夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『宮廷画家ゴヤは見た』

2009年06月17日 | 映画(か行)
『宮廷画家ゴヤは見た』(原題:Goya's Ghosts)
監督:ミロス・フォアマン
出演:ハビエル・バルデム,ナタリー・ポートマン,ステラン・スカルスガルド他

画家つながりでもう1本。
アメリカ/スペインの作品です。
市原悦子を思い起こすタイトルですが、原題は“Goya's Ghosts”。
実在の画家フランシスコ・デ・ゴヤの目を通し、
その時代に起こり得た架空の出来事を描いています。

18世紀末のスペイン。
国王カルロス4世の宮廷画家に任命されたゴヤは、
腐敗した権力者たちを辛辣に風刺した版画を制作し続けている。
カトリック教会はそんな彼を問題視しているが、
ロレンソ神父の提案で、一介の画家を気にするよりも、
教会の権威を今こそ民衆に示そうと、異端審問を強化。

ある日、富裕な商人であるトマスの娘イネスが、
居酒屋で豚肉を嫌がる素振りを見せたことから、
異教徒の疑いありとして異端審問所に出頭させられる。
イネスはただ豚肉が苦手なだけだと懸命に話すが、
拷問に耐えられず、異教徒であると自白してしまう。

トマスは、ロレンソの肖像画を請け負っていたゴヤに、
ロレンソを紹介してほしいと頼む。
以前、イネスの肖像画を見て惹かれていたロレンソは、
獄中の彼女に面会はするものの、釈放する権限など自分にはない。

ロレンソはトマスの屋敷を訪れると、
「無実であれば拷問を受けても嘘の自白などしないはず」と言ってのける。
それを聞いたトマスは、ロレンソを縛り上げ、拷問する。
ロレンソは痛みに耐えられず、
トマスが作成した「私はサルだ」という告白書にサインする。

告白書を公表されては困るロレンソは、
異端審問所長にイネスの釈放を掛け合うが却下される。
恥をさらしたロレンソは国外へ逃亡。

それから15年が経過し、異端審問の廃止とともに囚人は釈放される。
変わり果てた風貌のイネスは、なんと獄中でロレンソの子どもを出産していた。
昔の記憶を頼りにゴヤのもとを訪れるのだが……。

『カッコーの巣の上で』(1975)や『アマデウス』(1984)と同監督。
御年77ですが、腕が衰えるどころか凄まじいパワー。
狂ったイネスの純粋さと正気のロレンソの醜悪さを
これでもかというほど見せつけます。
ゴヤ役は『マンマ・ミーア!』(2008)の父親候補その3だった人。常に控えめ。

本作を観た後に足利事件のニュースを聴いたので、
無実であっても拷問されれば自白してしまうものだということに大納得。

別件ですけど、ほんとにカエルも降りましたねぇ。(*^^*)

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『画家と庭師とカンパーニュ』

2009年06月15日 | 映画(か行)
『画家と庭師とカンパーニュ』(原題:Dialogue Avec Mon Jardinier)
監督:ジャン・ベッケル
出演:ダニエル・オートゥイユ,ジャン=ピエール・ダルッサン他

フランスの作品。
監督は、巨匠ジャック・ベッケルの息子、ジャン・ベッケル。
同監督の作品を観るのは、『クリクリのいた夏』(1999)、『ピエロの赤い鼻』(2003)、
そして本作の3本ですが、どれも大好き。

都会の暮らしに疲れ果てた売れっ子画家が、
数十年ぶりに故郷のカンパーニュ地方に帰る。
両親はすでに亡くなり、実家である屋敷は荒れ放題。
庭の手入れのために庭師を雇ったところ、
やって来たのは小学校時代の同級生。

当時、先生にこっぴどく叱られたいたずらや、
卒業してからこれまでの出来事について語り合うふたり。
好きな姓を名乗れるなら何がいいかという話で盛り上がり、
お互いをキャンバス(実際はPinceau=絵筆)、ジャルダン(Jardin=庭)と呼ぶことに。

原題は“Dialogue avec mon Jardinier”で、直訳すると「庭師との会話」。
そのとおり、彼らの会話のみで進行すると言っても過言ではないので、
観る人によっては退屈きわまりないかもしれません。
でも、こんな人生を見つめ直す時間があってもいいなぁ。

