みどりの一期一会

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堺市住民監査請求の解説と評価/特定図書リストについての分析-補足

2009-01-06 09:32:08 | 「ジェンダー図書排除」事件
年末に届いた「監査結果」について、行政の仕事はじめの昨日、
堺市政記者クラブに監査請求の代理人の解説と評価を送りました。

監査請求は昨年11月4日に提出し、「60日以内」の期限が1月2日なので、
12月28日付で届いていたものです。

「特定図書排除に関する住民監査請求書 (堺市職員措置請求書)」PDF版

堺市「特定図書排除に関する住民監査請求書」の
監査結果が届きました。(2008-12-30)



            堺市住民監査請求・代理人事務局の解説と評価
                                    
                     2009年1月5日 寺町知正
             特定図書排除に関する住民監査請求書 
 2008年11月4日に提出した「堺市の特定図書排除に関する住民監査請求」の監査結果が同年12月28日付けで発せられた。全25ページであるが、大部分が私たちの住民監査請求書をそのまま再掲し、監査としては最後の約5ページである。
 監査結果の要点は次のように整理できる。

○「特定分野の図書であることを理由とした除籍及び廃棄は、行われていないし、監査請求の対象とされている図書が廃棄されていないことは監査委員においてもこの事実を確認している。」
○「本件図書は9月3日以降、18歳末満の者への閲覧及び貸し出しが制限されていたが、11月14日にはこれらの制限が解除された。」
○「以上のことから、請求人が住民監査請求の対象とした事実は、存在しなくなったものと認められる。」。
○「3 結 論   以上のとおり、請求人が住民監査請求の対象とした事実は存在しなくなったと判断される以上、本件の住民監査請求は主張の前提を欠くこととなり、請求人の主張を検討するまでもなく理由がないものと判断される。」

 この監査結果を平たく言えば、住民監査請求のときには市民が心配した状況は存在した、しかし、それら懸念される事態は、その後、なくなったので請求は「棄却」する、ということである。
 裏返せば、住民監査請求しなければ、「特定図書の排除、廃棄」という懸念された事態がんどん進行していったという可能性が極めて高いといわざるを得ない。

 なぜなら、監査委員が時系列で経過をまとめているように、館長会議などで「BL図書に該当すると思われるものについて、閉架(書庫入れ)し、今後は収集しない、18歳未満の者には貸出ししない」と正式に意思決定していたからだ。

 しかも、司書らの主観による極めて曖昧な「BL図書に該当すると思われる」と特定した5千数百冊を一括してその扱いにしていくことも固まっていたと考えられる。

 従前の図書館側の説明では、「やおい小説の取り扱い基準」に従ってBL図書を書庫にいれただけという旨だった。その後、「館長会議において、これまで書庫内の一定の書棚にまとめていた図書は、一般図書として取り扱うことを確認」ということで収まった。
つまり、図書館において、実質的に「やおい小説」「ボーイズラブ」等という概念や認識をなくし、一般図書と同様に扱うことにしたということになる。

 今回の経過と監査結果について、私たちは、当初の期待通りの内容であり、住民監査請求は形としては「棄却」だったが、特定図書の排除が反省され、見直されたのだから、住民監査請求を提起した所期の目的は達せられた。

 つまり、「(監査の)結果は負け」であるが「(全体の)結論では勝った」。

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       堺市住民監査請求・代理人代表の住民監査請求の際のコメントの再掲

 どんな理由があれ、公共の図書館における図書の排除や検閲はゆるされない。
情報公開と表現の自由は民主主義の基本だ。
 たとえ反対意見であってもそれを発表する自由を守るというのが、「表現の自由」だ。
 わたしたちは福井県の図書排除事件以来、情報公開と表現の自由のために闘ってきた。
 日本中、どこで同じようなことがあっても、闘うだろう。
 図書排除の要求をした関係者の図書館行政への不当な介入と、その要求を受けいれた堺市の不見識とに猛省を促したい。

2008年11月4日        
                  上野千鶴子  東京大学大学院教授
                  「ジェンダー図書排除」究明原告団・代表

《以上、本件住民監査請求関係の問い合わせや連絡先》
寺町知正 Tel/fax 0581-22-4989)



