10月10日(土)に、新国立劇場へリヒャルト・ワーグナー作曲のオペラ「ラインの黄金」を見に行きました。
今年の1月にワーグナー作曲のオペラ「さまよえるオランダ人」を見て以来です。
指揮者の飯守泰治郎が新国立劇場の音楽総監督になって以来、ワーグナー作品を積極的に取り上げ、本人も指揮をし、ホームページでピアノで解説をするというスタイルを取っています。
前にも書きましたが、新国立劇場で行われるワーグナーのオペラ作品は欠かさず見に行こうという私のプロジェクトの第2回目です。なお、新国立劇場の次回のワーグナー作品は2016年の5月から6月にかけて行われる「ローエングリン」です。
ところで、「ラインの黄金」はワーグナーの代表作、楽劇「ニーベルングの指環」
4部作のうち序夜にあたり、第1夜「ワルキューレ」、第2夜「ジークフリート」、第3夜「神々の黄昏」と続きます。
ワーグナーは、この作品の完結まで26年をかけました。上演には4作品すべてで、約15時間を要する超大作になっています。
一番、上演時間の短い「ラインの黄金」でも上演時間は2時間45分。この間休憩なしという設定なので、集中時間を維持するのが難しく感じられました。次回以降は4時間前後なので鑑賞する人にも集中力と忍耐力が必要です。
「ニーベルングの指環」は、権力と愛、あるいは人間と自然の調和についての、ワーグナーからの巨大な問題提起です。”最終的にこの世が救済されるためには何がなされなければならのいのか”と言う問いに対して、答えはあるのでしょうか。「指環」を体験することは、まさにこの答えのない問いに、オペラの舞台を等して向き合うことに他なりません。(飯守泰治郎)
なお、新国立劇場では、「ニーベルングの指環」の上演は「ワルキューレ」は2016年10月、「ジークフリート」は2017年6月に上演するとのことです。
「ニーベルングの指環」の音楽は、オペラでは一般的なレチタティーヴォ&アリア、重唱、合唱といった表現方法が使われておらず、独特な歌と大編成の管弦楽からなり、いくつものライトモチーフ(示導動機)により成り立っています。
ただ、音楽そのものを聞いている限り、一番的なオペラとの違和感は、あまり、ありません。
この指環を見ていく上では、「前史」への理解も少し必要です。
この世界が「天上界」、「地上界」、「地底界」と3つの世界からなり、それらを垂直に貫いているのがトリネコの木、神々の長ヴォータンは樹下にある「知恵の泉」から片目と引き替えに水を飲みました。また、世界樹から枝を切り取り、槍を作り、契約の文字を刻んだ。こうして、世界は取り決めと法秩序で成り立つようになりました。
このオペラに登場するヴォータンがなぜ片目の眼帯をしているのか、なぜ立派な槍を持っているかが分かります。
「ラインの黄金」のあらすじ
「古典は滅びることなく再び始まる」
第1場
ライン川の川底では、ラインの娘たちがラインの黄金のまわりで戯れている。アルベリヒは、愛を呪う言葉を吐いて黄金を奪い取り消え去ってしまう。
第2場
神々の長ヴォータンと妻フリッカは、契約により巨人族のファーゾルトとファフナ一に建てさせた神々の居城ヴァルハルの完成を見る。巨人たちはその報酬として、青春の女神フライアを要求するが、ヴオータンは火の神ローゲの粁智を使ってフライアを与えない計画を練る。しかしローゲは、フライアの代わりとなるものが何一つ思い浮かばないが、アルベリヒが奪ったラインの黄金で指環を造ったこと、そして、その指環の持ち主は絶対的な力を得ることをヴォータンに伝える。巨人たちは、その黄金と引き換えにプライアを手放すことを了解するが、ヴォータンが財宝を届けるまでの間、女神フライアを人質として連れ去ってしまう。
第3場
腕の良い鍛冶職人であるミーメは、ラインの黄金の残りを使って隠れ頭巾を作るよう、アルベリヒに命じられる。この頭巾は被った者の姿を見えなくする力を持つという。隠れ頭巾の力で姿を消したアルベリヒは、弟であるミーメとニーベルング族に、もっと多くの金を採掘するよう命ずる。ヴォータンとともに地底の国ニーベルハイムに来たローゲは、アルベリヒの魔法の力を褒めそやす。ローゲの口車に乗ったアルベリヒは、頭巾を使って最初は巨大な蛇に姿を変え、次にカエルに変身する。カエルになったアルベリヒは簡単に揃えられ、神々のもとに連行される。
第4場
アルベリヒは、自分の命と引き換えにすべての財宝を手放すことになり、その怒りから指環に呪いをかける。ヴォータンは、フライアを解放させるには、金の財宝だけでなく指環まで巨人たちに渡す必要があるのかと疑問を抱き始める。そこへ智の女神エルダが現れ、ヴォータンに指環にかけられた呪いによって神々が破滅に向かうことを警告する。そして、指環は恐ろしい力を発揮し、呪いによってファフナーとファーゾルトの兄弟は、財宝の取り分について言い争いを始め、ファフナーはファーゾルトを殺してしまう。
やがて神々は、虹の橋を渡ってヴァルハルに入城する。川底からは財宝を失ったことを嘆き悲しむラインの娘たちの嘆きが聞こえてくる。 ゲッツ・フリードリヒ
写真 左からヴォータン、ファフナー、フライア、ファーゾルト、ローゲ
演出 ゲッツ・フリードリヒ
指揮 飯守泰治郎
管弦楽 東京フィルハーモニー交響楽団
配役・・・
ヴォータン ユッカ・ラジライネン
フリッカ シモーネ・シュレーダー
ローゲ ステファン・グールド
ファーゾールト 妻屋 秀和
ファフナー クリスティン・ヒューブナー
アルベルヒ トーマス・ガゼリ
ミーメ アンドレアス・コンラッド
フライア 安藤 赴美子
エルダ クリスタ・マイヤー
私は、WOWWOWで放映されたMETの「ニーベルングの指環」、J.レヴァイン指揮R.ルパージュの演出、を全曲録画しているので、この「ラインの黄金」(2010年10月9日MET上演)をあらかじめ見ておきましたが、個々の歌手に差はあるものの演出はMETの史上最大の挑戦という40tonの舞台装置とも、それほど見劣るものでもなく、演奏は飯守泰治郎指揮、東京フィルハーモニー交響楽団の演奏は素晴らしく、大いなる感銘を受けました。
なお、ゲッツ・フリードリヒは、すでに亡くなっていますが、「指環」演出の第一人者で、今回の演出はフィンランド国立歌劇場のプロダクションということです。