夜な夜なシネマ

映画と本と音楽と、猫が好き。駄作にも愛を。

『マン・オン・ワイヤー』

2010年01月12日 | 映画(ま行)
『マン・オン・ワイヤー』(原題:Man on Wire)
監督:ジェームズ・マーシュ
出演:フィリップ・プティ,ジャン・ルイ・ブロンデュー,
   アニー・アリックス,ジム・ムーア,マーク・ルイス他

“Man on Wire”、すなわち、綱渡りの男。
1974年8月7日、「史上最も美しい犯罪」と呼ばれる、
ワールドトレードセンター(WTC)のツインタワー間で
綱渡りをやってのけたフランスの大道芸人フィリップ・プティ。
本人と関係者の証言、当時の映像を交えた傑作ドキュメンタリーです。

1949年生まれのフィリップは、
17歳のときに歯科の待合室でたまたま見た新聞に目が釘付けに。
それは、ニューヨークで施工中のWTCの完成予想図。
いったい何年後に完成するのか知らないが、
この世界一高い双子のビルの間を渡ろう、そう決意します。

以降、その夢に向かう途中、彼が成功させた数々の綱渡り。
パリのノートルダム大聖堂にて、シドニーのハーバー・ブリッジにて。
その建造物を見た瞬間に、彼は心を奪われるようです。
登って、渡らずにはいられない。

そして、それはいつも無許可で敢行されます。
彼が言うことはごもっとも、許可を求めたところで却下されるから。
綱渡りを無事終えると、見守っていた通行人の拍手喝采のなか、
毎度逮捕されています。

WTCでの綱渡りも、やはり無許可で決行されました。
下見のために何度もNYへ飛び、
ニセの通行証を作成して建設中のWTCへ潜入。
信頼できるごくわずかな仲間とともに徹底的に協議します。
何しろ、ワイヤー等の機材持ち込みも、その設置も、
密かにおこなわなければならないのですから、
その大変さは容易に想像できるものではありません。

関係者の証言は、楽しげで笑わされることもありますが、
当時を思い返して言葉を詰まらせるシーンでは
一緒に涙ぐんでしまいました。

地上411メートルに張られたワイヤー上を8往復。
留まった時間は実に45分間。
ただ歩くだけではなく、寝転んで空を仰ぎ、
ひざまずいてお辞儀することまで。
違法だけれども誰も傷つけない、これは芸術。

通報を受けて現場に駆けつけた警官は、
ワイヤー上で余裕の笑みさえ浮かべるフィリップに憤りながらも、
「個人的には凄いものを見たと思っている。
一生に一度きりの」と語っていました。
現場でなくとも、DVDでも十分に凄いものが見られます。

2001年の同時多発テロで崩壊してしまったWTC。
あのビルにこんな話があったこと、胸に留めておければと思いました。

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『おいしい殺し方 A Delicious Way to Kill』

2010年01月08日 | 映画(あ行)
『おいしい殺し方 A Delicious Way to Kill』
監督:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
出演:奥菜恵,犬山イヌコ,池谷のぶえ,真木よう子,
   久ヶ沢徹,長谷川朝晴,みのすけ,山崎一他

年末に『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』(2007)を観て凹んだのに、
正月には『光の雨 連合赤軍事件』(2001)を観て余計に疲れ、
気分転換したいと思って観た2006年の作品。
元々はBSフジとGyaO!で放映されたんだそうな。

監督の本名は小林一三で、「かずみ」さんと読みますが、
漢字だけ見れば阪急グループの創業者と同じだぁ。
『グミ・チョコレート・パイン』(2007)より前の作品で、
ゆる~い脱力系コメディでありながら、
謎解きも楽しいミステリー&サスペンスです。

小学校教諭の消崎ユカは、若くて綺麗な女であるにもかかわらず、
料理の腕があまりに下手なせいで、
手料理をふるまった相手には必ずフラれる。
なのに、またもや新しい恋人にリクエストされ、料理教室に駆け込む。

