みどりの一期一会

当事者の経験と情報を伝えあい、あらたなコミュニケーションツールとしての可能性を模索したい。

自治とはなにか~人間には自治の本能/「特別困難」係長?不適切昇級141市町村で

2009-08-17 10:23:11 | 市民運動/市民自治/政治
朝起きて新聞を読もうとして気がついた。
あっ、きょうは新聞休刊日だ。

活字中毒のわたしとしては毎朝読む新聞がないのはちょっとさびしいのですが、
昨日の各紙の記事や書評欄などを詳細に読み、フセンをべたべたとつけました(笑)。

各社のトップ記事は、毎日新聞、読売新聞、中日新聞が「新型インフルエンザで国内初の死者」の記事。
この新型インフルエンザの記事については、改めて紹介したいと思っています。
あすはいよいよ衆議院議員選挙の公示日で、岐阜新聞のトップ記事は「衆院選18日に公示」。

中日新聞の社説「週のはじめに考える」がとてもよかったので紹介します。

【社説】人間には自治の本能 週のはじめに考える 
中日新聞 2009年8月16日

 旧盆の帰省はたのしいものですが、故郷の衰退にさびしさを抱く人もいたかもしれません。地方自治に欠けてきたものは何か、考え直してみます。
 すこし歴史を振り返ってみましょう。憲法でいうと、戦後、戦争放棄とともに旧憲法にはなかった新たなものとして加わったのが地方自治でした。法律から憲法へ格上げされたわけですが、中央集権時代の明治・大正の政治家でもこんなふうに言う人がいました。

 医師後藤新平の発想
 「人間には自治の本能がある」
 旧満鉄初代総裁、内相、外相、東京市長などをつとめた後藤新平です。岩手・水沢藩の医家に生まれ、明治に入り二十代で愛知県病院長兼愛知医学校長(今の名古屋大学医学部と付属病院)に就任。自由党党首板垣退助が岐阜で襲われた際、急ぎ往診して一躍有名になりました。「板垣死すとも自由は死せず」と叫んだとされるあの事件です。
 「自治の本能がある」は東京市長になるころ出した「自治生活の新精神」(一九一九年)と題する小冊子の文の冒頭に掲げられました。理由は医師らしく生物的自衛と説きます。つまり生物は牙や甲羅で身を守るけれど、人間は集団で助け合ってこそ自分たちを守ることができる、それが自治なのだというわけです(藤原書店「後藤新平とは何か・自治」所収)。
 単純な比喩(ひゆ)に聞こえますが、彼が言いたいのは自治は洋の東西を問わぬ人類共通の観念ということなのでしょう。明治政府が参考にした欧州の自治、セルフ・ガバメントはもちろん知っていて、それを日本の村の助け合い、結いに比してもいます。大礼服の高官も印半纏(しるしばんてん)の庶民も等しく談笑できる自治会館が欲しいと述べている。今で言うなら公民館でしょうか。
 自治でもうひとつ大切なのは自治体と国家との関係です。

 知事会は誰のためか
 先月、三重県で開催の全国知事会の取材から帰ってきた同僚がある光景を話しました。
 今の消費税の1%分に当たる地方消費税率上げをめぐる議論で、会場の空気は地方財政の破綻(はたん)は目に見えている、消費税そのものが上がるかもしれないが上げる方向でまとめるしかない、という雰囲気だったそうです。
 各知事に意見が求められ、新潟県の泉田裕彦知事が「やるべきことをやったうえでの増税議論でないと理解は得られない」と述べ、大阪府の橋下徹知事も異を唱えました。これは一体誰のためなのかということです。答えはもちろん住民のためですが、多くの知事はまず県のためを考えたのではないでしょうか。後藤に言わせるなら、民意の反映不十分と一喝するところでしょう。
 地方自治について欧米には「民主主義の学校である」という格言があります。
 町や村など最小の社会共同体で首長や議員を選び、住民は監視する。むろん失敗もあるので首長、議員の解職請求もできる。直接民主制の一形態で、利点の第一は住民が学び、うんと賢くなること。だから学校というわけです。
 市民税10%カットを公約に当選した名古屋市の河村たかし市長が答弁した一般質問を傍聴したことがありました。名古屋市議会は独特の円形議場で傍聴席はそれを見下ろします。入り口でもらった傍聴券番号は百十一番。傍聴席はほぼ埋まっていました。議場静粛の規則を破って傍聴席から拍手も批判も何度か飛び出しました。でもその意気込みは好ましく、頼もしく見えました。
 失礼な言い方になりますが、民主主義の学校であり、自治の本能の表れだとも思いました。前者は自治のシステムを言い、後者は自治の参加意識を言うのであり、この二つの目指すところは同じなのです。市長も議会も役所もわれわれ住民がしっかり監視しようではありませんか。
 今の地方分権への動きは、中央政府お任せ主義でなく、外交や軍事、金融などを除き、できるだけ広い範囲で自治のことは収入も支出も自治に任せてくれということです。その分、もちろん自治体、住民の責任も重くなります。

