ツタヤで借りてきたDVD“メグレ警視 第1号水門”を見たのは、先週の月曜日、フランスの革命記念日というか、パリ祭の日だった。
偶然このドラマも、バスチーユにつながる市電の車内から始まる。
暗い内容だった。舞台はパリ近郊の運河の河岸である。成り上がりの倉庫会社社長と、かつて彼の船の船頭だった老人が、二人して運河でおぼれている所から話は始まる。
二人とも命は助かるのだが、二人とも運河に転落した事情を話したがらない。何らかの事情を察知したメグレは、背中を刺されて運河に転落した社長に向かって、「捜査を取りやめてもいい」と言うが、彼は「勝手にしろ!」と答えるだけで、自分の転落についての捜査を望んでいるのか、いないのかも分からない。
やがて、社長のひとり息子が縊死しているのが見つかり、続いて、尋問を受けた水門管理事務所の助手も縊死しているのが見つかる。
恐ろしいことに、フランスのテレビ番組は、縊死死体の顔まで写すのである。
社長と元船頭をめぐる関係が明らかになってくるのに従って、次第に事件の意味が明らかになり、犯人も明らかになってくるのだが、ちょっとしたフランス映画の雰囲気がある。とくにガッサンという元船頭の演技がいい。
隠れたテーマが不倫と非嫡出子の問題であり、真実の父親から感染させられた脳梅毒が事件を解く鍵になっているというのも、いかにもフランスらしい。
テレビドラマのストーリーは原作をほぼ忠実に再現している。
パリの中心から事件の舞台になった運河の河岸までは、《バスチーユ=クレティユ》間を走る市電13番線でつながっていると原作(の翻訳)に書いてあるが(『13の秘密』創元推理文庫135頁)、ドラマの冒頭でも、メグレ警部は路面電車のデッキから降り立って現場に向かっている。
倉庫会社に雇われた番頭の趣味がクロスワード・パズルというような細かいことまで、そのままである。
* 写真は、DVD版“メグレ警視 第1号水門”(原題は“L'Ecluse no 1”)のラスト・シーン。メグレは後ろ姿のシルエットが一番ふさわしいと思うので、原則的にそのようなシーンを選んでいる。
原作のほうは、長島良三編『名探偵読本2 メグレ警視』(パシフィカ)によれば、1933年4月に刊行されたメグレ警部ものの第18作だそうだ。