『市子』
監督:戸田彬弘
出演:杉咲花,若葉竜也,森永悠希,倉悠貴,中田青渚,石川瑠華,大浦千佳,渡辺大知,宇野祥平,中村ゆり他
シネ・リーブル梅田にて2本ハシゴの1本目。
昨年末に公開したときから気になっていました。年が明けてから鑑賞の機会に恵まれる。
戸田彬弘監督自身が手がけた舞台『川辺市⼦のために』を映画化した作品なのだそうです。
125分と、2時間超の割と長尺なのですが、もっと長くて濃密に感じる時間でした。
けれども、1秒たりとも飽きることはありません。
涙を浮かべて感激していた市子だったのに、翌日長谷川が帰宅すると、彼女の姿はなかった。
警察に相談したところ、刑事の後藤修治(宇野祥平)が話を聴きに来てくれる。
長谷川と市子はお互いの過去についてほとんど話したことがなかったから、
後藤に話そうにも市子のことを何も知らないと改めて思い知らされる長谷川。
10年以上前に白骨死体が生駒山中で発見された事件について、
市子とその母親・なつみ(中村ゆり)が関わっていた可能性を示唆されて驚く。
後藤から聴いた話をもとに、過去に市子と関わりがあったとおぼしき人を訪ねはじめた長谷川は、
彼女が壮絶な人生を送ってきたことを知るのだが……。
とてもつらい話です。
市子とはいったい誰なのか。かつての彼女は月子と名乗っていたらしい。
彼女の過去など何も知らなくても問題ないし、それで幸せだった長谷川。
きっと彼女のほうもそうだったし、プロポーズされて嬉しかったのは事実なのに、
「結婚」となると困る。解決できない問題がいろいろ出てきてしまう。
無戸籍、重い障害のあるきょうだい、こうして生きて行くしかなかった母と子。
市子役の杉咲花が恋愛もののヒロインを演じるときはいつも違和感がありますが、
こういうエキセントリックな女性を演じるときの彼女は素晴らしい。
そして彼女を探す長谷川役の若葉竜也の胸の内を思うとつらくて仕方ありません。
森永悠希演じる高校の同級生の「僕にしか彼女を守れない」というのは傲慢だと思う。
彼女のことを何も知らなくても、一緒に夢を持とうと言うキキ役の中田青渚には救われます。
市子は今も生きている。別の誰かとして。
彼女が市子として生きられることはないのかと思うと悲しすぎる。