画家は経済的に恵まれていながら、幸せが見えません。
妻とは離婚調停中、娘は画家と同年代の男と結婚すると言います。
こうして家族との関係でストレスを抱えているうえに、
顧客の依頼で描きたくもないものを描いているから、
絵を描いている時間がちっとも楽しくない。
唯一、心をさらけ出せる庭師に、みずから絵の感想を求めたくせに、
「楽しそうな絵だ」と言われると腹を立ててしまいます。

そんなふうに理不尽な怒りに遭っても、無邪気なのか無神経なのか、
庭師は相変わらず屈託のない顔。
長年勤めていた国鉄を退職して、念願の庭師となった彼は、
どんな小さな幸せもしっかりと感じ取っているよう。

終盤、腹部の痛みを訴える庭師が、画家の紹介する都会の病院を以てしても、
すでに手遅れの病にかかっていることが明らかになります。
それでも菜園へと出かける庭師。「なぜそこまでして」と尋ねる画家に、
「菜園は僕の人生だから。庭師に添い寝されれば、野菜も喜ぶ」。

ラストの展覧会には思わずニッコリ。
画家の数々の絵は庭師のリクエストどおり、
お日さまをいっぱい浴びた絵。

死んだら、空よりも土の下がいい。
根があれば僕は迷わないから。
人は土から育つ。

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映画を地で行く、「オタマジャクシが降る」。

2009年06月11日 | 映画(番外編:小ネタいろいろ)
石川県で空からオタマジャクシが降ってきたという数日前のニュース。
ある映画を思い出して笑ったのは私だけではないはずです。

「群像劇あれこれ」で書いた、
ポール・トーマス・アンダーソン監督の『マグノリア』(1999)。
これはロサンゼルス郊外の住民の群像劇でした。

以前『マグノリア』について書いた全文をそのまま貼り付けると、
「クイズ番組のプロデューサー、司会者、出演者に混じり、
トム・クルーズがSEXのHOW TO本の著者で
カリスマ教祖的存在の人物を演じて話題に。
このラストは度胆を抜かれること請け合い。
まちがいなく反則技ですが、あまりの衝撃にひっくり返り、
呆然とした末に笑いこけてしまいました」。

その「反則技」が何なのかは、
あちこちのサイトにすでに書き込まれているでしょうから、
今さらネタバレにはならないハズ。

空からカエルが降ってくるんです。
ラストシーンで、大量のカエルが、ドサドサッと音を立てて。

カエルが降ってくる話は、旧約聖書にも登場します。
エジプトで苦しんでいる奴隷たちを解放するために、
モーセが神に頼んでカエルを大量発生させたとの記述が、
『出エジプト記』の8章2節に。

それを踏まえると、あの反則技ラストシーンは、
贖罪の象徴なのかとも考えられますが、
単に、「世の中、何でも起こり得る」として観たほうが
私はスッキリできました。

頭の中がわけわかんなくなって、
にっちもさっちも行かなくなって、
あ~、もうどうとでもなれ!と思ったら
カエルがいきなり降ってきて、しばし唖然呆然。
数秒後、笑いが止まらなくなり、
いろいろ悩むのがアホらしくなって、
なんだか前向きになれた。
究極のリセットではないかと。

あり得ないと思っていたことが起こったら、
人生観が変わりそうな気がします。

ちなみに、「土砂降り」のことを
英語で“It's raining cats and dogs.”(=猫と犬が降る)と言いますが、
フランス語では“Il pleut des grenouilles.”(=カエルが降る)とも言うそうです。
ポーランド語でも同様に「カエルが降る」という表現があります。
そのほか、世界各国にいろんな表現があるようで、
「降るもの」は、小便をする牛、魔法使い、お婆ちゃんと杖、靴屋の丁稚など。

土砂降りの雨の日にはウキウキする私ですが、
こんなもの、どれにも降られたくないなぁ。

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『18倫』

2009年06月09日 | 映画(さ行)
『18倫』
監督:城定秀夫
出演:田代さやか,河合龍之介,森谷勇太,こばん,紗奈他

もう1本、青年向けコミックの映画化作品を。
松本タカ原作、『ヤングチャンピオン』に今も連載中です。

名門お嬢様学校、白百合川女子学園の優等生で、医学部志望の倫子。
メイドとコック長までいる豪邸で暮らす。

ところが、ある日帰宅すると、ドアに「差し押さえ」の文字が。
意味を理解できないまま家に入ると、テーブルの上に父からの置き手紙。
「父さんの会社は破産した。母さんに話したら、
お金のない父さんに興味はないと、愛人と出て行ってしまった。
おまえは今日からひとりで生きてくれ。すまない」と。

