今日は市民派議員向けの勉強会なので、とりあえず、
下書きしといた記事をアップして、と思い、
『東京島』(桐野夏生著)を紹介しようと書きはじめたら、
この本、なんと19日に谷崎潤一郎賞を受賞していました。
谷崎潤一郎賞に桐野夏生さんの『東京島』 2008.8.20 読売新聞 第44回谷崎潤一郎賞(中央公論新社主催)は19日、桐野夏生さん(56)の「東京島」(新潮社)に決まった。副賞100万円。 受賞作は、南海の無人島「トウキョウ」に漂着し30人以上の男性との逆ハーレム状況に置かれた女性が、男たちの寵愛(ちょうあい)を受け、ときに異端視されながら生き抜いていく物語。 選考会では「孤島を舞台に様々な人間を登場させ、人の行動パターンをすべて見せてしまうというからくりは、よくできている」などと評価された。 贈呈式は10月17日午後6時から、東京・丸の内のパレスホテルで。 (2008年8月20日 読売新聞) |
『東京島』(桐野夏生/新潮社/2008)
あたしは必ず、脱出してみせる――。ノンストップ最新長篇!
32人が流れ着いた太平洋の涯の島に、女は清子ひとりだけ。いつまで待っても、無人島に助けの船は来ず、いつしか皆は島をトウキョウ島と呼ぶようになる。果たして、ここは地獄か、楽園か? いつか脱出できるのか――。欲を剥き出しに生に縋りつく人間たちの極限状態を容赦なく描き、読む者の手を止めさせない傑作長篇誕生!
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桐野夏生/著 キリノ・ナツオ
1951年金沢市生れ。成蹊大学卒。1993年『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞を受賞する。1998年『OUT』で日本推理作家協会賞、1999年『柔らかな頬』で直木賞、2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞、2004年『残虐記』で柴田錬三郎賞、2005年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞を受賞した。また英訳版『OUT』は2004年に日本人初のエドガー賞候補となる。著書に『アンボス・ムンドス』『I'm sorry,mama.』『メタボラ』など多数ある。
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この本は、あまり書評で絶賛されるので、読んでみたくなったもの。
実は、桐野夏生さんの本は初めてなのですが、最初立ち読みしていたのですが、
奇抜な設定と独特の文体に、つい引き込まれ、
本を買って最後まで読んでしまいました。
以下、わたしが本を買う気になった、書評の一部です。
やっぱり、本は、かって読むのが一番です。
2008.6.7 中日新聞
東京島 [著]桐野夏生 2008年5月25日 朝日新聞 [評者]鴻巣友季子(翻訳家)■リアリズムも超越した不敵な野心作 一作ごとに話題を集める作者の新刊である。「無人島への漂着」という古典的なモチーフを、現代文学においてどう料理してみせるのか? 那覇港を出帆したクルーザーがほどなく難破、一組の夫婦が見知らぬ無人島に流れつく。3カ月後には、離島でのきついバイトから逃げてきたフリーターが23人、その後には日本への密航中に捨てられた中国人が10人余り、漂着して自給自足の生活を始める。唯一の女性がセックスの力で島に君臨し、リーダーが入れ替わり、中国勢との対立や裏切りがあり、かくして救出を待って5年、女は父親の定まらない子を孕(はら)む。 18世紀の『ロビンソン・クルーソー』は、無人島の自然と生活を克明に描写して、近代リアリズム文学の起点となった。『東京島』はそれへの挑戦状かもしれない。片方だけ残った靴を描いて持ち主の死を表現した『クルーソー』のリアリズムに対し、本作は止まった腕時計が「喪失」を暗示したりするものの、作品の主眼は現実の「リアルな」描写にはない。船は波間であっというまにバラバラになり、人は崖(がけ)から転落すると次には白骨化している。