マドンナのナイショ話

あなたに話したいあれこれ

ニューヨーク恋物語クリスマススペシャル・パリ追憶編

2008年12月23日 | ニューヨーク恋物語
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いよいよ明日はクリスマスイブ。
祝日の今日は、クリスマスイブイブを楽しまれた人も多いことでしょう。
クリスマスは幾つになっても素敵な日で、ワクワクしますね。


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2005年5月から、毎週連載していたニューヨーク恋物語は
3ヶ月で終わり、その後2005年12月に、パリの写真を使って
「ニューヨーク恋物語クリスマススペシャル・パリ追憶編」を執筆しました。


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パリの街から、大沢の今日子に対する気持ちを切々と綴る
ロマンチックで切ないクリスマススペシャル版は、美しいパリの写真が魅力です。


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今年5月に
ブログとmixiで、ニューヨーク恋物語をリニューアルさせてアップしました。


物語の内容は、2005年とほとんど変わりなく・・・
あの時「コーヒー」だったのが、「紅茶」になってみたり(写真の関係で)
そんなリニューアルされた、「ニューヨーク恋物語2008」でした。


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1章から12章までの物語で、使った写真は、295枚。
「ニューヨーク恋物語2008」では
十分写真でもお愉しみいただけたことと思います。


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東京・横浜の夜景の写真は、「NIGHT Windows・東京の夜景」の
Shinshinさんに写真をお借りしてのコラボレーションでした。


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クリスマスを前に、今夜はお酒でも飲みながら
「ニューヨーク恋物語クリスマススペシャル2008・パリ追憶編」を
是非お楽しみくださいませ。


尚、クリスマススペシャル・パリ追憶編に使った写真は68枚。
全て私が撮っものです。


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ミューヨーク恋物語2008  BGM 愛し君へ(森山直太朗)


                 


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今日子・・・ 夕方パリに着いたよ。
君が遠くへ旅立って、2ヶ月が過ぎた。


今でも、君からのメールが届いていそうな気がして
仕事から帰ると、メールのチェックをしているバカな僕がいるよ。
そんな僕を君は、「弱虫」って笑うかい?


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仕事が一段落ついて、昨日ニューヨークを発ってパリに来た。
クリスマスをパリで過ごそうと思ってね。


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知り合って2年目の12月、僕たちはパリでクリスマスを過ごしたね。


お互いが仕事の関係で、欧州入りしていて、それが終わって
5日間だけ、神様が与えてくれたクリスマスの休暇を
今日子と僕は、パリで過ごしたね。


そんな今日子との想い出の場所を もう一度辿りたくてパリに来た。


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今、エッフェル塔が見えるカフェで、今日子にメールをしているよ。
もうすぐ西の空に、夕陽が沈む。


あの日もこのカフェで、二人向き合って珈琲を飲んだね。


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君はフランス語も堪能で、この街に来てもイキイキしていたね。
僕はいつも君に頼っていた。


パリに着いたけれど、僕は今でも一人じゃとても心細いよ。
今日子がいてくれたら、どんなにいいだろう。


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そんな僕を残して、君は天国に旅立った。
きっと天国でも、弱虫の僕を心配しているかもしれない。


今日子・・・ ごめんよ。
君に心配ばかりさせて・・・・。


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今日子・・・ 今日は車を走らせて、モン・サン・ミッシェルに来たよ。


朝はパリを7時半に発ったのに
やはりあの時と同じように、4時間半もかかったよ。


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パリの冬は夜が長くて、出発した時にはまだ真っ暗だった。
そしてモン・サン・ミッシェルに着いた時は、霧がかかっていた。


あの時も、この場所で僕たちは車を止めて
幻想的な修道院を眺めていたね。


いつまでもいつまでも、この場所から眺めていたね。


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僕は昔から雨男なのに、今日子といると太陽に恵まれる。
今思うと・・・ 君が僕の太陽だったんだね。


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あの時もあんなに霧がかかっていたのに
モン・サン・ミッシェル修道院へ入ると青い空が広がったね。


不思議だよ。
僕は君といると、いつもスペシャルに晴れ男になれた。


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モン・サン・ミッシェルで見かけたあの恋人たちは、もう結婚したかな?
僕たちとあの恋人たち、どちらが素敵に見えるだろうなんて言い合ったね。


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お互いに、「さあ どちらだろう?」と、言ったけれど
僕はあの時、「今日子と僕」の方が、絶対に素敵に映ると、確信していたよ。


僕は今でも、僕たちほどお似合いのカップルはいないと思っている。


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今日は、モン・サン・ミッシェルのプラールおばさんのオムレツを食べて来たよ。
君のお気に入りだったね。


横浜に帰っても、君はよくあのオムレツを作ってくれた。
君は本当に、料理のスペシャリストだったよ。


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今日プラールおばさんのオムレツを食べたら
今日子の作ってくれた味と一緒だったんだ。


でもこれは今日子がプラールおばさんのオムレツを真似て
僕のために作ってくれたんだね。
プラールおばさんの方が先だったと事情を察して、一人で笑ったよ。


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あの時のレストランの、可愛らしいテーブルクロスも一緒だったよ。


窓側の席に座って、一人でオムレツを食べた。
僕にとって、モン・サン・ミッシェルは、君と見た幻のお城のようだ。


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今日子・・・ 今日は日曜日で、バスティーユのマルシェに行ったよ。
あの時、オレンジを買ったおじさんの店を探したけれど
もう見つからなかったよ。


だから違う店でオレンジを買った。


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あの時も、二人でオレンジを買って、青空の下で食べたね。
とっても甘かったのを覚えているかい?


