念だけれど、だんだん謎を明かしていくプロセスなどよく練れていて(ところどころそんなのありかと思わせるところはあるが)、麻生久美子がなんだか危なっかしい感じがよくはまった。本多俊之の音楽が好調。
(☆☆☆)


「トランザム7000」

2009年05月15日 | 映画

こういうとにかく気軽にきっちり楽しめるようにできている映画、最近少ないな。
保安官のドラ息子が、父親のカウボーイ・ハットが飛ばないようにずうっと押さえている笑いなどルーティンなのだけれどちゃんとやっている。

サリー・フィールドがこの後二度もオスカー受賞するとはとても思えない姐ちゃんぶり。あだ名がフロッグというのは、キャスティングが決まってから考えたのではないか。

バート・レイノルズがこの人気絶頂期からいったん転落してまた復帰してから見ると、感慨あり。当時、人気を二分していたクリント・イーストウッドが(!)がやはりトラックものの「ダーティファイター」とその続編を作ったのは、これの影響だなんて言われたもの。
(☆☆☆★)


「紙屋悦子の青春」

2009年05月13日 | 映画
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冒頭、病院の屋上で老夫婦が語り合うのを引いたサイズでえんえんと写し出すのを見て、これは一種の能なのではないかと思えた。能舞台の松の木ならぬ桜の木が視覚的なキーになっているし。ただ、能だと死んだ人間との交流になるけれど、ここではあくまで生きとおした人同士の交流。
格調高いし、昔の日本人の奥ゆかしさが良く出ているけれど、正直いささかかったるい。
(☆☆☆★)


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「Maxed Out」

2009年05月12日 | 映画

アメリカのクレジットカード地獄を扱ったドキュメンタリー。
東京MXテレビでこの四月から始まった「町山×松嶋の未公開映画を見るTV」枠で放映されたもの。長編ドキュメンタリーを日曜午後十一時からの一時間枠で二回、前後編で放映して、番組の前と後、それから中頃に町山智弘の解説を松嶋尚美がボケとツッコミを併用して聞くという変則的な編成。

なんでもTBSラジオでこの三月までやっていたストリーム(週一のコラムの担当がアメリカ在住の町山氏)の愛聴者だった水道橋博士が口きいてこの枠に押し込んだとか。同番組で紹介していた日本で公開されないタイプの映画をやろうという趣旨。
インターネット放送でやっていたやはり水道橋博士がホストの「博士も知らないニッポンのウラ」も、TVK・MXテレビとローカル局ながら「博士の異常な鼎談」としてそのまんまの体裁で移動したし、こういうのを「放送とネットの融合」っていうのかな。ちなみに両番組とも、スポンサーにして著作権を持つのはSONY MUSIC。
デジタル放送だと東京でこういうローカルが見られなくなるので、完全移行は見合わせている。

ブッシュ政権が破産法を改正して、定収のある人は破産もできないでずうっと利子を払い続ける、老後の年金からも天引きされるようになる、というまるっきり闇金のやることを大手の銀行とクレジットカード会社がやっているというえげつなさ。死ぬまで借金から逃れられないわけで、そのため子供が自殺したという老婦人が二人並んで出てきたのには、ちょっと絶句した。
それで返せない人間は神から盗むに等しいと説教するキリスト教原理主義の牧師なんて出てくるのだから、むちゃくちゃ。

アメリカという国自体が借金まみれで、なんと100年前の借金を返しきれないでおり、サブプライムローンの借金が10兆ドルっていうのだから、松嶋じゃないけれど、「バカだねーっ」といって笑うしかない。日本も当然、対岸の火事ではいられないし、笑い事じゃないのだけど。

「ゴーストライダー」

2009年05月11日 | 映画

最近のニコラス・ケイジ主演映画って、ひところのブルース・ウィリス主演作みたいに下手な鉄砲を数撃っても当たらないみたいになってきた。

メフィスト役がピーター・フォンダというのは、「イージー・ライダー」のイメージを重ねているのだろうねえ、当然。これが敵役になるのかと思うと、別に連続物の場つなぎみたいな弱い悪役が数だけはぞろぞろ出てくるが、どうもシケている。続編作るのを最初から狙っているような物欲しげな感じ。

