wowow 2021/5/1
オペラ「アグリッピーナ」は、ヘンデルが1709年に作曲したバロックオペラ。紀元1世紀のローマ帝国の実在した皇妃。
溺愛する息子を帝位に就けるために手段を選ばず、陰謀と策略を張り巡らせた人物。
彼女と周囲の人々とのドロドロした人間関係を、ディヴィット・マクビガーが物語を霊廟で復活させ現代に
置き換えた。ダイナミックかつ華麗に、ブラックユーモアたっぷりに描いている。
【作曲】 ヘンデル
【演奏】 メトロポリタン歌劇場管弦楽団 指揮 ハリー・ビケット
【演出】 デイヴィッド・マクヴィカー
【出演】
ジョイス・ディドナート・・・アグリッピーナ(メゾソプラノ)
ケイト・リンジー・・・ ネローネ(メゾソプラノ)
イェスティン・デイヴィーズ ・・・オットーネ(カウンターテナー)
ブレンダ・レイ・・・ポッペア(コロラトゥーラ・ソプラノ)
ケイト・リンジー・・・ ネローネ(メゾソプラノ)
マシュー・ローズ・・・クラウディオ(バス)
【上演】2021年2月21日 イタリア語 3時間56分
【第1幕】
皇帝クラウディオが海難事故に遭い死亡したとの一報が皇妃アグリッピーナに入る。その手紙を持ちネローネに語りかける。
早速、アグリッピーナは後継者を決めるのは軍と民衆と知りながら、策略を巡らせる。
まず家臣のパットンテを呼び、ネローネが皇帝の地位に就けるようにと色仕掛けの指示をする。
続いて家臣のなるチーゾにも同様の指示を出す。
群衆の前で「ネローネ陛下万歳」と唱えることは出来たのだが ・・・
皇帝クラウディオは武将オットーネに命を救われて帰還する。クラウディオはオットーネに帝位を約束していた。
オットーネは帝位より美女ポッペアが欲しいとアグリッピーナに打ち明ける。しかし、クラウディオもまたポッペアに
惹かれていた。
アグリッピーナは一計を案じ、ポッペアには、「オットーネは帝位のためにあなたを捨てた。皇帝には嫉妬心を起こすよう
「オットーネには”会うな”、愛を求めてきたら、オットーネの追放を願い、泣いて、ため息をついて頼むように」と告げる。
ポッペアは、オットーネからの引き出しに入っていた、たくさんの愛の手紙を破り、捨ててしまう。「侮辱されたら愛は怒りに
変わるのよ」と歌う
一方、オットーネは企みをしらず、皇帝の座よりもポッペアを熱望すると歌う。
皇帝クラウディオの凱旋祝賀会が開かれるが
アグリッピーナの企みは成功し、その式典でオットーネは皇帝クラウディオから
「お前は裏切り者だ」、「お前の罪は死に値する」「だか、私の命を救ったから命だけは助けてやる」と告げられる。
第1幕の幕切れ
皇帝から「裏切り者」と告げられ、帝国のすべての人から孤立してしまった理由が分からないオットーネは
「なんと驚くぺき雷(いかづち)か」
「私の苦しみに同情してください」「皇帝の座を失ってもかまわない。」と切々と歌う。
【第2幕】
ポッペアとオットーネはナイトクラブで会い、お互いに「企みがアグリッピーナによるもの」と知る。
ポッペアはアグリッピーナに復讐を誓う。
そこで、ネローネを騙して、ポッペアを自宅に引き込むことにする。
この場面はケイト・リンジーはジムへ通い、体力を付けたという。
ポッペアとオットーネへの騙しが分かってしまいそうなのでアグリッピーナは「様々な思いよ」
「わたしの息子が君臨するようにして下さい」「天よわたしの計画をささえてください」
「オットーネは勇ましく、ボッペアには勇気がある。私の策略がバレたら、何か仕掛けてくるはず、陰謀を企てる今がその時よ」
「陰謀よ私を見捨てないで」「お前は私を苦しませる」と歌う。ヘンデル流の”狂乱の見せ場”である。
皇帝クラウディオの考えをなんとかつなぎ止めようとするアグリッピーナ。
何故かゴルフの場面が・・・物語は霊廟から出て来た人達の現代での行動ということらしい。
ネローネがポッペアの家にいたことが発端となり、オットーネとポッペアは一緒になることが出来た。
ネローネは 皇帝クラウディオの怒りを買うが、アグリッピーナの言い回しの巧みさにより、なんとか皇位に着くことが出来た。
しかし、権力を意味する高くて長い階段を腰をふりふりセクシイな動作を交えながら登る姿は、真面目に権力を捕らえているとは言えない。
ここに演出者のブラック・ユーモアを見て取れるだろう。演出者がネローネが暴君ネロの前身だということを良く知った上でのことでは
あるが・・・。
権力をさえ我が物にすれば良いという考えが透けて見える悪役アグリッピーナの世界を示している。
【第3幕】
再び出演者が霊廟に戻り、物語は終わりを告げる。
【感想】 「このオペラの作曲の当時、反逆児ヘンデルは ”性を利用した政治”という衝撃的な話を18世紀の観客に華々しく提供することにあった」
そして、今回はそれを現代に蘇らせて「歴史は繰り返す」ということを示す目的があった。
と理解してから、このオペラを見ることが必要かなと思う。
METの常連となった ”ベルカントの女王”J.デイドナートはタイトルロールの役柄を思う存分の歌唱力で演じてくれている。
ネローネ役のケイト・リンジーはズボン役を演じることが多いというが、今回では、まさに男役で女性とは思えないほどである。
目つき動作が不良少年の役割を実に上手く演じている。また、”美男子”でもある。
オットーネは、カウンターテナーのイェスティン・デイヴィーズが「天上の声」をしっかりと聞かせてくれた。
MET初出演のブレンダ・レイ演じるポッペアも“モテモテ女性”にふさわしい魅力的な女性だった。歌手陣は良く揃っていたと思う。
【ジョイス・デイドナートの言葉】
タイトルロールのJ.デイドナートが「楽しんで演じているようね?」との問いに以下のように答えているのが参考になる。
「悪女になれることよ。ドン・ジョヴァンニなど悪役を歌うのが夢よ。善し悪しは別にして彼女は大胆不敵。無情で残忍で自分の人生に
必要なことをする。思いっきり悪者になれて最高。これは喜劇だから笑いの間は演出家がたよりよ。
ビケット氏は”歌唱の絨毯”を用意してくれてしっかり支えてくれる。ヘンデルは大役を含めてずっと歌ってきた。
今回、この役で私の違った面を見せられるのは嬉しいわ。
2幕では見せ場のアリアを歌うけどヘンデル流の”狂乱の場”であり、主役の見せどころよ」
【史実】
アグリッピーナは皇帝クラウディオの4人目夫人
ネローネはアグリッピーナの連れ子で、暴君ネロの前身、後にネロは母親を殺す。
このオペラ以降の史実を考えるとさらに悲惨なことになっていくと思う。
(了)