豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

ジョルジュ・シムノン『証人たち』

2008年07月17日 | 本と雑誌
 
 最近は、DVDの“メグレ警視”シリーズのことばかり書き込んでいるが、久しぶりに、ジョルジュ・シムノンの『証人たち』という小説を読んだ。
 
 どこかの検索サイトでメグレ警部関連の記事を眺めていて、偶然この小説が最近発売されたことを知った。
 来年から裁判員制度が始まることもあって、各社陪審関連の書籍をせっせと刊行しているが、河出書房もこの本のほかにも、『ある陪審員の4日間』というドキュメントを出している。

 この『証人たち』という小説は、メグレ警部ものではないのだが、登場人物の描き方や、事件の起こった町の雰囲気、そして話の展開ぶりなどは、まさに“メグレ警部”そのものである。
 
 “メグレ警部”ものの特徴は、フランス社会が上流階級と下層階級に分かれていることを前提にして、メグレ警部が、つねに下層階級に属する容疑者の側に身をおいて捜査、取調べを進めて行くことにあると思う。
 時に、メグレは、上流階級に属する重罪裁判所の判事に対する敵意すら見せることもある。

 ところが、このメグレ警部ものではない『証人たち』の主人公は、パリ近郊の小さな町の重罪裁判所の判事なのである。
 この判事が、町の下層階級に属する者の間で起きた殺人事件を裁くことになるのだが、シムノンの筆に幻惑されて、この容疑者=被告人がはたして有罪なのか、それとも冤罪なのかということにばかり気をとられていると、この小説の本当の筋を見誤って不意打ちを食らうことになってしまう。

 シムノン自身は、ミス・リードも何もすることなく、隠し絵のようにではあるが、しっかりそちらのストーリーも展開させている。納得のいく結末である。しかし、こちらの事件は、犯罪だったのかどうか・・。そうだとしたら、この本は「冤罪もの」というよりは「完全犯罪もの」ということになるが。
 いずれにしても、“メグレ警部”ものと同様、シムノンは上流階級の側に身をおいてはいない。ただ、いつもの“メグレ”ものとは違って、この本では重罪裁判所判事はたんなる添え物以上に描かれている。暖かい目で描かれているとは言えないとしても。

 一つ、耐えがたかったのは、話がフランスの真冬を舞台にしていたため、やたらと裁判所内の放熱機(どんな物なのか分からないが)が「しゅーしゅーと」音を立てて熱気を放っていたりするシーンが出てくるので、むし暑いこの時期に読むと、汗が吹き出てしまうことである。

 * 写真は、ジョルジュ・シムノン/野口雄司訳『証人たち』(河出書房新社、2008年。原作は1955年刊)の表紙。
 「シムノン本格小説選」というサブタイトルがついているということは、他のシムノンの小説も続いて出るのだろうか。何十年か前に、確か集英社かどこかから、シムノンの“メグレ”ものではない小説が4、5冊でていたように記憶するが・・。

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メグレ警部とシトロエン2CV

2008年07月15日 | テレビ&ポップス
 
 DVD版“メグレ警視 ホテル・マジェスティックの地下室”から、自転車でホテルに出勤する容疑者と、その背景に停車中のシトロエン2CV。
 
 前の書き込みに添付した青の2CVと同じクルマではないだろうか?

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“メグレ警視 マジェスティックの地下室”

2008年07月13日 | テレビ&ポップス
 
 フランスのテレビ版“メグレ警視シリーズ”から“メグレ警視 ホテル・マジェスティックの地下室”を見た。

 選んだ理由は特になし。他に借りた“ジュモン51分の停車”は田舎の風景がよさそうだったし、もう1本の“第1号水門”は原作を読んでいる運河もの(?)なので、もう1本はパリを舞台にしたものを、といった程度の理由から。

 原作は、“Les caves du Majestic”。たびたび引用する長島良三編『名探偵読本2 メグレ警視』(パシフィカ)によれば、メグレ警部シリーズの第40作目で、1939年・冬の執筆とある。同書がつけた邦題は「『荘厳館』の地下室」となっている。
 ひょっとしたら、原作では、舞台はホテルではなく、金持ちの邸宅か別荘なのだろうか。同書は、この作品については内容紹介をまったくしていないので、分からない。
 今回見たDVDでも、この作品を“D'apres le roman de Georges Simenon”とするだけで、他の原作に忠実ないくつかの作品のように、“D'apres le roman "Les caves du Majestc" de Georges Simenon”とはしていない。なぜだろう? 翻案しているからか、していないからなのか。

 この作品には、映像を紹介したいシーンは余りなかった。
 あえていえば、捜査中のメグレが降り立ったタクシーの後方にあのシトロエン2CVが映っていたシーンと、無実だった容疑者が自転車でパリの町を通勤するときに、背後にもシトロエン2CVが映っていたところくらいか。
 まだ5、6本しか見ていないが、このシリーズでは意外と2CVは登場しない。
 
 * 写真は、このDVDの1シーン。メグレが降りたタクシーの後方に路上駐車のシトロエン2CVが見えている。

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“メグレ警視 ジュモン51分の停車”