ヒロインが昔の映画みたいなまるで添え物扱いなのが、逆に珍しい。
(☆☆☆)


「プロヴァンスの贈りもの」

2009年05月10日 | 映画

主人公が成功した金持ちなまんま田舎の静かな生活にひきこもるのだったら、金持ちの夢を早めにかなえただけで別にドラマにも何もなっていないではないか。主人公が追い込まれるところ、ないものね。せいぜい水のないプールに落ちて出られなくなるくらいで。なんか、虫が良すぎ。作っている方も、現地の雰囲気に合わせてのんびりしすぎているみたい。
(☆☆☆)


「マイ・ブルーベリー・ナイツ」

2009年05月09日 | 映画

香港のウォン・カーウァイが初めてアメリカで撮った作品。もっとも、製作国は香港・中国・フランスとなっていて、ハリウッド進出作ってわけではなさそう。
オシャレな映像が売り物の監督なもので、西洋人キャストと相性がいいみたい。スイーツのアップが魅力的。

ヒロインのノラ・ジョーンズが唇に食べかすをつけたまま寝込んでいるカットが可愛らしくエロチック。ジュード・ロウのほとんど少女マンガみたいな美形が、簡単に恋愛がらみにならない分、おとぎ話みたいな雰囲気。
(☆☆☆)


「ファンタスティック・フォー:銀河の危機」

2009年05月08日 | 映画

宇宙からサーファーがやってくる、というのも地球が宇宙の中心なのか、というよりアメリカが宇宙の中心なのかと思わせる。
もっともこの銀色のやたら強力なパワーを発揮するサーファーが悪役に徹してくれればよかったのだけれど、妙に顔を立てた扱いになってしまい、尻つぼみ気味。

「アメリカン・コミックス大全」小野耕世著によると、もともとマーベル・コミックス主催者のスタン・リーが画のジャック・カービイと組んでこの原作を書いた時はベトナム戦争の最中で、魔神ギャラクタスの先導をしていたのが反抗してパワーを失い地球の大気圏でだけでしか生きられなくなったシルバー・サーファーが、地球のさまざまな問題に悩む、というものだったらしく(映画の原題はFANTASTIC FOUR: RISE OF THE SILVER SURFER)、作者も愛着のあるキャラクターでこれ自体独立した企画だったのが、結局ファンタスティック・フォーと込みで権利が売買されて、こういう形で映画に登場したらしい。

あと、なんでも「スパイダーマン」の監督がジェームズ・キャメロン、「エレクトラ」の監督がオリバー・ストーンの予定だったとか。

出だしが浮世絵から抜き出てきたみたいな富士山をのぞむ駿河湾の場面ではどうなることかと思わせるが、日本語のセリフは割とまとも。
(☆☆☆)


「コースト・ガード」

2009年05月07日 | 映画

北朝鮮からの侵入者を警戒している韓国の湾岸警備隊の兵士の一人が、必要もないのに迷彩のメイクを施したりしてオタク的に臨戦態勢を気取っていて、警戒地域に紛れ込んできた近隣の若者のカップルのうち男の方を不用意に射殺してしまう。
生き残った女の方とともに、殺した兵士の側も精神に異常をきたしてくるのみならず周囲の兵士たちにも狂気が伝染していくあたり、独特の飛躍の積み重ねとともにキム・ギドク監督作らしく、分断国家を扱った政治的な色彩は直接的にはあまりない。

兵士たちの尻取りなどの遊びが何度も描かれたり、警戒地域だというのに民間人が紛れ込んだりと、意外とたるんだ感じ。
ラストは先読みできるところと、飛躍しすぎて釈然としないところが混ざっている。

主役がチャン・ドンゴンというのは意外のようだが、「タイフーン」もそうだが案外狂気がかった役やりたいのかもしれない。
(☆☆☆★)