乾いた喉を潤して、二人でこんなに甘いオレンジが
2つで1ユーローだなんて凄いわ!と喜んだね。


君はどんな小さなことにも、感謝と感動をする女性だった。


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マルシェで、いろいろなものを買い物しながら、2時間くらい過ごしていたよ。
ここもやはり、君との思い出でいっぱいだ。


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それからモンマルトルへ行った。


丘の上からパリの街を見下ろして
あの時の今日子の言葉を ひとつひとつ思い出していたよ。


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サクレ・クール寺院は変わらぬ美しさの中にいた。
この階段で、パリの恋人たちのように、僕たちもキスをしたね。


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僕たちは、パリの恋人たちに刺激された。
この街は、恋人たちを優しく包んでくれる街だった。


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日本では出来ないことが出来る開放感。
あの時の僕は、この幸せは永遠に続くと、信じて疑わなかった。


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サクレ・クール寺院の前の階段に座り込んで
僕たちもパリジェンヌに負けないくらい笑ったね。


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二人、ときめいて、キラキラしていたね。


あの時の君は、とてもきれいだった。
白亜のサクレ・クール寺院と、同じほどきれいだった。


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サクレ・クール寺院の左側の舗道を歩いて、テルトル広場に行ったよ。
あの時は、2人手を繋いで、ゆっくりゆっくり歩いて行ったね。


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途中で、恋人たちが、似顔絵描きに絵を描いてもらっていた。
あの時の僕たちのように、描いてもらっていたよ。


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あの似顔絵は、パリから帰っても
横浜の今日子の部屋に、二人の思い出としてずっと置いていたね。


それを二人で眺めては、パリの思い出話をしたね。
この恋人たちも、この似顔絵を大切に部屋に飾るのだろうか?


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テルトル広場では昔、青春時代の思い出に、今日子のお母さんが
1枚の「モンマルトルの丘」の絵画を買った話をしてくれたね。


きっとお母さんは、今でもその絵画を大切に持っているんだろうね。


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僕はあの時、絵画を買い損ねたから
今日パリに来た記念に、「モンマルトルの丘」の絵画を買ったよ。


そして絵画の下に、絵描きの彼のサインを入れてもらった。


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この無名の画家が、いつかピカソやルノワールのように有名になったら
きっとこの絵画も高く評価されるぞなんて
今日子のお母さんと、同じようなことを思いながら買ったよ。


この絵画は、ニューヨークの僕の部屋に掛けておくつもりだ。



ニューヨーク恋物語 最終章

2008年09月29日 | ニューヨーク恋物語
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「まえがき」


ニューヨーク恋物語、最終章です。
5月から、今日までお付き合いくださって、ありがとうございました。


もう何も言う言葉がありません。
最終章には、51枚の写真を使いました。
最終章の写真は、すべて私が撮ったものです。


上の写真は、私の最も好きなニューヨーク。
1  タイムズ・スクエア
2  エンパイア・ステート・ビル
3  セントラルパーク


では、最終章、お楽しみください。


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ミューヨーク恋物語2008  BGM 愛し君へ(森山直太朗)


                 


ニューヨーク恋物語 最終章


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大沢のところに、今日子の父から電話があったのは
10月初旬の土曜日だった。
ニューヨークに来ているから、明日、会いたいとの申し出だった。


今日子の父が勤める会社は、ニューヨークにも支店があって
今日子の父は、年に2~3度渡米していた。
大沢は過去に2度、今日子の父とミッドタウンで、食事をしたことがある。


電話で、待ち合わせる店を指定すると、大沢の自宅へ行きたいと言った。
まもなく今日子との住まいになる、アパートを見ておきたいという親心なのか。
大沢は今日子の父と、午前10時に約束をした。


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日曜日の朝が来た。
今日子の父は10時を過ぎると、大沢のアパートを訪れた。


久しぶりに対面する父だった。
海外勤務を長く経験した今日子の父は
大沢にとって人生の先輩であり、よき理解者であった。


かつては色々にアドバイスをしてもらい、心強く思ったものだ。
温厚な父は、どんな時でも、大沢に対して優しかった。


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「ご無沙汰しております。
 この度はどうしても帰国できず、両親を代理に立て、申し訳ございませんでした。
 お父さんには一度きちんと、ご挨拶がしたかったです」


仕事の都合で、大沢はどうしても帰国できず
両親を代理に立て、今日子の実家に出向いてもらった。
そして今日子の両親に、今日子との結婚を承諾してもらったのである。


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今日子の父は、優しい眼差しで大沢を見つめた。
目元と口元が今日子に似ている。
今日子が尊敬し、とても愛している父がそこにいた。


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「大沢君には、いつも今日子を可愛がってもらって・・・・
 家内とも話していました。


 今日子の相手は、大沢君のような人でよかった。
 今日子は幸せ者だと。」


「僕の方こそ、大切なお嬢さまをニューヨークへさらって行くようで
 申し訳なく思っております。


 結婚のお許しを頂いて、本当に嬉しかったです。
 今日子さんを僕の生涯をかけて、大切にいたします」


今日子の父はコーヒーを飲み終わると
少し時間をおいて、重い口を開いた。


「大沢君、今日は今日子を連れて来ました。
 ニューヨークの大沢君の許で、暮らさせてやるのが
 今日子にとって、一番の幸せではないかと・・・・」


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意味のわからない大沢に
今日子の父は、白い小さな箱を差し出した。


「今日子です。 大沢君に愛された今日子です」


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大沢の顔から、血の気が引いた。
大沢は、言葉を失った。
大沢の前に差し出された箱には、今日子の遺骨が入っていた。


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「一週間前のことでした。
 ウエディングドレスが出来上がりましてね。


 今日はもう遅いから、明日にしなさいと言うのに
 ニューヨークへ持って行くウエディングドレスだから
 一日も早く見たいと申しましてね。


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 雨の降る夜、南青山まで車で、取りに行ったのですよ。
 その帰りに、交差点で事故に遭いましてね。


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 救急車で病院に運ばれた時は、もうほとんど意識がなくて
 それでも最後には、大沢君の名前を呼びながら逝きました」


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大沢の目からは、止めどなく涙が流れた。


「大沢君には、お知らせすべきだったけれど
 家内とも相談して、別れは辛いし
 お互い心残りだろうから、私たちだけで見送ろうと。


 そして今日子をニューヨークに、連れて行ってやろうと
 話し合いました。


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 告別式には君のご両親も参列してくださった。
 君たちの子供も助からなかった。


