豆豆先生の研究室

ぼくの気ままなnostalgic journeyです。

“フロスト警部 ゆがんだ愛”

2008年07月26日 | テレビ&ポップス

 “フロスト警部 ゆがんだ愛”も、家族内部で起こった犯罪を扱っている。

 製作は1999年頃だが、今日でも依然問題となっている家族内での児童虐待、それも性的虐待がテーマである。
 たんなる探偵番組では視聴率が取れないから、離婚だの買春だの児童虐待、薬物中毒だのといった世俗的なテーマを絡ませるのは、海外ミステリーの常套手段である。

 しかし、“女警部ジュリー・レスコー”あたりならまだしも、“メグレ”や“フロスト”までもがそんなことはやって欲しくない。メグレはメグレだけで、フロストはフロストだけで、そこに起きた事件およびその関係者と伴走してくれれば十分なのだが。

 さて、フロスト警部の“ゆがんだ愛”では、メインの事件と並行して、忍耐の限度を超えた老妻が口やかましい夫を殺してしまう事件が描かれる。
 老妻をたんなる殺人犯として扱おうとする若い女刑事を、フロストが「頑固おやじ」になって叱り飛ばしたりするのだが、余りにもモラリスト然としていて、フロストらしくないのである。

 本筋の家族内で起きた事件の方は、1999年頃のイギリスの社会問題の一つだった未成年者の中絶や性的虐待がテーマになっている。こういう社会派的テーマはフロストらしくないと思うのだが、個人的には興味をそそられた。

 と言うのは、かつて同時代のイギリス貴族院判決を研究対象にしていたことがあるからだ。ギリック事件といって、16歳未満の未成年者に対して、親の承諾なしに医師は避妊薬(ピル)を投与してよいかどうかが争われた。
 そして、1985年の貴族院判決は、3:2の僅差だったが、判断能力の成熟した少女が親への連絡を拒否した場合には、親の承諾なしにピルを処方してよいと判決した。

 今回のドラマを見ると、まさに親への連絡なしに中絶せざるを得ない未成年者がいることを思い知らされる。

 この回の話は、かつてスカパーで見たことを途中で思い出したが、どんな筋でどんな結末だったかは、記憶になかった。
 そして、不覚にも(またしても)、ラストシーンでは目頭が熱くなった。

 確かに、フロストと部下の刑事の「擬似親子関係」は伏線として描かれていた。そうすると、実はこの話(“ゆがんだ愛”)のメインの事件は、曲々しい性的虐待の事件ではなく、幼い娘を急病で失ったことから夫婦関係に亀裂を生じた老夫婦間の事件の方だったのかも知れない。

 “No Other Love”という原題の意味も(直訳では意味不明だが)、そういうことではなかったのだろうか。

 * 写真は、ミステリーチャンネル“フロスト警部 ゆがんだ愛”からと思ったのだが、この事件の後のフロストの失意の日々を描いた“過去を語る死体”の1シーン。

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“メグレ警視” VS “フロスト警部”

2008年07月26日 | テレビ&ポップス

 “メグレ警視 ベンチの男”と“フロスト警部 ゆがんだ愛”を見た。

 どちらも家族のなかで起きた犯罪がテーマである。どちらも、テレビの向こう側にいる視聴者を計算しすぎている。
 純粋な(とぼくが考える)“メグレもの”、“フロストもの”としては、挟雑物が多すぎる印象であった。

 “メグレ警視とベンチの男”は、メグレが自分の担当した事件の裁判(予審?)で、未成年者である被告人の弁護士から尋問を受けるシーンから始まる。
 弁護士が、「あなたは被告人に対して暴力をふるったことはないか?」と質問されると、メグレは、「父親が息子に対してするようにしたことはある」と答える。
 さらに弁護士が「あなたには子どもはあるのか?」と質すと、メグレは、「かつて娘がいたが、幼くして他界した」と答える。

 メグレものでは、メグレ夫人は時おり登場するが、メグレの子どもは登場しない・メグレに子どもがいたかどうかは好事家たちの議論の対象らしいが(確か長島良三氏の“メグレ”関連書のどこかに、「メグレには女の子がいたが幼くして亡くなっている」と書いてあった)、テレビ版では、このシーンで明らかになる。
 原作(の翻訳)の『メグレ警視とベンチの男』(矢野浩三郎訳、河出書房)には、この法廷での証言シーンはない。

 いずれにしても、このことが伏線になって、テレビ版“メグレ警視とベンチの男”では、被害者である中年男性とその娘のエピソードが描かれる。被害者の男は、会社を首になったことを家族に隠して3年間パリの街角のベンチに座って、時おり悪事とアバンチュールを楽しんでいる。
 偶然それを目撃した娘は、そのことをネタに父親から金を無心する。メグレは取調室でその娘の頬を平手打ちにする。「お父さんの代わりに殴る」と言って。

 しかし、ぼくはこの流れは必要ないと思う。“メグレ”ものとしては、失職したことを恐妻に隠して、3年間パリのベンチに座り続けた男の物語だけで十分な気がした。
 メグレに「お父さん」の役割など期待しているファンなどいるのだろうか、と思う。

 これに対して、“フロスト警部 ゆがんだ愛”も、家族内部で起こった犯罪を扱っているが、これについては続きで・・・。

 * 写真は、FOX CRIME “メグレ警視 ベンチの男”(原題は、“Maigret et l'homme du banc”)のラスト・シーン。
 パリ郊外の、元売春婦が経営する「曖昧宿」(翻訳本ではそう訳されていた)を後にするメグレ。

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