「エレクション ~黒社会~」

2009年05月06日 | 映画
エレクション ~黒社会~ [DVD]

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ヤクザ組織の権力闘争の話だけれど、一応構成員による選挙で会長が決まるのでかえって駆け引きがややこしくなり、誰がどっちの側にいるのかわけがわからなくなってしまうあたり、盃外交に終始する「仁義なき戦い 代理戦争」みたいで、銃によるドンパチがないのも似た感じ。
もっともその銃を使わない暴力描写は、箱に詰めて崖から突き落とすとか、いろいろ工夫している割に思ったほど生々しさや怖さを感じなかった。
いかに兄弟分を裏切ってはいけないか誓うものすごく物々しい儀式をしてみせた後あっさり反古にしてしまったり、最後の方でサルの群れが出てくるあたり、変なユーモアがある。
(☆☆☆★)


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「自殺サークル」

2009年05月05日 | 映画

出だしの女子高生の集団自殺や(同じ園子温監督の「紀子の食卓」でも引用してしました)、動機不明の突然の自殺が連鎖していくあたりは面白いのだけれど、そのあとどう展開させていいのかわからなくなったように曖昧に尻つぼみになってしまう。
人間がトマトぶつけたみたいにばしゃっと赤く飛び散るのを見せるのが目的みたい。
(☆☆☆)


「FLAG 一千万のクフラの記録」

2009年05月04日 | 映画

紛争地に乗り込むカメラマンの姿を、アニメであるにも関わらず擬似ドキュメンタリー式にカメラのファインダーを通した形式の映像で綴るという、技術的にはものすごく凝った作り。
その割に常識的なヒューマニズムで処理しているところが目立って、「よそ者」であるカメラマンの立場や、対立が何重にも折り重なって収拾のつかなくなった状況など、何が本当なのか、視点によってどれだけ見方が変わるか案外突っ込んでいない。
(☆☆☆★)


「ヒッチャー(2007)」

2009年05月03日 | 映画

マイケル・ベイ製のリメークの方なのだけれど、もともとのルトガー・ハウアー主演版自体が「激突!」ほかの先行作品のパッチワークがかったところがある(期待して見て結構がっかりした)から、それほどオリジナリティの不足を言う気にはならない。期待値が低かった分、割と楽しめた。

冒頭、いきなりヒッチハイクしている男を乗せるのではなく、いったん置いてけぼりをくらわせた分後ろめたくて乗せざるをえなくなる段取りなど良く考えている。ヒッチャーが警察ほかはばたばた殺すけれど主人公のカップルにはなかなか手を出さないご都合主義や、ショック効果先行の神出鬼没ぶりもオリジナル同様目立つが、理由のない悪意を向けられるだけでなく死にたがり願望に巻き込まれる話としては一応筋が通っている。

後半、カップルの生き残る方が男女逆になってなかなかきれいなヒロイン(ソフィア・ブッシュ)が銃を持って活躍しだすあたり、ゴ時勢というよりB級色に徹していてなかなかよろしい。
ヒッチコックの「サイコ」や「鳥」をそのまんま持ち込むのは、オマージュとかいうより、映画学校出のなんとなくのルーティンみたいで、どうもつまらない。
(☆☆☆)


「フィッシュストーリー」

2009年05月02日 | 映画
時代も場所もばらばらのエピソードがかるたみたいに撒かれていって、ラストでばたばたっとつながってくる構成だが、そういう凝ってみせた意匠を剥がしてみると、自分のしていること言っていることが人に伝わるのかという不安と伝わるものは伝わるという信念とがはっきり見えて、案外マジメなモチーフなのがわかる。そこをわざと隠しているのと、逆におもいきってストレートに出しているのと両方で、両方ないとダメなのでしょうね。

ひとつひとつの場面がカリカチュアライズされている一方で、リアリティがあったりなかったりむらがあるのはちょっと残念。

エンドタイトルで、各エピソードごとに役とキャスティングがまとめて出てくるため、複数の役をやっている人はなんべんも名前が出てくる。
(☆☆☆★)


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