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「特定図書排除に関する住民監査請求」について、12月9日の陳述で
図書リストを分析した「補充書(意見書)」を提出したのですが、
提出に間に合わなかった意見が届きましたので、
補足として、以下に紹介します。

特定図書リストについての分析-1(12/31)

特定図書リストについての分析-2(12/31)

特定図書リストについての分析-3(12/31)


上記、 特定図書リストについての分析の続き(補足)です。

(特定図書リストについての分析-補足)
特定図書排除に関する住民監査請求  補充書・補足

 11月の住民監査請求補充書に対し、提出後にお寄せいただいたご意見を補足でしるしておく。
 基本的には、補充書の第3節の項目に対応させて分類した。
 前回の補充書では、該当する項目がなかったものは、「補足」として項目番号をつけている。口頭でいただいたご意見は、ご本人の了承を得て、熱田がまとめなおしている。

 <選定基準に一貫性が無い> 
補足1・90年代前半以前にハードカバーで出版された「耽美」・「BL」書籍が全く指定されていない
 

 「90年代前半より以前に,ハードカバーで出版された耽美・BL書籍」が、ほとんど指定されていない。具体例を挙げれば、吉原理恵子『間の楔』(1990年、光風社出版)、栗本薫『翼あるもの』(上下巻ともに1981年出版、文芸春秋)、栗本薫ほか共著の『紫音と綺羅』(上下巻ともに1990年、光風社出版)等が指定されてない。いずれも、男性同性愛を取り扱っているだけではなく、比較的激しい性描写がある作品である。
(金田淳子様メール)

補足2・ハードカバー版では指定されず文庫版が指定されている本がある。 

 文章は全く同じで、出版社と出版形態が変化し、イラストがついたというだけで、指定された本がある。具体的には、栗本薫『元禄無頼』(1985年の光風社出版では指定外,1993年の角川ルビー文庫版で指定)である。
(金田淳子様メール)

<「BL」という無定義なジャンル概念を、無理に、恣意的な基準でくくろうとしたことによる問題> 
(10)「文学」は指定されず、「ライトノベルズ」など若者向けジャンルのみが指定されている

 同性愛のセックス描写が直接的だが、いわゆる「文学」として流通しているものが指定外になっている。
 比留間久夫『YES・YES・YES』、ウィリアム・バロウズ『裸のランチ』、ジョン・フォックス『潮騒の少年』などの作品である。
三島由紀夫,大江健三郎の作品で同性愛を取り扱い、性描写のあるものなども、指定外にされている。例えば三島『禁色』、大江『宙返り』など。

<「過激な性描写」を理由に「BL」を排除することの恣意性>  
(13)性描写の程度による振り分けがなされていない

 ルビー文庫の作品で、指定されてないが,同性愛のセックス描写の過激なものがある。
 尾鮭あさみ『舞え水仙花』(1992年),『悪名西遊記』(1994年)などである。おそらく、イラストだけを見ると、片方の男性キャラクターが女性キャラクターであるように見えて、男女のカップルであるように誤読されたからだと思われる。
また、桑原水菜『炎の蜃気楼』シリーズ(1990~、集英社コバルト文庫)が全部指定外となっている。男性どうしのカップルが大きな主題となり、性描写も克明に描かれた作品である。
(金田淳子様メール)