 寂しがり屋の今日子だから
 きっと君との忘れ形見を一緒に、連れていきたかったのだろう」


今日子の父は苦しそうに、ひとつひとつ状況を話してくれた。


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「大沢君、哀しいけれど、泣かないでやってください。
 泣けば今日子が不憫になる。


 やっと仕事を辞める決心をして、ニューヨークで
 君と生まれてくる子供と、三人で暮らす夢を見ていました」


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「亡くなる三日前に、赤ちゃんの胎動を感じると言いましてね。
 大沢君に似て、元気がいいと喜んでいました。
 子供も駄目で、君には本当に申し訳なく、残念だ」


今日子の父は、なおも話を続けた。


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「外傷はほとんどなく、きれいでした。


 別れ際、今日子の友人が薄化粧をしてくれ
 真っ白いウエディングドレスを着せて、パスポートを持たせて
 荼毘に付しました」


大沢の嗚咽は、やがて号泣に変わった。


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「今日子と、君たちの子供を連れて来ました。
 今日子が夢にみたニューヨークで、暮らさせてやってください」


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「大沢君、泣かないで。
 君はどんな時でも、強い青年であると信じています。


 だから今日子がこれほどまでに、君を愛したのだと。
 今日子をこのニューヨークで、君のそばに、おいてやってください」


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今日子の父は、2時間ほど大沢と話をして、ホテルに戻って行った。
大沢はそれからしばらく、抜け殻のような生活をした。


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小さなさざ波が、大沢の心の中でゆれていた。
それは、今日子から大沢への無言のメッセージなのか。


けれど残酷な現実が起きても、人は立ち直ろうとする。


指を傷つけて血が出ても、やがてその血が止まるように
どんなに大きな傷口であっても、少しずつ塞いでゆく。
きっとこれが、生きるということなのかと思った。


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今日は今日子の四十九日だった。
大沢は今日子を連れて、教会に行った。


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神父の話を聞いて、一緒に神に祈った。
そして半日、教会で過ごした。


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神の前で祈ると、今日子との思い出ばかりが、脳裏に浮かんだ。
大沢は、手で涙をぬぐい、今日子の遺骨に語りかけた。


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夜、大沢はマンハッタンにあるレストランに来ていた。
みなとみらいで最後の夜を過ごした時、今日子は大沢に尋ねた。


「ねぇ・・・ニューヨークの夜景はきれい?」・・・と。


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この場所から、マンハッタンの夜景を見せてやりたかった。
摩天楼のビルの真ん中で
この夜景を見たら、きっと今日子は感動するだろう。


エンパイア・ステート・ビル、マンハッタン対岸のブルックリンや
アップタウンの高層ビルのタワーが、放つ光のシャワーを見て
今日子は、いったいどんな表現をするかと、いつも思っていた。


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ここは、今日子がニューヨークに来た時、一緒に来たレストラン。


妊娠したことを知らされ
プロポーズした後に来た、思い出のレストランだった。


レストランの支配人は、あの時と同じ席を用意してくれた。


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グラスにブランデーを入れた。


「乾杯」と言って、グラスを傾けてくるのは、いつも今日子だった。
その時の今日子は、まるで少女のような悪戯っぽい目をした。


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大沢は、今日子の遺骨の入った箱をテーブルの上に置いて
優しく語りかけた。


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「ねえ 今日子、今夜は二人の夜に・・・
 いや・・・ ベイビーと三人の夜に、乾杯だ」


大沢がそう言って、グラスを傾けた。


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二人は、ミレニアムの年に出逢った。
横浜の赤レンガ倉庫でのイベントに参加して
友人から今日子を紹介された。


長い黒髪、目鼻立ちのはっきりした美人だった。
ブルガリの時計に、エルメスのバーキンを持った今日子は
近寄りがたかった。


けれど今日子は、とても気さくに話をしてくれた。


たくさんの写真を撮った大沢は
後日それを今日子に渡すために再会した。


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そののち、写真のお礼にと言って
今日子は手作りのケーキを大沢のところに届けた。


大沢はまるで少年のように、体全体で喜びを表現した。
そうしてごく自然な形で、交際が始まっていった。


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ユーミンが好きで、車が好きで、海が好きで、映画が好きだった。
二人の共通の趣味は、二人をより一層結びつけた。


春が過ぎ、夏が来て・・・ 秋が過ぎ、冬が来た。
季節はめぐり、二人は青春を謳歌しながら共に生きた。


5月に帰国した時、夢のような一週間だった。
毎朝、夫婦のように、横浜から東京まで通勤した。


行き帰りの楽しかったこと。
今日子はまるで子犬のように、大沢にじゃれてきた。


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湘南の海で過ごしたこと。
タコウインナーや、ウサギのりんごが懐かしい。
サンドイッチも、ホットドックも、天むすびも美味しかった。


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赤レンガ倉庫で、出逢った日のことを語り合った。
今日子のバーキンを今でも思い出す。


あの頃、「私はバーキンのために、働いているのよ。」と言った今日子。
けれど大沢と付き合い始めると、次第に価値観は変わり
角が取れて、他愛もないことを無性に喜ぶ女に変わっていった。


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みなとみらいの夜景を見ながら
ランドマークタワーのラウンジで、お酒を飲んだこと。
部屋では恥じらいながら、全裸の写真を撮らせてくれたこと。


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そしてベットでは、いつもしなやかな変身を遂げた。
瑞々しい体は、大沢のためにだけに、開花してくれた。


大沢は今日子を抱く時、男冥利に尽きると思った。


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大沢にとって、アダムとイブの世界であった。
禁断の果樹を食べようとする大沢。
自分は神の教えに背いて、アダムになってもいい。


今日子を得られるなら、この先どんな過酷な労働も耐えられると
大沢は、よくそんなことを思ったものだった。


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別れの朝・・・
ホテルから見た朝陽と同じほど、今日子の裸体は眩しくてきれいだった。


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大沢がニューヨークに立つ日
空港で、「私、泣いてなんていないから」と言いながら
泣いていた今日子。


