夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『世界で一番美しい夜』

2009年05月12日 | 映画(さ行)
『世界で一番美しい夜』
監督:天願大介
出演:田口トモロヲ,月船さらら,市川春樹,松岡俊介,
   美知枝,江口のりこ,佐野史郎,石橋凌他

文化庁推薦映画なのにR-18指定って、どやねん?
公開中から興味をそそられて。

上映時間160分という大長編。
映画館だと嫌でも一気に観ますから、
やはり映画館で観るべきだったかと思われましたが、
観始めたらそんな懸念はどこへやら。
イラストレーター、スズキコージ氏の絵をアニメーションにしたオープニングは、
掴み、完璧。

日本の西のはずれにある要村(かなめむら)は、
日本一出生率の高い村として、内閣総理大臣から表彰されることに。
お祭り騒ぎに沸く村を冷めた目で見つめる少女ミドリ。
こんな離島の辺鄙な村が、なぜ出生率日本一となったのか。
彼女はその発端である出来事を突き止め、レポートとして学校に提出するが、
先生に「このことは誰にも話してはいけない」と釘を刺される。
そんなミドリが私たちに話してくれる秘密の中身は……。

14年前のある日、新聞記者の水野が村にやって来る。
彼は本社で不祥事を起こして左遷されたのだが、
いつか特ダネをモノにして帰る気でいる。
しかし、同じように左遷された身である上司は、
一生戻れるわけがないと嘲笑う。

ネタを求めて村を歩き回っていた水野は、
スナック“天女”の美人ママ、輝子が、
過去に婚約者と夫を亡くしていることを知る。
殺人事件の匂いを嗅ぎ取った水野は、
輝子の周辺を洗い始めるのだが……。

エロあり、ゲロあり、オカルトあり。
でも不思議と明るい、壮大なホラ話。
村人の誰も彼もが相当なイカレよう。
縄文オタクでロリコンの校長。
知能指数が高すぎて白痴だと思われている少女。
権威を笠に着て無茶を言う宮司。
船で生活する過激派らしき男。
どの役も、クセのある出演陣の好演でめちゃ楽しい。

過激派らしき男は、SEXこそが世界を救うという信念のもと、
SEXによるテロを目論んでいます。
子どもがボコボコ生まれた縄文時代に使用された精力剤の発掘にいそしみ、
ついにそれを見つけて究極の媚薬を発明。
そして、『パフューム ある人殺しの物語』(2006)に匹敵する大乱交が。
貞操帯着用の月船さららも必見。(^^;

そんなわけで、R-18指定の理由は明らかですが、
なぜに文化庁推薦?古代文明の偉大さがわかるとでも?
人類は、進化がすべてじゃないということでしょうか。
退化して眠る、美しき夜。

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『GSワンダーランド』

2009年05月09日 | 映画(さ行)
『GSワンダーランド』
監督:本田隆一
出演:栗山千明,石田卓也,水嶋ヒロ,浅利陽介,武田真治,
   杉本哲太,温水洋一,大杉漣,岸部一徳他

GS=グループサウンズ。
1960年代後半、ビートルズが来日して以来、
みずから楽器を演奏し歌うというグループが次々と現れて大流行。
本作は、人気の若手俳優が出演しているものの、
内容としてはアラウンド60向けかなぁと思いつつレンタル。
そうしたら、めちゃくちゃオモロイやんか。

GSブームに沸く1968年。
演歌専門レーベルのファインレコーズも、
GSの新人バンドをデビューさせようと躍起に。
社内でGS部門担当となった佐々木は、
弱小プロダクション社長の梶井に新人発掘を任せる。

バンド探しに苦労する梶井の耳にふと届いたのは、
マサオ、シュン、ケンタが結成したばかりの“ザ・ダイアモンズ”の演奏。
早速、彼らをスカウトする梶井。

ところが、佐々木は、新人バンドのデビュー曲として用意したものは
オルガンがメインの曲なので、オルガンがいなくては駄目だと言う。
困り果てた梶井は、以前事務所を訪れた歌手志望の女性ミクが
キーボードもできると話していたのを思い出し、
将来のソロ・デビューを条件に、
彼女に無理やり男装をさせてメンバーに加えることに。

1曲目は売り上げ23枚に終わるが、
白タイツにマッシュルームカット、王子様風ファッションで、
バンド名を“ザ・タイツメン”と変えて2曲目を売り出したところ、
ミクのルックスの良さも手伝って、人気バンドとなるのだが……。

冒頭の日劇のシーンに登場する、
ザ・タイガースのベーシストだったサリーこと、
岸部一徳のそっくりさんは、実の息子さんだそうです。
岸部一徳はファインレコーズの社長役で出演し、
昔懐かしの曲を口ずさむというサービスぶり。

主題歌でもあるザ・タイツメンの“海岸線のホテル”は、
作詞=橋本淳、作曲=筒美京平のゴールデンコンビという設定で、ホンマもん。
“ブルー・ライト・ヨコハマ”もこのコンビの曲ですね。

ビートルズが秋田の山中で極秘に演奏の指導をしてくれるらしいという嘘も、
当時なら信じる人がいても不思議じゃない気がしました。
プロダクションの社長役、武田真治と、
オッサン4人組バンド、ザ・フレッシュフォーが断然イケてます。