図 1・『舞え水仙花』表紙

 金田様がご指摘くださっている、『炎の蜃気楼』シリーズは、今回分析対象とした911リストの前段階、821リストで、外伝の『真皓(しろ)き残響‐夜叉誕生』(外伝1)のみが指定対象となっている。この指定は911でははずされた。しかし、『真皓き残響‐夜叉誕生』は、同シリーズの中でも、表紙、挿絵、本文ともに一切の男性同士の性描写がない作品である。(形状はソフトカバーの単行本で、他の作品がコバルト文庫の文庫形態をとっているのと少々異なる)
『炎の蜃気楼』シリーズでは、男性主人公と彼の家臣である男性の間の、性描写を伴う恋愛が描かれている。ただしこの性描写は、彼らの関係の進展にともなって徐々にその度合いを深めていくもので、全40巻(+外伝6巻)のシリーズ中盤以降にならないと、キスや、抱擁以上の性行為はでてこない。(主人公の過去のトラウマとして、被レイプ体験が断片的に語られる部分は若干ある)何故彼らが、執拗なまでに互いの気持ちを受け入れられないのかが、シリーズ前半の要となっているためである。反面、シリーズ後半では、官能的な描写が増えてくる。堺市図書館では、同シリーズを計73冊所蔵しており、無論、中には性描写のあるシリーズ後半作品も含まれる。(2008/12/10、堺市図書館蔵書検索調べ)
 何故、性描写のあるシリーズ後半作品が指定されず、この本が指定されたのか。また、何故この本が911リストからははずされて、補充書3節(6)(7)(8)などであげられたような、性描写のない他の作品がリストに登録されたままなのか。どちらの理由も全く不明である。(さらに言えば、8月21日リストよりもさらに精査されたのが9月21日リストであるならば、本書がはずれるかわりにシリーズ後半の性描写が濃厚な作品が入ってこなければおかしい)
 外伝の挿絵作家・ほたか乱氏が、「BL」的な同人誌を描いていることから(ほたか氏の作品が「過激な性描写」だということではない)、性描写のないこの本まで一度指定され、後ではずされたのだろうか? だとしたら、指定した人物は相当な「BL」通である。
もしくは、たんに、同書・同シリーズについて全く知識のない人物が、「男性二人が描かれた漫画絵」が表紙=BLである、という偏見に基づいて指定した結果の誤解なのかもしれない。
(口頭で複数のご協力者様から寄せられた意見を、熱田がまとめたもの)

図 2・『真皓き残響―夜叉誕生』表紙

(15)男女間の性描写がある、ヘテロ男性読者向けの本は性行為の度合いにかかわらず今回指定がない・補足 

 指定されているBLと同程度に「過激」な異性愛セックス描写については、全く野放しになっている。このような作品は枚挙にいとまがないが、たとえば菊地秀行による一連の作品群(『魔王伝』など)では、強姦、三人以上でのセックス、18歳未満の男女のセックスなどが、一冊の作品につき必ず複数回、描写されている。
また、セックス描写どころか、暴力的・強制的な身体改造にまで踏み込んだ作品として、沼正三『家畜人ヤプー』などがあるが、指定されていない。BLの排除理由に「子どもが衝撃を受ける」という仮定があるとしたら、男性の顔面を女性器に作り変える、人糞を人間に食べさせるというような描写が無数にある『ヤプー』のほうが、子どもが衝撃を受けると思われるが、どうか。
(金田淳子様)

 不思議なことに、今回、補充書3節・(10)であげた同性愛文学作品は、堺市では殆どが書庫などに置かれているのに対し、こうしたヘテロセクシュアル男性向けの「官能小説」(?) は、その多くが開架に置かれている。(2008/11/7、12/10堺市図書館蔵書検索調べ)(熱田)



今回、堺市は、わたしたちからの住民監査請求を受けて、
「やおい」「ボーイズラブ」という概念をはずして「一般図書」としました。

とはいえ、「表紙、挿絵、イラスト等で過激なもの」という基準はなくさず
5706冊を一冊ずつ精査したようですが、どの本を残して、どの本を開架に
移動した(戻した)かは、現時点では判明していません。

陳述時の図書館の説明によると、4500冊は元々閉架にあったそうで、
1000冊ほどが、貸し出しが多かったので書棚に出ていたとのこと。
年末の報道によると、「過激なもの」?は100冊程度と推測できますが、
残りは「一般図書」として開架に戻した、ということでしょうか。

図書館側は、すみわけをしたつもりかもしれませんが、
「表紙、挿絵、イラスト等で過激なもの」とするなら、
図書リストの分析のなかでも問題点を指摘しているように、
対象になる本は、異性愛も含めて、189万冊の蔵書にあると思います。

「過激なもの」の基準は、どこで線引きしたのでしょう。

すべての資料を精査するつもりなのでしょうか。
そうでなければ、特定図書だけを対象に線引き(ゾーニング)したことになり、
図書館の対応は矛盾し、さらに問題点は残ります。

ということで、
この問題は一件落着というわけにもいかないようです(笑)。

関係者のみなさま、今年もよろしくお願いします


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