初日、偶然隣り合って座ったのは、教頭の妻、白石カナエ。
教頭はカナエが作る弁当を毎日こっそり捨てていたが、
そのことになんとなく気づいていたカナエは、
教頭には内緒で料理を習う決意をしたのだ。

料理教室の講師は、大人気の料理研究家、東大寺ハルキ。
自意識過剰なユカに興味を引かれたハルキは、
ふたりで話そうとメールを寄越す。
ユカがつれない返事を送ると、その後、ハルキが行方不明に。
そして、自宅マンションの屋上から飛び降りたとおぼしきハルキの死体が。

罪の意識に駆られるユカだったが、
ハルキの美人妻による殺人を疑うカナエは、
ハルキと同じマンションに住む、友人の山内キヨミに協力を要請。
3人は捜査を始めるのだが……。

本作を観れば、奥菜恵の株が急上昇すること間違いなし。
声からしてハイテンションの犬山イヌコ、
80kgを超える巨漢の池谷のぶえ。
このトリオ素人探偵のボケっぷりとかみ合わない会話は、
間(ま)が絶品で、めちゃ可笑しい。
『ズッコケ三人組』の大人の女版といった雰囲気。

メイキングで述べられているとおり、
ユカが小学校教諭であることがわかる場面ではちとビックリ。
その場面に至るまでは、まさか先生だなんて想像もできません。
男にフラれて生徒に当たり散らすユカに、
生徒が声を揃えて「大人げない」と言うのもワラけます。
疲れをぬぐい取ってくれる、和める一作なのでした。

ちなみに、『光の雨』より断然『実録・連合赤軍』。

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ヤクザ、集合。その後。

2010年01月05日 | 映画(や行)
あけましておめでとうございます。

『893239〈ヤクザ23区〉』の東西版を観たところまで書きました。
それについてはこちらこちらをご参照ください。
そしたら、南北版も気になるというコメントを複数お寄せいただいたので、
年は明けましたけれど、去年の続きで。

南東京版は、渋谷区2本、目黒区1本、世田谷区2本、
大田区1本の計6本が収録されています。

世田谷区編の『ヤクザと地底人間』(監督:植岡喜晴)は、
『893239〈ヤクザ23区〉』の中で最も長時間の力作。
別の組のヤクザに妻を寝取られたヤクザが地底に落っこち、
そこで地底人間の女性と暮らし始めます。
数十年後、亡くなった父親の恨みを晴らすべく、
その子どもである兄妹は、地上に出て敵の組に乗り込み……というお話。

この作品を含め、南東京版のどれも短編映画としてはおもしろいですが、
東西北版と比較すると、その区らしさというものが薄い気が。
って、何がその区らしさかは、東京に疎い私にはわかりませんが、
この区はこんなところなんだよというアピール度がイマイチ。

個人的に気に入ったのは北東京版。
板橋区、北区、足立区2本、葛飾区、台東区2本の計7本を収録。

ウケたのは、北区編の『指詰超』(監督:金森永奈)。
「ゆびきっちょう」と読みます。
指を詰めると、指を失う代わりに、ある特定の能力が図抜けるそうな。
北区のある組のヤクザ一同が得た能力とは、野球に関する能力。
「リード」の能力が図抜けた者はキャッチャーに。
「俊足」「強肩」など、それぞれが異なる能力を得て、ポジションを確定。
今日、指を詰めたヤクザが「カーブ」を獲得して、全員が狂喜。
プロ野球への参入を決めます。
すんげぇカーブで、可笑しすぎる設定。

葛飾区編の『今日の出来事』(監督:香川今生)は、
連絡の取れない息子を心配して、大阪から突然やってきた母親。
息子は迷惑な素振りを見せつつ嬉しそう。邪険にはしきれません。
母親を近所の食堂に連れて行き、てんぷら定食を頼みます。
ヤクザをしているということをどうしても母親に言えない息子。
何をしていようとも、息子が元気でさえいてくれればいいと願う母親。
ポンポン飛び交う大阪弁の会話の中に、優しさが見えた作品でした。

スペシャル版では全作品のあらすじ紹介がされています。
23区の土地柄をご存じならば、さらに楽しめるかも。
とにもかくにも楽しい企画でした。

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