ホイッスラーのピーコックルームの感想文が先行したが、引き続き、浜美のホイッスラー展本体の紹介に入りたい。
まず、会場でホイッスラー(1834-1903)本人が迎えてくれる。”灰色のアレンジメント・自画像”(1872)。38歳で、”ノクターン”をはじめ独自の芸術世界を確立した頃で自信に満ち溢れた顔だと説明があった。画題に色名を付しているのは、人物描写に内面性の表現など必要がない、色と形の配置と調和こそ重要だという主張なのだそうだ。第1章、人物画。
とはいっても、初期の頃の肖像画は”農婦”(1855)にしろ”煙草を吸う老人”(1859)にしろ、内面性まで描いている風にみえる。そして、代表作のひとつといわれる”灰色と黒のアレンジメントNo.2:トーマス・カーライルの肖像”(1872-73)。歴史家・評論家であったカーライルがホイスッラーの絵を気に入り、制作を依頼したものだそうだ。これも、内面性がよく現れている顔のように思うが。この絵の横には、漱石著の”カーライル博物館”が開いて、置いてある。その扉絵が橋口五葉のカーライルの横顔で、この肖像画をモデルにしている。
肖像画部門では、”黄色と金色のハーモニー:ゴールドガール・コニーギルクリスト”(1876-77)と”ライム・リジスの小さなバラ”(1895)の二人の美少女が輝いていた。ぼくは毎年、展覧会でみた”年間美女ベストテン”を発表しているので、この観点も重要なのだ(汗)。
灰色のアレンジメント:自画像
灰色と黒のアレンジメント No.2:トーマス・カーライルの肖像(一部)。 橋口五葉の絵はこの反転。
ライム・リジスの小さなバラ
ゴールドガール・コニーギルクリスト
第二章は風景画。初期の厚塗りではなく、薄めた絵具を使って描いたという”肌色と緑色の黄昏:バルパライソ”(1866)が印象的。レアリスムから唯美主義への転機の作品とのこと。一方、”オールド・ウェストミンスター・ブリッジの最後”(1862)は、まるで記録写真を残すように、写実的にウェストミンスター・ブリッジの工事現場を描いている。
肌色と緑色の黄昏:バルパライソ
そしてお待ちかねの第三章ジャポニスム。ポスターやちらしに使われた、白いドレスの女性。画題のように、まさに白いシンフォニー♪。ふたつ並んで展示されている。
”白のシンフォニー No.2:小さなホワイト・ガール”(1864)。唯美主義とジャポニスムの混合。団扇やお椀、染付なども描かれている。モデルはホイッスラーの愛人ジョーだそうだ。寂しそうな表情は1年後に別居する前兆かも。画題の”白のシンフォニー”は、あとから付けたものだって。
”白のシンフォニー No.3”(1865-67)。No.3だが、最初の音楽的なタイトルを冠した作品。そこから逆算して、以前の作品を”白いシンフォニー”シリーズに組み入れた。ソファーに寄りかかる、けだるい感じの女性は、さきほどのジョー。左下に画題を書きいれているが主題はない。絵に主題は不要、教訓のためではなく、”芸術のための芸術”でよし、との信念が伺われる、という。
”紫とバラ色:6つのマークのランゲ・ライゼン”(1864)
ジャポニスムの影響がよく現れているのはこの絵だろうか。広重、北斎が好きだったようだ。このノクターン・シリーズでホイッスラーのジャポニスムを取り入れた芸術のための芸術は完成したとのこと。
ノクターン:青と金色-オールド・バターシー・ブリッジ(1872-75)
”名所江戸百景のうち京橋竹がし”広重
出口にホイッスラーの言葉が。
音楽が音の詩であるように、絵画は視覚の詩である。そして主題は音や色彩のハーモニーとは何のかかわりもないのである。