日本に残してゆくのが、どれだけ切なかったことか。


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20日前に、ニューヨークに来た今日子。


妊娠したことを
「メールではなく、直接あなたに伝えたかった」と言った。


「私たちパパとママになるの」と言った時の、今日子の誇らしげな顔。


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夕暮れのセントラルパークで、「結婚しよう」とプロポーズした時
泣いていた今日子。


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ミッドタウンに行き
ニューヨークを語る大沢の顔をじっと見つめていた今日子。
タイムズ・スクエアのレストランでは、オレンジジュースで乾杯した。


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せっかくの5日間の休暇だったのに、どこへも行かず
公園のベンチや街角のカフェで、未来のことばかり語り合った。


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新居になるアパートのカーテンを替え、生活用品を買い揃えた。
その時の今日子は、とても楽しそうだった。


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「今日子、君はあと1ヶ月待っていてねと言った。
 今日子には、ずいぶん待たされたから、1ヶ月なんてすぐだよ。
 そんなことを言った僕なのに、僕は永遠に君を待つことになった」


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「あなたの今日子は、きっとまたニューヨークに来ると言ったのに・・・。
 今日子は、こんなに小さくなって・・・・ そして旅だった」


「今日子は僕に、嘘などついたことがなかったのに」


大沢は今日子の遺骨に語りかけながら、ブランデーを飲んだ。
大沢は今、「蒼い時代」が終わったと思った。


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セントラルパークの西にある、ウエストサイドの一画に
大沢は今日子の墓を建てた。


ハドソン川に面した、清閑な住宅街の外れである。
かつては、ジョン・レノンとオノ・ヨーコが住んでいたダコタ・アパート。
ブロードウェイや、ストロベリー・フィールドがある。


ここは大沢がニューヨークで一番好きな場所である。
大沢は今日子の墓標に、こう記した。


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Here lies Kyoko Osawa, beloved wife.
        R.I.P.


She gave me much love and splendid happiness.


Oh her black eyes, gentle voice and soft lip.


There will not be the person who can continue


strongly loving her than me.


She lives forever in my heart.


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そして今日子の大好きなバラの花が手向けられた。
大沢は一人佇み、静かに祈りを捧げた。


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見上げると、眩いばかりの秋晴れであった。


横浜ではなく・・・・
今は、空のむこうに今日子がいる。


大沢は空を見上げて言った。


「今日子・・・・
 僕はニューヨークから、いつも今日子に恋をしているよ」




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大沢はゆっくりと歩き始めた。
ニューヨークの秋は、これから一気に深まってゆく。

                     
                      完


                 


PS.
少し先になりますが・・・・
次回は、「ニューヨーク恋物語スペシャル・パリ追憶編」をお届けします。
パリの街から、大沢の今日子へのメッセージです。


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ニューヨーク恋物語 第11章ニューヨーク編

2008年09月20日 | ニューヨーク恋物語
「まえがき」


「ニューヨーク恋物語」を書き始める時、自分なりに起承転結を考えていました。
そして細かな表現は、行きあたりばったりで、その時の気分で書いて来ました。


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けれど、大沢が今日子にプロポーズをする言葉だけは決めていて
それを最初から、HPの表紙に書いていました。
ところが、これを書いたばかりに、ここに持っていくまでが苦労しました。


小説とは、最後まで書きあげて、最もクライマックスのシーンを
「表紙の帯の部分」に持ってくるものなのに
私の場合は、帯の部分が出来ていて、中身が書けていなかった。


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素人ならではの「無知」な執筆。
今、3年前を振り返ると、その「無知」も懐かしいです。


さて、この物語もあと2章で終わりです。
「ニューヨーク恋物語 第11章ニューヨーク編」のクライマックスシーンです。


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私が帯の部分として、最初からHPの表紙に書いた
セントラルパークを舞台にした、大切なシーンをここに書いて
今日の「まえがき」とします。


                 
              

「私 この世で一番大切なものがわかったわ。
 だからニューヨークに来たの。
 この街で、あなたと一緒に暮らしたい」


今日子はそう言うと、大沢の胸に顔を埋めた。


ニューヨークの秋は早い。
陽はゆっくりと、西に傾き始めた。


大沢はポケットから、指輪を取り出して
今日子の細い指にはめた。


「すぐに結婚しよう」


大沢はためらいもなく言った。


                               


今回の物語の挿絵の写真は、すべて私が撮ったものです。


尚、上の写真は
1  セント・パトリック教会
2  グランド・ゼロ
3  ブロード・ウエイ


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ミューヨーク恋物語2008  BGM 愛し君へ(森山直太朗)


                 

           
「ニューヨーク恋物語 第11章ニューヨーク編」




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昨日の午後成田を発ったノースウエスト航空は
まもなくジョン・F・ケネディ国際空港に到着する。


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機上の人となった今日子は、機内ではほとんど眠れなかった。
大沢に会えると思うと、溢れる気持ちを抑えることが出来なかった。


時々自分の腹部に触れてみる。
ここに大沢との子供がいると思うだけで
今日子は何度も涙ぐみそうになった。


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妊娠のことを伝えれば、どんなに喜んでくれるだろう。
大沢はいつも大きな愛で、今日子を包んでくれた。


早く早くと、気持ちが急いた。
機内を走りたい衝動に駆られた。


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嬉しい報告をニューヨークで出来る。
今日子の気持ちは、次第に高まっていった。


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税関を通過して、空港の到着ロビーに行くと、大沢がいた。
大沢はすぐに、今日子を見つけてくれた。


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「久しぶり。 よく来たね。 今日子、会いたかった。」


「私もよ。 本当に会いたかった。」


二人はお互いの気持ちを確認しあった。
大沢は今日子を車に乗せると、空港をあとにした。


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大沢のアパートに着くと、今日子は目を輝かせた。
大沢がニューヨーク支店に転勤になって1年半。
ニューヨークにいる大沢を訪ねるのは初めてだった。