 今考えたい自治の三訣
 知られるように後藤は(1)人の世話にならぬよう(2)人の世話をするよう(3)そして報いを求めぬよう、を「自治の三訣(けつ)」として唱え続けました。ここで戦前の道徳論を説く気など毛頭ありませんが、弱い隣人を助け、健全堅固で永続的な自治を築くには、住民にこの三訣は欠かせないと思います。自治はそれぞれが人間の原点に近づき、本来の暮らしを取り戻す有力な道です。そういう希望を言葉にすれば「人間には自治の本能がある」となるのかもしれませんし、そうあってほしいと思うのです。
(中日新聞 2009年8月16日)



「本能」というのは、ちょっと違和感があるのですが、
「自治はそれぞれが人間の原点に近づき、本来の暮らしを取り戻す有力な道です。」という言葉には共感します。

自治とはなにか。市民とはだれか。住民自治とはなにか・・・
わたしもこの問いについてはずいぶん考え、わたしなりの答えを本に書きましたので、紹介します。

  
『市民派議員になるための本』(寺町みどり著/上野千鶴子プロデュース/学陽書房)

第一部 自治
第1章 自治とは・・・
 1-1 自治とはなにか?

 まずはじめに、基本のキからおさえておきましょう。でないとなんのために「政治」にかかわるのか、とりちがえることになりかねません。
 自治ってなに? 自治体ってなに? 政治ってなに? 意外とみなさん知らないものです。あなたもきっと、ヘェーって思うことでしょう。
 「自治」とは、「みずからの自由意志に基づき、自由に行為を行うこと」です。
 「自治体」とは、ものごとを決めるシステムのある地域社会のこと、そこで日々くらすひとびとの集団です。「役所は自治体の事務所」と法律に書いてあります。「みずから」とは、あなたのことであり、わたしのことです。
 当事者はわたし。
 「わたしのまちのことは、わたしが決める」。目からウロコ、でした。

《参考》
「地方自治の本旨」とは→地方自治の本旨とはなにか明文された規定はないが、「国から独立した地方公共団体がその判断と責任で行う団体自治と、その事務の処理や事業の実施を住民の意思に基づいて行う住民自治の二つの要素がともに満たされることが必要である。団体自治は地方分権の原理を示し、住民自治は民主主義の精神をあらわすものと考えられるが、一般的には住民自治が地方自治の本質的要素であり、団体自治はその法制的要素である。(『議員必携』より)」といわれている。
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 1‐2 「市民」とはだれか?


 あなたは、市民ですか? 住民ですか? どう呼ばれたいですか。
 「市民」というと、主体的な意思を持つ住民、という意味のように聞こえます。法律には、市民という言葉は出てきません。「住民自治」「住民監査請求」「住民及び滞在者」「住民の意義」すべて住民と書いてあります。
 「自治」が住民自治であることを考えれば、「市民」は「わたしのことは、わたしが決める」ひとびとのすべてをいうはずです。
 自治体の当事者はすべてのわたし。
 この本では「わたしのことは、わたしが決めたい」すべてのひとびとを、「市民」と呼ぶことにします。
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 1-3 住民自治とはなにか?


 おさないころに別れた友と再会したときから、わたしのなかに大きな問いが生まれました。
 住民とはなにか?
 彼女はわたしと同じまちで生まれ、共に笑い、共に泣き、共に遊んだ友でした。30年後、彼女は「わたし指紋押捺を拒否する決心をしたの。みいちゃん、わたしといっしょにきてほしい」と在日コリアンとして本名をなのり、わたしの目の前に立っていました。
 住民とは、「自由な意志を持ち、地域社会でくらすすべてのひとびと」です。外国人も、おとしよりも、子どもも、障がい者も、「住民はひとしく行政サービスを受け、その負担を分担する」と法律に定められています。でも外国人には住民自治の基本の権利である「参政権」はありません。その他の義務はひとしく住民として負っているのに、です。
 参政権とは、諸権利のなかの権利、自分の運命を自分で決める権利のことです。その地域社会に日々くらしている、すべてのひとびとが、自分の運命を自分の意思で決めることができる-それが住民自治ではないでしょうか。
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 1‐4 「市民の政治」とはなにか?