ハッピーエンドじゃなくとも、ほろ苦い青春の良き想い出。
ソノシートじゃない(=オマケじゃない)人生、送りましょ。

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大好きでした、忌野清志郎様。

2009年05月07日 | 映画(番外編:映画と音楽)
お世辞にも演技が上手とは言えず、台詞はほとんど棒読み。
だけど、そこにいることがいつも楽しくてたまらない様子で、
目は「への字」で描けそうなほどニコニコ。
どんな映画でも、彼が出てきただけでこちらも笑ってしまう。
私にとってはそんな人でした。

『カタクリ家の幸福』(2001)は、
宿泊客が次々と死んでしまうペンションを舞台にした、
シニカルな笑い満載のブラック・コメディだったのに、
彼の登場シーンだけはちがいました。
リチャード佐川という名前のお金持ち役だったかと思いますが、
延々ニコニコしていて、何がそんなにおもろいねんとツッコミたくなるほど。
その顔を見ているだけで大笑いしてしまいました。

『サヨナラCOLOR』(2004)の同窓会シーンは、
いま思い出しても可笑しいです。
だって、原田知世の同級生役が竹中直人と忌野清志郎って、
ホンマ、アンタら、あつまかしすぎ。(^^;

『妖怪大戦争』(2005)で「ぬらりひょん」を演じたときも、
『恋の門』(2004)で松田龍平演じる主人公と同じアパートの住人を演じたときもあの笑顔。
『たみおのしあわせ』(2007)では、原田芳雄となぜかよく遭遇する、
携帯電話を片時も離さない通りすがりの男役で、その役名も「変な男」。
その存在が可笑しくて、私はやはり大笑いしていました。
必要かどうかも不明な役でありながら、存在感はバッチリです。

RCサクセションの曲は、そんなに聴いたわけではありません。
ただ、『!(アイ・オー)』(1991)でテーマ曲として使われた“スローバラード”は、
映画のイメージをぐっと引き上げるぐらい、効果的でした。
『20世紀少年』の堤幸彦監督が、堤ユキヒコと名乗っていた頃の作品で、
DVD化もされていないので、今では稀少品かもしれません。
柴田恭兵、錦織一清、大槻ケンヂの3人が主演で、
ロードショーで観たものの、ストーリーはよく覚えておらず、
ひたすら印象に残っているのは、大槻ケンヂが岡部まりに告白するシーン。
言葉にできない代わりに、たどたどしく“スローバラード”を歌います。
ここでボロ泣きをした思い出が。

「悪い予感のかけらもないさ」。
あの「への字」の目の笑顔を見ていると、
良いことを考えよう、そう思えました。
歌詞とは裏腹に、メロディーは切なかったけれど。

ご冥福をお祈りします。

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『グラン・トリノ』

2009年05月01日 | 映画(か行)
『グラン・トリノ』(原題:Gran Torino)
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリント・イーストウッド,ビー・ヴァン,アーニー・ハー,
   クリストファー・カーリー,コリー・ハードリクト他

本作を最後に、クリント・イーストウッドは俳優業を引退するとの噂。
是が非でも観に行かなければ。

朝鮮戦争からの帰還兵で、80歳に手が届こうかというウォルト。
50年間、フォードの自動車工として勤め上げた彼は、愛国心の塊。
しかし、それが行き過ぎて、時代の変化を受け容れようとしない。
移民を徹底的に嫌い、日本車に乗る息子を冷ややかに見つめ、
妻の葬儀にヘソ出しルックで参列した孫娘に苦い顔。
弔問客のことも「料理をただ食いしに来た奴」としか捉えられない。

息子たちはこんな父親を持て余して距離を置く。
唯一、ウォルトのことを気に懸け続けるのは、まだ若い神父。
ウォルトの妻の遺言を守ろうとしているのだ。
しかし、ウォルトは若造の言葉など聞こうとしない。

ウォルトが愛してやまないものは、
1972年型のフォード車、グラン・トリノ。
この車を手入れするときだけ、彼は心の平穏を取り戻す。

ある夜、グラン・トリノを狙って泥棒が入る。
未遂に終わるが、犯人は隣家に住むモン族の気弱な息子タオだった。
後日、タオが少年ギャング団に絡まれているのを見たウォルトは、
自分の庭を荒らされるのが嫌で、ライフルで少年らを追い払ったところ、
結果的にタオを助けることに。

犬猿の仲だった隣家から、
ウォルトに感謝の意を込めて次々と贈り物が届けられる。
さらには、お節介なタオの母親と姉が訪れ、
車を盗もうとしたお詫びに、身の回りの世話をタオにさせてくれと言う。
迷惑に思うウォルトだったが、次第にタオのことを可愛がるようになる。

今までにも何度か書いたことがあるように、
俳優としてのイーストウッドはもうキツイかなと思っていました。
だって、どう見てもお爺ちゃんなのに、
年のわりにどころか、あり得ないぐらいたくましかったり、
年齢差ありすぎの若い美女と絡んだりして、無理がありましたから。

だから、本作には驚かされました。
実年齢を実年齢のままで見せてくれるイーストウッド。
息が上がったり、思ったように動けない、
だけど、変化を認めたくない頑固オヤジ。
心が解きほぐされる過程は、シリアス一辺倒ではなく、
ユーモアがちりばめられていて秀逸です。

ラストにはガツンとやられて、涙ひとすじ。
魂で撃ちに行く。

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