「ここがあなたのお城なのね。  思ったよりきれいだわ。」


「今日子に叱られるから、昨夜は思いっきり片付けた。」


「あなたはいつも一夜漬けね。」


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そう言いながら振り返ると、ふいに大沢に抱きしめられた。


大沢は今日子にキスをした。
甘くとろけるような大沢のキス。


横浜で過ごす一人の夜
今日子は、何度大沢の唇の感触を思い出したことか。
大沢のキスは、いつも蜜の味がした。


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「街に出て食事をしよう。 少し今日子を案内したい。」


 大沢のアパートから歩いてセントラルパークへ行った。


「この公園は、昼間芝生に座って日光浴や読書や
 ピクニックランチを楽しむ人が多いんだ。
 ニューヨークの人たちの心のオアシスなんだ。」


「セントラルパークは、毎日僕のジョギングコース。
 その向こうのカフェで朝食を済ませる。  明日の朝、一緒に来よう。」


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「目を閉じると、あなたの風を感じるわ。
 この街で息づいているあなたの風よ。
 私、ニューヨークに来てよかった。 本当に来てよかった。」


二人はセントラルパークをゆっくり歩いて行った。
秋の風が、肌に心地よい。


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二人はベンチに腰を下ろした。
今日子は大沢の顔を見て微笑んだ。


「どうしたの? 僕の顔に何かついている?」


大沢は今日子に尋ねた。
今日子は、なおも微笑みながら、大沢に語りかけるように言った。


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「私、赤ちゃんが出来たの。」


大沢は目を丸くした。
そして今日子を見つめた。


「メールで知らせなくてごめんなさい。
 でもこんな大切なこと、メールじゃなくて
 私、直接あなたに言いたかったの。
 そして二人で喜びを分かち合いたかったの。」


これまで何も言わなかった今日子だったのに
妊娠したことを大沢に告げると、堰を切ったように言葉が続いた。


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「もう母子手帳ももらったわ。
 来年の三月には、私たちの赤ちゃんが生まれる。
 私たち、パパとママになるのよ。」


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「私、この世で一番大切なものがわかったわ。
 だからニューヨークへ来たの。
 この街であなたと一緒に暮らしたい」


今日子はそう言うと、大沢の胸に顔を埋めた。


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ニューヨークの秋は早い。
陽はゆっくりと、西に傾き始めた。


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大沢はポケットから指輪を取り出して、今日子の細い指にはめた。


「すぐに結婚しよう。」


大沢はためらいもなく言った。


夢にまでみたニューヨークで今、今日子は大沢のプロポーズを受けた。
妻になる喜び、母になる喜びが、同時にやって来た。
今日子は大沢に肩を抱き寄せられると、涙が溢れて来た。


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それから二人は夜の街へと出かけた。


「今日子、ここがミッドタウンだ。
 世界に名だたるブランドショッピング街の5番街。
 エンターテイメントの最高峰のブロードウエイ。


 眠らない街の代名詞、タイムズ・スクエア。
 高層ビルが軒を連ねるビジネス街。
 今日子、今夜はニューヨークを感じてほしい。」


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「この街の熱気が伝わってくるわ。
 私もこの街が好きになれそうよ。」


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二人はタイムズ・スクエアの近くのレストランに入った。
久しぶりに向き合っての食事だった。


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いつもならワインかブランデーで乾杯する二人だったが
今日は二人とも、オレンジジュースをグラスに入れた。


「あなたまでオレンジジュースにすることないのに。」

「僕も、もうすぐパパになるから。」


大沢は訳のわからないことを言って、今日子を笑わせた。
ニューヨークでの初めての夜であった。


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食事が運ばれて来た。


「今日子、何でも食べられるの?」


「そうなの。 妊娠にも気づかないくらいで。
 夏風邪だと思って病院に行ったら、おめでただと言われた。」


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「今夜はしっかり食べて。 今日子は二人分食べなきゃ。」


「でもお医者さまは、太りすぎはよくないって言ったのよ。」


「セントラルパークで、今日子から聞いた時は驚いた。
 でも嬉しかった。
 僕は今日子をずっと待っていてよかった。」


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「神様は僕たちに、赤ちゃんまで授けてくれた。
 僕は人生で、今日ほど嬉しい日はなかった。


 これから僕のすべてをかけて、今日子を愛してゆく。
 僕を信じて、ついて来てほしい。」


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今日子もまた、今日ほど嬉しい日はないと思った。
妊娠を祝福してくれて、大沢にプロポーズされて・・・・
人生最良の日だと思った。


5日間の休暇はあっという間に過ぎていった。
今日子の帰国の日が来た。


あと1ヶ月もすれば、ニューヨークで二人の新婚生活が始まる。


11ny25


「セントラルパークの近くにある教会で、結婚式を挙げよう。
 今日子と僕とベイビーの三人の結婚式だ。」


「・・・・・  ・・・・・  ・・・・・。」


11ny26


「僕は、今日子のウエディングドレス姿を早く見たい。」


「・・・・・  ・・・・・  ・・・・・。」


今日子は幸せな時ほど、会話が続かないものだと思った。
言葉が出なくて、うなずくだけだった。
それでも今日子の気持ちは、大沢に伝わった。


11ny271


二人は部屋のカーテンを選んだり、台所用品を揃えたり
今日子のために、クッションのいいソファーも買った。


11ny272


ニューヨークの観光よりも、新しい生活に向けての準備に追われた。
けれど二人には、とても充実した時間だった。
そんな楽しい毎日は、あっという間に過ぎて行った。


11ny28


「10月半ばには、ニューヨークに来るから、あと1ヶ月待っていて。」


「わかった。
 今日子にはずいぶん待たされたから1ヶ月なんてすぐだよ。
 こんな幸せ、何だか夢じゃないかと思ってしまう。
 これは夢で、明日の朝起きたら、夢が消えていそうな気がする。」


「大丈夫よ。  夢じゃない。 現実だよ。
 今日子は、どこへも行かないし、消えたりしない。
 あなたの今日子は、きっとまたニューヨークに来る。」


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今日子はそう言うと、大沢の車に乗った。
エンジンをかけると、車は空港へと走り出した。


