物心ついたころには、わが家に犬がいた。犬が好きだった。それから、いったい何匹の犬を飼ったことだろう。犬は人間に比べたら短命だから、彼らの死には、何回となく立ち会ってきた。わたしが最後につれそったのは、ムクという白い雑種で、白内障におかされ、盲目となってしまった。その犬が散歩から帰ったとたん、わたしの腕の中で突然息をひきとった。
そのときのショックを、いまでもはっきり覚えている。はずかしい話だけれど、わたしは号泣した。息子がもらってきた犬だった。千葉にいた息子に、ムクの死を報告しながら、涙が、いつまでもとまらなかった。
ムクの思い出は、ムクとすごした時間の思い出だった。いっしょに歩き、いっしょに走った。朝の村や、夜の国道。サクラ吹雪が舞う日や、寒風吹きすさぶ夜。あるひとつの出来事の向こうに、ずいぶんいろいろな出来事が、積み木のように重なりあっている。
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