島田裕巳『映画は父を殺すためにある』を読んで “男はつらいよ 寅さん”シリーズに興味をもった。今まで“寅さん”などまったく観たいと思ったことはなかったし、実際に観たのは、テレビで放映された2、3本程度である。
そのうちの1本では、平田満が司法試験受験生役で、橋本公旦の憲法の教科書を読んでいたのが記憶に残っている(調べてみると、“寅次郎恋愛塾”(1985年)という作品のようである)。
映画を通過儀礼(父殺し)という見方によって解釈するという島田の主張は、“寅さん”シリーズには当てはまらないと思うが、“寅さん”が小津安二郎、木下恵介、(さらには黒澤明、夏目漱石!)などとつながっているという指摘に興味をひかれた。
熱しやすく、さめやすい性分のため、さっそくAMAZONで≪男はつらいよ 寅さんDVDマガジン≫(講談社)の古本を数冊注文したが、到着まで待ちきれない。そこで、「旧作7泊8日100円」のツタヤに出かけてレンタルDVDを借りてきた。
小津映画につながる笠智衆、東野英治郎、志村喬、田中絹代、岡田嘉子らの出ているものはAMAZONで注文済みなので、佐藤オリエ、吉永小百合、松坂慶子、大原麗子、桜田淳子、かたせ梨乃など、懐かしい昭和のマドンナを基準に選ぼうと思って出かけた。ところが、彼女たちの出ている作品はみんな貸し出し中だった。
仕方ないので、僕にゆかりのある場所を舞台にした作品を選んだ。
1つは、佐賀県唐津が舞台の“男はつらいよ 寅次郎子守唄”(1974年、マドンナは十朱幸代)。僕の父方の先祖は佐賀県の出である。本籍は佐賀県藤津郡吉田村(現在は嬉野町)にあったが、実際には武雄や唐津に居住していたらしい。
そんなわけで、唐津が舞台の“子守唄”を選んだ。唐津(正確には隣りの呼子港)で出会った月亭八方が置き去りにした赤子を寅さんが柴又に連れ帰ることから始まるドタバタ劇である。
マドンナは十朱幸代だが、唐津の場末のストリッパー役で、我が(赤い殺意!)春川ますみが出ていた。
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もう1つは、去年の夏に女房と出かけた長野県別所温泉が舞台の“寅次郎純情詩集”(1976年、京マチ子、檀ふみ)。
別所温泉にやってきた旅芸人の一座が演じていたのが、徳富蘆花の「不如帰」なのだが、これが寅さんの悲恋(?)の伏線になる。
去年訪れた別所温泉のあちこちが出て来て、懐かしかった。
下の写真は、上田の農村地帯を走る上田電鉄の電車。去年行った時は2両編成だった。
そして、変わらない別所温泉駅の駅舎。
島田は触れていないが、“子守唄”で、八方が赤子を引き取りに来るところは、小津の“長屋紳士録”を思わせるし、“純情詩集”で寅さんが泊った宿屋は、小津“父ありき”で笠智衆、佐野周二父子が泊った宿を思わせる。
ちょうど今日は、芹沢俊介の『家族という意志』(岩波新書)を読んだ。3・11を契機に、家族というより、自殺や中絶、無縁死など、「いのち」を考える本である。
偶然だが、きょう見た“子守唄”はいのちの誕生を、“純情詩集”はいのちの終焉をテーマにした映画だった。
そう言えば、きのうは樺美智子さんの命日だった。
2012/6/16