11ny30


そして今日子は機上の人となった。


「あなたの今日子は、きっとまたニューヨークに来る。」と言った言葉が
大沢の耳に、何度も何度もこだましていた。


最終章へ  続く・・・・


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ニューヨーク恋物語 第10章横浜編

2008年09月10日 | ニューヨーク恋物語
すっかり秋らしくなりましたね。
晴天に恵まれて、ちょっと嬉しい昨日、今日です。


いつも私のブログを訪問してくださってありがとうございます。


夏の間、自宅でひきこもっていましたが
秋の訪れとともに、少しずつ行動範囲を広げてゆきますね。
そして楽しいブログを綴っていきますね。


                 


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さて、2週間ぶりの「ニューヨーク恋物語」です。
すっかり間が空いてしまいました。


前回は、大沢がニューヨークへ帰っていき、大沢の今日子への想いを
切々と綴ったニューヨーク編でしたね。


Jj1010


「大沢さん」って、素敵ですね。
私は、大沢のファンです。(笑)


今回の「第10章横浜編」は、横浜を舞台にする最後の章です。
私は、この10章がかなりお気に入りです。


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この章を読まれると、きっと今までの胸のつかえがおりることでしょう。
どうか、お楽しみください。


上の写真は
1  ミッドタウン
2  カーネギーホール
3  レストラン・プラネットハリウッド


物語の挿絵の写真は
「NIGHT Windows ~東京の夜景」のShinshinさんと
過去の「マドンナの夢ギャラリー」の更新写真です。


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ミューヨーク恋物語2008  BGM 愛し君へ(森山直太朗)


                 


ニューヨーク恋物語 第10章横浜編


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大沢がニューヨークに帰って、三ヶ月が過ぎた。


今日子は毎日仕事に追われていた。
企画会議、関西への出張、取引先との接待。
早朝出勤と、残業の繰り返しの毎日が続いていた。


9月には、このプロジェクトが一段落つく。
最終段階を迎え
チームは膨大な仕事量をこなすのに、躍起になっていた。


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そして夏休みも取れぬまま、8月も終わろうとしていた。
睡眠不足、不規則な食事時間。
今日子は心身ともに、疲労を感じていた。


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夜遅くに部屋に戻ると寂しかった。
5月に大沢が帰国した時、この部屋で一週間過ごした。


部屋のあちこちに、大沢との「夢の跡」が残っていて
今日子をより一層切なくさせた。


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疲れると、今日子は、自分はいったい何のために
がんばっているのだろうと考えるようになった。


そんな投げやりな気持ちの時
大沢から届くメールは、今日子の気持ちを救ってくれた。


大沢はいつも、今日子を気遣うメールをくれた。
大沢の方が一人でニューヨークにいて、どれほど寂しいことだろう。


それなのに、大沢のメールは、とても優しかった。
今日子は大沢に、済まない気持ちでいっぱいだった。


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今日子は大沢に、自分の気持ちを赤裸々に綴った。
大沢への想い、仕事への未練。
恋と仕事の板挟みで、苦しむ胸の内を大沢に伝えた。


時には、仕事のアドバイスを求めた。
大沢はいつも的確に判断して、今日子にアドバイスしてくれた。


近況と、気持ちを伝えるメールが、ニューヨークと横浜の間を行き来した。


夕食を食べ終わった今日子は、キーボードの前に座った。
そして今夜も大沢にメールを打ち始めた。


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親愛なる大沢君


今日は少し早くに帰れました。
でも疲れたので、今夜は駅前のコンビニでお弁当を買って来ました。
お弁当とデザートを今、食べ終わったところです。


手抜きの夕食ばかりで、こんな私って、主婦失格?
あッ・・・・ 私は、まだ主婦じゃなかったわね。(笑)


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今、部屋の窓からベイブリッジが見えます。
ランドマークタワーやみなとみらいの観覧車が見えます。


あなたと泊まったロイヤルパークホテルも見えます。
あの夜の思い出は、生涯忘れません。
大沢君には、感謝しています。


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今夜も、港の灯りがとてもきれいです。
この部屋から、二人でベイブリッジを見ていたことを思い出します。


ニューヨークのブルックリン橋と
横浜のベイブリッジが重なるとあなたが言ったこと。
5月のあの一週間が、こんなにも切なく思い出されます。


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9月半ばには、仕事が一段落つきます。


半年がかりの仕事だったから、とても手ごたえを感じられました。
いよいよ、最終段階で、今が一番大変な時かな?


10ny10


そして11月には、また新しいプロジェクトがスタートします。
今度はもっと仕事を任せてもらえそうなので
また来年の春までがんばるつもり。


こんな私を許してね。
あなたとのことは、きっと考えるから・・・ もう少しだけ待って。


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あなたに渡した鍵のお陰で、私は毎晩あなたに夢で会える。
ニューヨークで、ランチタイムもしないで、私の部屋に侵入してる?


あなたが来てくれるから、こんなに疲れていても、今夜も寂しくない。
安心して眠れそうよ。


10ny12


誰よりも、大沢君を愛している。
私の愛を受け止めて。


世界で一番あなたが好き。  
おやすみなさい。


今日子のメールは、すぐにニューヨークに届くだろう。


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今日の横浜は朝から雨が降っていた。
8月の雨は、何日ぶりだろう。


今日は午後からの会議で、出勤が遅かった。
それでも今日子は朝から出かけた。


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午前10時
今日子は、横浜駅の近くの病院の待合室にいた。


今日子は、このところ体調がすぐれず、食欲もなかった。
それに貧血がひどく、微熱もあった。
8月の暑い中、休日も返上で仕事をして来た疲れが出たようだった。


この病院の院長と、今日子の父は懇意にしていた。
それで一度診てもらうことになった。


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診察室に入ると、穏やかで優しそうな院長がいた。


父から事情は聞いていると言い、
院長は、更に今日子に詳しい問診をした。
そして簡単な検査をして、診察をした。


今日子は、これまで病気らしい病気もしなかったので
病院とも縁がなかった。


今更ながら自分が健康だったことを思ったりした。
一通りの検査が終わると、院長は今日子に言った。


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「心配はいりませんよ。 おめでたです。
 お腹の赤ちゃんは順調です。 もう13週を過ぎたころでしょう。
 来年の3月には、ママですよ。 可愛い赤ちゃんの誕生です。」