2008年07月12日 | テレビ&ポップス

 フランスのテレビ・ドラマ“メグレ警視”シリーズから、“メグレ警視 ジュモン51分の停車”を見た。
 ツタヤのWカード会員の金曜日半額セールで数本まとめて借りてきたうちの1本。当初の借りる基準は「原作の雰囲気を映像で見たいもの」だったが、もう何でもよくなって、その時の気分で選んでいる。
 どれにしても、メグレ警部シリーズは大きくはずれることはないから。

 原作は、“Jeumont, 51 minutes d'arret”だが、ドラマの原題は“Un meurtre de premiere classe”(“1等車の殺人”)と改められている。それが日本語字幕版では、ふたたび“ジュモン51分の停車”に改められて(戻されて)いる。
 ちなみに、長島良三編『名探偵読本2 メグレ警視』(パシフィカ、1978年)によると、原作は、1938年に発表されたメグレ・シリーズの第24作目の作品で、「ワルシャワからベルリン経由でエルクリーヌに到着する列車で男が殺される。ベルギー国境に呼び出されたメグレは・・・」と紹介されている。

 フランス人、ポーランド人、ドイツ人などが乗り合わせた国際列車の車内で殺人が起こり、密室だった1等車と繋がっている食堂車だけが、ベルギー国境に近い(らしい)ジュモンという田舎駅の引込み線に停められ、パリからやって来たメグレが、列車が出発する午後9時までに事件を解決するという設定。

 時代は第2次大戦が終わってほどない時期になっているらしく(原作は1938年なのだが)、ナチスに協力した美貌のフランス女性なども登場する。解説には、その時代の雰囲気が出ているとあったが、第2次大戦後のフランスの雰囲気というよりは、時代にかかわりないフランスの片田舎の雰囲気だろう。

 * 写真は、DVD版“メグレ警視 ジュモン51分の停車”から、ジュモン駅の引込み線に停められた車両とメグレ警視(この当時はメグレ警部ではないだろうか・・・)。

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“メグレ警視 サン・フィアクル殺人事件” 3

2008年07月08日 | テレビ&ポップス

 フランスのテレビ・シリーズ“メグレ警視 サン・フィアクル殺人事件”から、メグレ警視夫婦が、メグレ夫人が運転する愛車でメグレの故郷であるサン・フィアクルに向かうシーン。

 長島良三『メグレ警視』(読売新聞、1978年)によると、サン・フィアクルという村は、フランス中部アリエ県ムーランから25キロほど離れたマティニョンというところにある、となっている(8ページ)。
 ここでメグレは1886年に生まれている。
 この村が実在する村なのか、DVDに映っている風景がその村のものなのか、などは分からない。

 クルマも、シトロエンなのかプジョーなのか、ルノーなのか、分からない。ネコ・パブリッシングの“世界自動車図鑑”シリーズでも探せば分かるのだろうが。

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“メグレ警視 サン・フィアクル殺人事件” 2

2008年07月06日 | テレビ&ポップス
 
 きのう見た“メグレ警視 サン・フィアクル殺人事件”から、サン・フィアクル伯爵邸。
 
 すなわち、この屋敷の執事の子として生まれたメグレ警部にとっての生家ということになるのか。

 この屋敷と故郷から飛び出し、パリ警視庁の警視にまでなったメグレは、かつての主人(サン・フィアクル伯爵)のドラ息子に対して、いまだにへりくだった言葉遣いをしていた(もちろん日本語の字幕によれば)。

 フランスの階級制度というのは、そういうものらしい。

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“メグレ警視 サン・フィアクル殺人事件”

2008年07月05日 | テレビ&ポップス
 
 きのう、夕立ちがやんでから、ツタヤに出かけて、メグレ警視シリーズの“サン・フィアクル殺人事件”を借りてきた。

 6月28日から7月4日までは半額セール(?)をやっていたが、クーポンを写メールしていかなかったので、定価(当日380円)。もったいないことをした。

 今回は、以前に書いた“聖歌隊少年の証言”の原作(『サン・フィアクル殺人事件』の第3章)との関係を探るのが目的。

 で、分かったことは、要するにDVD版(=テレビ版)では、原作の『サン・フィアクル殺人事件』(原題は“L'affaire Sant-Fiacre”)を2つ(それ以上かも)に分割して、メグレの少年時代の思い出の部分は“聖歌隊少年の証言”に、メグレの故郷で起こった事件それ自体は、今回の“サン・フィアクル殺人事件”で描いた、ということのようだ。

 長島良三氏の解説によると、メグレは、ホームズやポワロと違って、その生い立ちを知ることができる探偵という点が特色のひとつだという。
 まさに、今回の『サン・フィアクル殺人事件』や、『メグレの回想録』(世界ミステリ全集、早川書房、1965年、所収)によって、作者のシムノン自身がメグレの少年時代を描いているのだ。
 これらに記されたメグレの生い立ちは、長島良三『メグレ警視--La vie du commissaire Maigret』(読売新聞社、1978年)の第1部「メグレの履歴」でも知ることができる。

 なお、今回のDVDには、メグレの妻が登場する。原作の活字から得られる印象では、メグレの妻は、もっとふくよかで母親的な女性のように思えたのだが、昨日見たのでは、なかなか知的で積極的な、ときにメグレが殺意を抱くほど辛らつなこともある女性であった。

 * 写真は、DVD版“メグレ警視 サン・フィアクル殺人事件”のタイトル。

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