常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

キクザキイチゲ

2014年04月03日 | 


春の楽しみは、山菜もあるが、野生に咲く花もまた忘れ難い。あの森のどのあたりか、山菜が採れる場所と一番に咲く野草の場所は不思議に記憶に残っている。なぜ記憶に残るのかと考えると、そこに見つけた花の美しさへの感動が強烈であるからだ。この場所へ行ったも、この花を目当てにしたのではない。フキノトウやアサツキを探しなら歩いているうちに、この花の群落に出会った。ほんの一区画である。微妙な日影や日当たり、水分の補給など、この花が咲く条件に適した森の片隅に、イチゲの花が咲き乱れる。

花を求めて、蝶々や蜂がひとつ、ふたつと蜜を吸いに来る。春の暖かい日差しと、花をふるわせる風が吹きぬけていく。花だけが美しいのではない。日差しも風も、小さな昆虫たちがあいまってつくりだす春の風情、それらが綜合して記憶のなかに定着する。

今日はしも匂ふがごとき春の風 中村 汀女

今日の気温20℃、朝から日差しがあったが次第に雲って夕方から小雨になる。ベランダに小鳥が来て遊んでいる。つい1週間まであちこちに残った雪はすっかり消えた。

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老年と読書

2014年04月03日 | 読書


若き日の教室で、田中菊雄先生から英語の講義を受けた。先生は講義にトーマス・ハーディの小説『テス』を選んだ。田舎育ちのテスは、ある名家へ奉公に出されるが、そこの息子に犯されて妊娠する。テスは生んだ子を殺して埋葬する。その家の息子から捨てられたテスはそこで8年間牛の父絞りをする。教会の牧師の息子クレアと恋仲になるが、クレアが過去を告白したので自らの過去も告白する。その告白に衝撃を受けたクレアは、見知らぬ土地ブラジルへ去る。その淋しさから、テスは奉公先の息子とよりを戻し身を任せるようになる。そうするうちにクレアが戻ってくる。テスは奉公先の息子を殺し、死刑になる。

先生は英文の文章を朗読すると、その文を日本語に訳していった。先生は講義の間、小説の世界に没頭した。テスの喜びが文章の表れると、先生の声は大きくなり教室中に響いた。悲しみのなかにテスがあるときは、先生は目を閉じ、静かな声で訳した。先生は小説を読むことの重要性を力説した。これまで読んだ幾百篇の小説が、いかに人生について教え、生活の内容を豊かにし、人生の深さと広さ光と影を見せてくれるのだと説いた。

先生が書いた『現代読書法』の一節に、「老年と読書」がある。その中で老年を支えるものが読書であることを強調している。そしてブラウニングの詩の一節を引いている。

 老いゆけよ我と共に、
 人の世の華咲きいでむ、
若き命はは老いの蕾ぞ。

そして先生は言う。「青年には未来がある。希望がある。未発の力がある。青年は現に持っていない何らかの力を持っている。それが青年の強みだ。しかし、若返った老年にはとても及ばない。若返った老年!これこそ人生の華なのだ。」

この先生の教えは私の財産である。先生の強い励ましの言葉が、年老いた私の心に響いてくる。


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