無人島作品が必ず直面する文字の筆記手段の問題にしても、島に唯一の帳面をめぐって「紙と言葉の物語」が展開しかけるが、作者はそんな約束事をも悠々と覆してしまう。 さりとて『蠅(はえ)の王』さながらのサバイバル劇かといえば、島には食物が豊富で、日本の若者たちはアクセサリー作りなどをゆるゆるやっている。舞台は無人島ながら、そこに描かれるのは作者が得意とする都市型の底辺生活なのだ。 凡庸な小説であれば、リアリティーを云々(うんぬん)されかねない。ところが、『東京島』はリアリズムなんてものを振り落とさんばかりの力で突き進む。しまいには、桐野夏生と近代リアリズムの一騎打ちの様相すら呈してくる気がしてゾクゾクした。本作の魅力と凄(すご)みは現代ノベルのそれというより、始めのテイル(tale)のものなのだ。この存在感をリアルと言わずになんと言おう。またもや不敵な野心作が登場した。 ◇ きりの・なつお 51年生まれ。作家。『柔らかな頬(ほほ)』で直木賞。『メタボラ』ほか。 (2008年5月25日 朝日新聞) |
【本よみうり堂】桐野夏生さん 新作「東京島」に4年の歳月 「不自由の中の自由」を漂流 「逆ハーレムって、男の人も困るでしょうね」=横山就平撮影 桐野夏生さんが、無人島に漂着した人々のサバイバル劇を生々しく描き出した小説『東京島』(新潮社)を発表した。「どこまで自由に無から有を生み出せるか」試みた意欲作だ。(佐藤憲一) 自身最長の4年の歳月をかけ、初めての文芸誌掲載作にもなる。締め切りなど制約も多い小説誌や週刊誌での創作に比べ、「『新潮』の編集者から何をやってもいいといわれ、締め切りも縛られなかったので、自由で楽しい仕事だった」と振り返る。 物語のヒントは、太平洋戦争末期、孤島に流れ着いた約30人の男性と一人の女性が7年間暮らし、「南島の女王蜂」などとスキャンダラスに報道されたアナタハン島事件だ。桐野さんが現代のフィリピン沖に創造した無人島には、日本人夫婦に23人のフリーター集団、11人の中国人が次々と流れ着く。 救援の船をひたすら待つ人々が島に名づけたのはトウキョウ。日本の若者たちは、仲のいい人同士で、ブクロ(池袋)、ジュク(新宿)などの集落に分かれて、生きがい探しに走る。 「ロビンソン・クルーソーのように何かが欠乏したり、収容所もののように閉じられた空間で人が変わっていく話が好きなんです。自分がそんな耐乏生活するのは嫌ですけど」と笑う。 たくましく自活の道を見いだす中国人グループに比べ、強いリーダーを見いだせない日本の若者たち……。島の中にはオダイバや危険な廃棄物の捨てられたトーカイムラまである。「今時の人たちが、無人島暮らしをしたらエセ東京を作りそうだと思っただけ」というが、トウキョウは、現代の縮図のようにも見える。 40代の一人の女性に対して30人余の若い男という逆ハーレムの状況に置かれる清子は、男たちの寵愛(ちょうあい)を受ける絶頂期と異端として排除される凋落(ちょうらく)期の間を浮遊し、やがて島と同化する。 「力はなくても、サバイバルの本能を全開にし生き抜いていく清子のしたたかさや荒々しさを描きたかった。図らずも妊娠してしまう女という体のうっとうしさも含めて」 実はこの1年ほど、「小説の書き方を忘れたようなスランプ」だったという。妻の壮絶な嫉妬(しっと)に苦しむ夫を実体験を元に描いた島尾敏雄の『死の棘』を別の雑誌連載の関連で再読、その「毒にあたった」からだ。 「現実の怖さに比べフィクションがどれだけ強いか、虚構の中のリアリティーは何かと考え込んでしまって……」 それでも「以前の『グロテスク』では、坂道でこぼした水の線がどこまでも延びていくイメージがあった。空間的に閉ざされた『東京島』の場合、深く深く掘って鍾乳洞を発見するような収穫があった」と語る。つまり、限定された舞台でも自在に物語を深める手段を得たということだ。「不自由の中の自由を知って、変われるような気がする」という作家は、楽園のような島に飽きたらず、漂流を続ける。 (2008年6月3日 読売新聞) |
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