春の楽しみは、山菜もあるが、野生に咲く花もまた忘れ難い。あの森のどのあたりか、山菜が採れる場所と一番に咲く野草の場所は不思議に記憶に残っている。なぜ記憶に残るのかと考えると、そこに見つけた花の美しさへの感動が強烈であるからだ。この場所へ行ったも、この花を目当てにしたのではない。フキノトウやアサツキを探しなら歩いているうちに、この花の群落に出会った。ほんの一区画である。微妙な日影や日当たり、水分の補給など、この花が咲く条件に適した森の片隅に、イチゲの花が咲き乱れる。
花を求めて、蝶々や蜂がひとつ、ふたつと蜜を吸いに来る。春の暖かい日差しと、花をふるわせる風が吹きぬけていく。花だけが美しいのではない。日差しも風も、小さな昆虫たちがあいまってつくりだす春の風情、それらが綜合して記憶のなかに定着する。
今日はしも匂ふがごとき春の風 中村 汀女
今日の気温20℃、朝から日差しがあったが次第に雲って夕方から小雨になる。ベランダに小鳥が来て遊んでいる。つい1週間まであちこちに残った雪はすっかり消えた。