[BShi プレミアムシネマ] 2020年2月11日(火)で放映したもので、モノクロ映画。
映画「七人の侍」は巨匠・黒澤明(1910-1998)監督の代表作で1954年(昭和29年)に公開された。今も世界中で愛される日本映画の金字塔となっている。野武士から村を守るために雇われた7人の侍と農民たちの姿をダイナミックに描いている。時代は1586年(劇中の台詞による)「戦国時代--相次ぐ戦乱とその戦乱が生み出した野武士の横行、ひづめの轟きが良民の恐怖の的だった--その頃」と映画の中に記されている。
入念な脚本の執筆活動と何千人ものスタッフとキャスト、通常の7倍の撮影経費、1年あまりの撮影期間をかけて映画は完成した。
【脚本】黒澤明,橋本忍,小国英雄,
【監督】黒澤明
【出演】七人の侍
志村喬・・・島田官兵衛 村を守る七人の侍のリーダー
三船敏郎・・・菊千代 個性的なキャラクターで戦闘では一番多く野武士を倒す
木村功・・・岡本勝四郎 育ちの良い郷士の末っ子、半人前の浪人で最年少
志乃と愛し合う中になる
加東大介・・・七郎次 島田官兵衛のかっての忠臣
千秋実・・・林田平八 百姓を表す「た」の字と侍を表す○を6つ、菊千代を表わす△ を1つ描いた旗を作る
宮口精二・・・久藏 凄腕の剣客
稲葉義男・・・片山五郎兵衛 勘兵衛の人柄に惹かれて助力する浪人 参謀役
村人
高堂国典・・・儀作 村の長老であり知恵袋
土屋嘉男・・・利吉 女房を野武士にさらわれた
茂助・・・小菅義男
藤原鎌足・・・万造 志乃の父
左ボク全・・・与平
津島恵子・・・志乃
島崎雪子・・・利吉の女房
野武士
高木晋平・・・頭目 40人の野武士を統率する
【音楽】早坂文雄
戦国時代、ある村では、毎年のように、盗賊となった野武士に襲われていた。農民たちは、村を守るために侍を雇って戦うことを決意する。農民たちの苦難を知った浪人・島田勘兵衛は、侍を集めて農民たちを鍛え、野武士に戦いを挑む…。
前半は「侍集めと戦闘の準備、村人との交流」、後半は「野武士との本格的な決戦」となっている。
この映画では、戦闘の他に魅力的な女性との二つの愛のストーリーがあり、清涼な風を感じさせてくれる。一つは残酷な悲劇で終わってしまうが・・・・。
野菊の咲く丘で岡本勝四郎は志乃と語らう。志乃は、侍に傷物にされないよう父親が髪を切り、男装にさせられた。しかし、結局は相思相愛になり密会を重ねる。
利吉の女房は野武士によってさらわれていた。久蔵たちが襲った野武士の砦におり、雅な姿を見せていた。火がついた砦を見ても叫んだりせずに、静かに砦から出てくる。近づいた利吉の姿を見て、慰め物になったことを恥じたのか絶叫して火の中に飛び込む。
野武士に攻めてくる前、「麦の刈り入れ」にかいがいしく働く女性。
戦闘で野武士が斃れ去り、平和が訪れた村では民謡が歌われ「田植え」が行われる。
これら2つのシーンは「戦争と平和」を対比させてくれる印象的なシーンである。
この映画の特筆すべきシーンを二つ。
侍達が焼き討ちを図り、燃え落ちる野武士の砦。よく燃えるようにとガソリンをかけたが予想以上に火の手が上がった。突然の爆風と激しい火の勢いのため、女房に近づこうとした利吉(土屋嘉男)は意識を失ってしまい、以後のことは覚えていないと語っている。熱風により鬘も眉も焦げ、顔は火ぶくれを負って膨れ上がった。その後、病院で一夜を明かすことになる。
利吉の女房(島崎雪子)も、この場面で限界まで演技をしたため、撮影直後に火ぶくれで顔がみるみる腫上がった。また、その時に大事な小道具を砦の中に落とし、砦もろとも焼失している。
また、つながれていた馬は全て自分で綱を切って逃げてしまったという。
この時、映画の中では利吉を引き留めようとした平八は野武士の銃弾に倒れる。
望遠レンズだけがこのシーンをしっかりと捉えていたのである。
雨が降りしきる中、ラストの村の中での戦闘シーンは過酷な条件下で行われた。
残る13騎の野武士が襲来する。勘兵衛はあえてこれらをすべて村に入れたうえで包囲し、決戦が始まる。野武士らは1騎また1騎と討ち取られていくが、野武士の頭目は密かに種子島を持ち、村の女子供が隠れていた家に入り込む。大勢が決したころ、久蔵が小屋に潜んでいた頭目が放った銃弾によって斃れる。刀を投げて場所を教える久蔵、そこに向かう菊千代も撃たれるが、菊千代は鬼気迫る迫力で追いつめた頭目を刺し殺し、自らもその場で果て、野武士はついに壊滅する
この合戦では、黒澤は雨をより激しく見せるため、雨の中に墨汁を混ぜて撮影を行った。 撮影は2月に行われた。積雪を解かすため水中ポンプで水を撒き、さらに大量の水を撒いたので現場は泥濘と化した。これを利用したのである。西部劇が全盛の欧米映画でも雨中の合戦はこれまでに無く、世界を驚かせたという。
わずか数時間の戦いであった筈なのだが、撮影は何日間にもわたり行われた。監督はじめ全員が凍りつく雨の中で頑張ったが、誰一人風邪をひかなかったという。
皆撮影が終わると、撮影所で風呂に入り、家でまた風呂に入ったが、泥がなかなか落ちなかった。完成から15年ほどのちに 一同が顔を合わせたが、全員が「あんな撮影はもう二度とできない。体力の限界!」との言葉が期せずして出たという。
なお、映画は撮影と編集を終了させる時期になっても、一向に完成しないため、 東宝本社は撮影中止命令を出し、「撮影済みのフィルムを編集して完成させる」と決定。重役らを集めて試写を行った。野武士が山の斜面を駆け下り、菊千代(三船敏郎)が「ウワー、来やがった、来やがった!」と屋根で飛び上がり、利吉の家に旗がひらめいたところで終わり、ここから合戦という場面でフィルムがストップする。がっくりきた重役達は「存分にお撮り下さい」と黒澤に伝え、追加予算をつけ再開することになったという。
私が、初めてこの映画を観たのは昭和50年(1975年)頃で、池袋の文芸座という映画館だった。なんと字幕が英語で出て来た。「Thirteen left」(残りは13人)と言う文字が鮮明に記憶に残っている。
なぜ「英語版」だったのか?が今になって分かった。
黒澤明が初めてマルチカム方式(複数のカメラで同時に撮影する方式〈英語版〉)を採用していて、日本語版では見れなかったからのようだ。その効果は分からなかったが・・・。
その後は、2016年2月23日には現存するフィルムを元に4K解像度で修復が行われ、公開されている。今回の放映は、このリメイクされたものと思われる。