“フロスト警部 ゆがんだ愛”も、家族内部で起こった犯罪を扱っている。
製作は1999年頃だが、今日でも依然問題となっている家族内での児童虐待、それも性的虐待がテーマである。
たんなる探偵番組では視聴率が取れないから、離婚だの買春だの児童虐待、薬物中毒だのといった世俗的なテーマを絡ませるのは、海外ミステリーの常套手段である。
しかし、“女警部ジュリー・レスコー”あたりならまだしも、“メグレ”や“フロスト”までもがそんなことはやって欲しくない。メグレはメグレだけで、フロストはフロストだけで、そこに起きた事件およびその関係者と伴走してくれれば十分なのだが。
さて、フロスト警部の“ゆがんだ愛”では、メインの事件と並行して、忍耐の限度を超えた老妻が口やかましい夫を殺してしまう事件が描かれる。
老妻をたんなる殺人犯として扱おうとする若い女刑事を、フロストが「頑固おやじ」になって叱り飛ばしたりするのだが、余りにもモラリスト然としていて、フロストらしくないのである。
本筋の家族内で起きた事件の方は、1999年頃のイギリスの社会問題の一つだった未成年者の中絶や性的虐待がテーマになっている。こういう社会派的テーマはフロストらしくないと思うのだが、個人的には興味をそそられた。
と言うのは、かつて同時代のイギリス貴族院判決を研究対象にしていたことがあるからだ。ギリック事件といって、16歳未満の未成年者に対して、親の承諾なしに医師は避妊薬(ピル)を投与してよいかどうかが争われた。
そして、1985年の貴族院判決は、3:2の僅差だったが、判断能力の成熟した少女が親への連絡を拒否した場合には、親の承諾なしにピルを処方してよいと判決した。
今回のドラマを見ると、まさに親への連絡なしに中絶せざるを得ない未成年者がいることを思い知らされる。
この回の話は、かつてスカパーで見たことを途中で思い出したが、どんな筋でどんな結末だったかは、記憶になかった。
そして、不覚にも(またしても)、ラストシーンでは目頭が熱くなった。
確かに、フロストと部下の刑事の「擬似親子関係」は伏線として描かれていた。そうすると、実はこの話(“ゆがんだ愛”)のメインの事件は、曲々しい性的虐待の事件ではなく、幼い娘を急病で失ったことから夫婦関係に亀裂を生じた老夫婦間の事件の方だったのかも知れない。
“No Other Love”という原題の意味も(直訳では意味不明だが)、そういうことではなかったのだろうか。
* 写真は、ミステリーチャンネル“フロスト警部 ゆがんだ愛”からと思ったのだが、この事件の後のフロストの失意の日々を描いた“過去を語る死体”の1シーン。