倫子はとりあえずビジネスホテルへ。
しかし、手持ちのクレジットカードはすべて停止。
仕方なく、近くの公園の遊具の中で新聞紙にくるまって眠る。

自立して立派な医者になると心に誓った倫子は、
新聞の求人情報欄に片っ端から当たるがどこも不採用。
最後に望みを託して訪れたのは「バール企画」。
そこはなんとアダルトビデオの制作会社で……。

同じく人気コミック実写シリーズの『すんドめ』(2007)が
アンマリな出来だったものですから、本作も期待薄。
観始めたときの印象は「やっぱりムリかも~」。
お嬢様言葉とテンションの高さにドン引きでした。
だけど、観終わってみれば意外や意外。楽しかったです。

出演希望の素人だと勘違いされた倫子は、AVがそもそも何なのかも知らず、
イケメン社長に言われるがままに男優の上にまたがり、
放尿を強いられて絶句。そこへ、本来の出演予定者が現れて、
就職面接に来た子だとわかり、AVの説明を受けて卒倒。
それでも、自活するにはこれしかないと腹を括ります。

制服しか所持していない倫子に、
社長がどれでも着ていいと差し出すコスプレ衣装。
それを躊躇なく着て現場に出る倫子と、
仕事に厳しい社員の近藤、気弱で親切な牧谷。
その掛け合いが実にいい感じです。
すごい速度でローションを混ぜるシーンや卵白で作る擬似××など、
AVの制作現場の苦労もにじみ出ていて。
医者志望ならではの、女優の体への気遣いを見せるシーンも○。

「そんなに甘くないんだよ」。
そう語る人気AV女優役の笑顔が素敵でした。

ところで、こちらに書きかけた、「Blu-rayがHD DVDに勝った理由」。
AV業界がBlu-rayを採ったからだそうです。
どうです?説得力、あるでしょ?

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『コドモのコドモ』

2009年06月04日 | 映画(か行)
『コドモのコドモ』
監督:萩生田宏治
出演:甘利はるな,麻生久美子,宮崎美子,谷村美月,
   草村礼子,斉藤暁,伊藤梨沙子,塩見三省他

さそうあきらの同名コミックの映画化。
『漫画アクション』に連載されていたという時点で、
少年向けではないことがわかりますが、
小学生の妊娠・出産というぶっ飛びの題材でありながら、
R指定にもPG指定にもならず。やばいシーンは皆無です。

小学5年生の春菜は、同級生のヒロユキと幼なじみ。
おとなしいヒロユキが他の男子からいじめられているのを見ると、
居ても立ってもいられず、すぐに助けに飛んで行く。
そんな春菜にいつも厳しく注意する、学級委員の美香。

ある日、下ネタで盛り上がる生徒たちを見た女教師の八木は、
性について子どもたちに正しい知識を与えるべきだと考え、
教頭の高松の反対を押し切り、性教育の授業を決行。

その授業を受けた春菜は不安に駆られる。
春菜とヒロユキは「くっつけっこ」と称した遊びをしたことがあり、
どうもそれがいま聞いた話と同じようだ。
やがて生理が止まり、春菜は妊娠を確信するのだが……。

こんなテーマのわりに説教臭さがないのは好感が持てますが、
微妙な部分には当たらず障らずなものですから、
すべてにおいて中途半端な印象が否めません。

共感できる大人が出て来ないのも寂しいところ。
娘のお腹があんなに大きくなっても気づかない母親。
春菜の相談事を悪い冗談だと罵るだけのヒステリックな教師。
いつも及び腰で、事なかれ主義の教頭。
春菜の「産んでもいいのかな」という問いかけに対し、
唯一の理解者である祖母の答えは、言っていいのか?そんなこと。(--;

それでも最後まで観たいと思えたのは、
子どもたちが素晴らしかったから。
同級生全員が春菜の無事の出産を願い、
決して大人に秘密をバラすことなく、まさしく一致団結。

産婦人科医の息子であるミツオは、
父親の職業がどうしても好きになれなかったのに、
春菜の妊娠を知ってからというもの、
出産に関する知識を得ようと懸命に。
みんなを仕切る美香のしっかり者ぶり。
無事出産したことを知らせに走る万作の姿と、
それを聞いた同級生たちの喜びよう。

子どもってたくましい。そう思えるのは確かです。
でも、そこを落としどころにするならば、
このテーマじゃなくても良かったんじゃあ。

それと、上野樹里ちゃんの出番はまったくもって意味不明。
何だったのだ、あれは?(^^;

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