今日子は院長の言葉が信じられなかった。


今日子は、もともと生理不順で
仕事に追われ不規則な生活が続くと、精神的にも肉体的にも
疲労が重なり、何ヶ月も生理がないことがあった。


今回もそんなことを思っていた。
まさか妊娠したとは、夢にも思わなかった。


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喜びと戸惑いの中、病院から母に電話をした。
母はとても喜んでくれた。


母と喜びを共有すると
今日子は妊娠の喜びが、2倍になった。


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夜、仕事が終わって帰宅した今日子は、パソコンに向かった。
大沢に、妊娠のことを知らようとキーボードを叩いた。


けれど今日子は、途中で指を止めた。
こんな大切なことをメールで伝えたくないと思った。


3月には二人の赤ちゃんが生まれる。
大沢の喜ぶ顔を見ながら、妊娠のことを伝えたいと思った。
今日子は来月どんなことがあっても、渡米することを決めた。


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妊娠がわかると、今日子は母になる喜びと責任感から
規則正しい生活を心がけるようになった。


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食欲がなくても、赤ちゃんのためだと思って、栄養のあるものを食べた。
朝もきちんと朝食を取って、会社に行くようにした。
コーヒーはやめて牛乳を飲むようになった。


ハイヒールが好きな今日子は、いつも10センチもあるヒールを履いていた。
それを踵の低い靴にして、休日にはスニーカーを履いた。


10ny21


デパートへ行くと、ベビー用品売り場に足が向いてしまう。
ベビー用品は見ているだけで、今日子を幸せにした。
今日子の母性は、日増しに強くなっていった。


今日子は仕事が辞められず、愛する大沢を一人でニューヨークへ行かせた。
大沢もまた、「結婚」という言葉を口にしなかった。


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仕事に未練がある今日子を自由に羽ばたかせてくれた。
だから今回のプロジェクトチームでも、思いっきり力を発揮できた。


大沢が何も言わずに
一人でニューヨークに発った切ない気持ちも、十分に理解できた。


今日子は、この世で一番大切なものが、ようやくわかりかけてきた。


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子供の頃から、夢に向かって進んで来た。
そしてその夢が叶う職業についた。


自分の力を十二分に発揮して、会社や上司からも認められた。
今回のプロジェクトでは、今日子の企画が評価された。
それは今日子にとって最大の喜びだった。


けれど医者から、妊娠を告げられた時の喜びは
今まで味わったことがないような、大きなものだった。


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今日子の一番大切なものは、大沢とお腹にいる赤ちゃん。
今、そうはっきりと確認できた。


今日子は上司に、妊娠のことを告げた。
そして辞表を出す決心をした。


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9月半ばに、このプロジェクトチームは解散する。
その後、引継ぎと残務整理。
9月末日には退職できそうだった。


11月から始まる新しいプロジェクトチーム。
今度は、今日子がチームリーダーになる予定だった。
けれど今日子は、もう仕事には未練はなかった。


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ある夜、今日子は大沢に一通のメールを送った。


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大沢君、今夜もベイブリッジがきれいに見えます。
まるでお星さまのように、キラキラと、灯りが輝いています。


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今年も東京の夏は暑くて、大変でした。
けれど夜になると、秋の気配を感じる風が吹いてきました。


10ny29


先週、鎌倉の実家に帰ったら、ツクツクボウシが鳴いていました。


行ってしまう夏が哀しいと・・・
「ツクツクボ~シ、ツクツクボ~シ」と、切ない声で鳴いていました。


8月も、終わりです。


10ny30


突然ですが・・・・
9月16日から、5日間お休みが取れたの。


私、ニューヨークに行っていいですか?
実はもう航空券も手配しちゃいました。


10ny31


あなたに会いたくて・・・
あなたに会いたくて・・・
あなたに会いたくて・・・


そして大沢君に、話したいことがある。
あと二週間で、あなたに会える。
嬉しいです。


10ny32


私、ニューヨークへ行きます。
大沢君、今日子を待っていてください。

                今日子


第11章へ  続く・・・


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ニューヨーク恋物語 第9章ニューヨーク編

2008年08月28日 | ニューヨーク恋物語
「まえがき」


昨日、ニューヨークの話題をブログに書いたら
急に「ニューヨーク恋物語」を更新しなきゃ!って思って。(笑)
私って、本当に唐突ですよね。


8月はお盆休みで、家族が家にいて、食事の支度に追われて
それにオリンピックや高校野球をテレビ観戦して
リビングは、とっても暑苦しかったです。


それでも「家族団欒」の喜びをかみしめてみたり。
ご先祖さまをお迎えして、お送りして、ホッとした自分がいました。


旅行もお出かけもしない日々が続いたのに・・・
ブログに書きたい事がらが、毎日目白押しで
有難いな・・・ なんて思って感謝してみたり。


まだまだ、マドンナのナイショ話は、続いていきますから
どうかこの部屋をご訪問くださいね。


         


                          


A1616


さて、3週間ぶりの「ニューヨーク恋物語」です。
「ニューヨーク恋物語 第9章」は、ニューヨークが舞台です。


タイトルが「ニューヨーク恋物語」なのに
ニューヨークを舞台にしているのは、たった3章だけです。


なぜ?・・・って?
理由は簡単なんです。


A1717


当時、ニューヨークの写真が、それほどなかったのです。
2001年9月11日の同時多発テロから半年後に
ニューヨークを訪れた娘が撮った、わずかな写真を使って書きました。


当時、コンパクトデジカメで、娘が撮った写真は画素数も低く
お粗末なものでしたが、私にとっては
「タイムズ・スクエア」も「自由の女神」も「5番街の標識」も
すべてが憧れの対象でした。