 自治体政治の現場では、利益誘導型の利権政治が横行しています。行政が、住民の福祉や安全や健康を上から与える行政主導の発想で動き、市民を統治し抑圧しています。 
  「市民の政治」とは、代議制の議会の限界を越える、直接民主主義をみずから実践する「市民による自治」にほかなりません。法律は意思決定においても「議会を置かず有権者による町村総会を設けること」を認めています。
 「市民の政治」の実現は、遠くにある目標ではありません。日々の「市民=わたしたち」のくらしの場で実践されるものです。
 憲法と地方自治法がつくられて55年。いくら待っても実現されない「画に描いたモチ」を、もうわたしは待ってはいられません。「市民の自治」は、市民自身が、あなたが、わたしが、いま・ここで、つくっていくしかありません。


どの政党が政権をとるのかは、この国のゆくえや地方自治にとって大きなこととは思いますが、
この国がどのような形に変わろうが、どの政党が政権をとっても、
基本は、「市民自治」にある、という思いは変わることはありません。


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とはいえ、
「自治」を担う(はずの)自治体みずからが、市民のために働くはずの公務員を
違法に優遇している、という自治体の現状も、見逃せません。

8月14日の読売新聞の一面トップ記事。
いまだにこんなことが横行しているのか、とあきれたのはわたしだけではないでしょう。

係長の上に「特別困難」係長? 不適切昇級141市町村
「わたり」9200人 年33億円

8月14日3時4分配信 読売新聞

 地方公務員の役職を複数の「級」にまたがるように給料表で格付けするなどして、職務より上位の給料を支払う「わたり」が、141市町村で行われていることが、読売新聞の調べでわかった。
 不適切な人件費は約9200人分、年間33億円に上るとみられる。総務省も「給与は職務と責任に応ずる」と定めた地方公務員法に違反するとして、初の実態把握に乗り出した。9月にも是正指導する方針だ。

本紙調査
 調査は、47都道府県に対し、市町村分を含めてわたりの有無(4月1日現在)を聞いたところ、都道府県分はすべてが「なし」と回答。市町村分については、26都道府県がわたりの存在を認めた。市町村数では奈良が16と最も多く、京都13、大分12、北海道11と続いた。18政令市にも尋ねたが、浜松市のみが「あり」とした。
 約9200人の大半は、1人当たり月額3万円前後で一部では6万円前後、職責に応じた職務より高い給料を得ている計算になる。
 総務省は、地方公務員の役職と級の関係が、国家公務員の基準と著しく違わないよう改善を求めてきた。しかし、是正済みの自治体が報告するだけで、わたりの全体像は不明だった。

 ◆業務内容同じなのに◆
 「公務員の給料は年齢とともに上がる」という「年功序列」を維持するため、自治体はわたりに手を染める。
 「特別困難」(5級)「相当困難」(4級)「係長」(3級)。山形県米沢市の係長職は、の3ランクにわかれる。「特別」と「相当」の職務の違いについて、市は市は「業務量や質で区別する」と説明。ただ、「具体的基準はなく、実際の業務内容が同じと批判されても仕方ない」。今春、「特別」の16人が県からわたりにあたると指摘を受けた。いずれも50歳代のベテラン職員といい、市は「定年退職によりいずれなくなる」と釈明する。
 合併して係長級が増えすぎたため、新たに係の数を増やした自治体もある。京都府木津川市(7級制)は係長(4~3級)のうち4級の40人について、府から「3級が相当」として、わたりの指摘を受けた。
 2007年3月に3町が合併した際、「係長、主査、主任という係長級が急増した」(木津川市)。給料の引き下げを防ぐ「苦肉の策」として、係長の下に「担当係長」も4人置いた。担当者は「課は増やせないが係は多少融通が利く。ただ、こじつけと指摘されても反論できない」と話す。
 土居丈朗・慶応大教授(財政学)は「仕事の責任やリスクを伴わず、給料だけが上がっていく仕組みは不透明で、わたりはやめるべきだ」と話している。
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 ◆わたり…公務員の給料支給に際し、実際の職務に対応する給料表の級より、支給額が高い上位の級の給料を支払うこと。同じ役職の職員が、複数の級にわたって存在する様子に由来する。これに対し、国の官僚が天下りを繰り返す「渡り」は、「渡り鳥」の略称。
読売新聞 8月14日3時4分


違法な「わたり」に手を染める自治体は、多くないと思いたいのですが、該当する自治体は率先して改めるか、
市民が「住民監査請求」をして違法な支出を変換させるか、ですね。


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