そんなわずかなニューヨークの写真を元に
後半のクライマックスシーンを書きあげました。


A2020


この後も、物語は佳境に入り、次第に面白くなっていきます。
どうか、最終章まで、お楽しみくださいね。


上の写真は、ニューヨーク市消防博物館で撮った写真です。


1  2001年9月11日の同時多発テロで活動した消防車
2  同時多発テロで犠牲になった消防士343人の写真 
3  2001年9月11日、あの日、あの時の消防士のひとり


尚、今回の物語の、挿絵の写真は、全て私が撮ったもので
私のHP「マドンナの夢ギャラリー」で使用したものです。


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ミューヨーク恋物語2008  BGM 愛し君へ(森山直太朗)



         


                          



「ニューヨーク恋物語 第9章ニューヨーク編」


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大沢がニューヨークに戻って2ヶ月が過ぎた。
日本ではまもなく梅雨が終わろうとしていた。


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今日子からのメールでは、「今日もまた、雨・・・・」とあった。
梅雨が終わると、東京に暑い夏が訪れる。


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夏になると、二人は毎年、七夕祭りや花火大会へと出かけた。
そんな時、今日子は浴衣を着て、少しはにかんで現れた。


浴衣には、浴衣の化粧があるのかと思うほど
きれいな化粧をして、大沢を驚かせ、そして喜ばせた。
季節がめぐる度に、今日子との思い出がいっぱいだ。


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今回の帰国で、大沢は完全に里心がついてしまった。
一週間もの間、今日子の部屋で暮らしたのは
これまでの付き合いの中で、初めてのことだった。


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長く一緒にいると
お互いの嫌な部分が強調されるのではないかと危惧したが
大沢はそんなことを感じたことはなく
以前にも増して、今日子への気持ちは傾いていった。


今日子のひとつひとつの仕草が、可愛らしくていじらしかった。
目を閉じると、瞼の中に今日子が浮かんで来た。


9ny6


大沢は今日子への想いをかき消すように繁華街へと出た。
けれど一人で飲む酒は、少しも酔えなかった。


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大沢は、ニューヨークではいつも孤独で
得たいの知れない重圧に、押し流されるような思いがした。


それでも負けまいと、この一年やってきた。
今日子の励ましのメールは、どんな時でも心強かった。


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大沢は毎日多忙だった。
時には、ボストンやフィラデルフィアに出張することもあった。


ニューヨークに来て一年余りの間で
現地の人とコミュニケーションが取れ、上手く商談をまとめるようになった。
英語が苦手な大沢にとって、言葉の壁は大きなハードルだった。


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今日子は帰国子女だった。
父親の仕事の関係で、ハイスクールまで海外で暮らしていた。


ニューヨークに転勤になった頃、よく今日子に英語を尋ねた。
今日子は、英語の持つニュアンスを
その時々にふさわしい英語を詳しく説明してメールをくれた。
今日子の英語のアドバイスのお陰で、まとめられた商談もあった。


9ny10


ニューヨークの人は、仕事以外ではジョークが好きだ。
そしてプライベートでは、華やかでエキサイティングなことが好きだ。
そんなノウハウを今日子は教えてくれた。


プライベートを充実させると、仕事もスムーズに行った。
今日子はどんな時でも大沢の相談に乗ってくれた.


9ny11


一年が過ぎ、仕事に慣れると、課題は山積みされた。
大沢は、毎日仕事に追われ、時には自分を見失いそうになる時があった。


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一日の仕事が終わり、アパートに帰ると眠るだけだった。
そんな時、今日子の言葉を思い出す。


「どんなに疲れていてもシャワーは浴びて・・・」
シャワーを浴びると疲れが取れた。
今日子が言った言葉の意味がとてもよくわかる瞬間だった。


9ny13


甘いものが好きな今日子は、よくケーキを買ってくれた。
それを二人で食べる時、今日子は「私は、今が一番幸せ」と言った。


ブルガリの時計をして、エルメスのバーキンを持っていた女が
大沢と二人で、ホワイトクリームのショートケーキを食べる時間を大事にした。


9ny14


大沢の部屋のベットの上には
湘南の海で撮った二人の写真が飾ってあった。


フォトフレームの中の今日子は、満面の笑みで大沢を見ていた。
その横には一年前、ニューヨーク転勤が決まった時に渡せなかった
今日子への指輪が、今もそのまま置いてある。


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そして大沢の机の引き出しには
みなとみらいのホテルの部屋で撮った、今日子の全裸の写真があった。


9ny16


今夜は満月だ。
この瞬間、今日子は太陽の下で働いている。


時差が二人の心まで遠ざけるようで、今夜の大沢はやるせなかった。
大沢はそんなことを毎晩思うようになっていた。


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ニューヨークに来てから、大沢は早くに目が覚めるようになった。
大沢のアパートはセントラルパークの外れにある。
朝のジョギングを始めてもう1年になる。


シープ・メドウまで行き、広い芝生に座って一息つく。
朝のジョギングは大沢の活力になり、気持ちを切り替えられた。


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セントラルパークには、いつも季節の花が咲いていた。
今日子に恋をして以来、大沢はよく今日子を季節の花に例えた。


春の桜、夏のひまわり、秋のコスモス、冬の椿。
大沢にとって、美しいものは、全て今日子だった。


ストロベリー・フィールドには、今日も花が飾られていた。
ここから南に歩けば、すぐに大沢のアパートだ。


カフェでコーヒーを飲んで、大沢は軽い朝食を取った。
それからアパートに帰り、シャワーを浴びて出勤した。


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仕事が始まると今日子への想いが薄らいでゆく。
仕事に忙殺されることが、今の自分にとって、いいことなのだと思う。


ニューヨーク支店への勤務は、初め三年ということだった。
けれど五年は帰れないだろう。
いや、もっとかもしれない。


二人の結婚はどうなるのかと思うと、大沢の気持ちは塞ぐ。
日本に残してきた一人の女に、未練がいっぱいだった。
だからこの忙しさは、返って有難いと思った。


大沢は今日も会社へと出かける。
今日子は今頃、遅い夕食を食べているだろう。


そんなことを思いながらバス停へと急いだ。


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ニューヨークにも、初夏の太陽が顔を見せ始めた。
爽やかな朝である。


第10章に 続く・・・


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