■エド・マクベイン「稲妻」井上一夫訳 ハヤカワ・ミステリ文庫1992年刊
一つの分署の複数の刑事(Detective)たちを主役とした警察小説といえば、エド・マクベインの87分署シリーズを連想する方が多いだろう。資料によると、最終巻は「最後の旋律」(第56巻 2005年)である。
何と同じシリーズを営々と、56巻も書き継ぎ、ぞくぞく出版されたのは驚異的。
最初の4巻「警官嫌い」「通り魔」「麻薬密売人」「ハートの刺青」は、よく代表作として紹介される。ほかに第8巻「殺意の楔」(1959年)、第10巻「キングの身代金」(1959年)あたりが映画化された影響で有名かもね♬
直井明編集の「エド・マクベイン読本」など、特別編集の本を3~4種類見かけている。
現在はデジタル版で10冊くらいは読めそうだが、紙の本としては古本にたよらざるを得ない。
古いのは場合によって傷みが激しかったり、文字が小さかったりという不都合がある。
初期にはいろいろな方が訳していたが、のちに井上一夫訳に統一されるようである。
本編「稲妻」(シリーズ第37巻1984年)は井上一夫さん訳で、445ページのボリュームがある(^^;;) 初期の作品に比べ、1.5倍あるいは2倍の長篇である。
エンターテインメントとして、大人向けにディテールにいたるまで、しっかりとかんがえて創作されている。それにしても56巻ですぞ! シリーズものとはいえ、よくぞこれだけ書いたなあ。
ほかに“ホープ弁護士シリーズ”が、翻訳されたものだけで13巻ある。
「金髪女」「白雪と赤バラ」などが、1980年代に刊行されている。さらにノンシリーズもの、別名義ものと、マクベインは書きに書いた。丁寧に読んでいうのではないが、たぶん玉石混淆なのではないか?
映画の原作とされるものがおよそ20作。日本のTVシリーズ「七人の刑事」はおおもとは「87分署」だし、スウェーデンのお二人が描いた「マルチンベック・シリーズ」も、もとをたどればこの「87分署」に行きつく。それだけのBIG NAMEなのだ。
《こんな光景は西部劇でしかお目にかかったことがなかった。ジェネロ刑事が見たものは街灯からぶら下がった若い女の絞殺死体だったのだ。果たしてこれはデフ・マンの新たな挑戦状か? 色めきたつ刑事たちの前で、やがて第二、第三の殺人が。一方、特捜班のバークは強姦魔逮捕のため危険な囮捜査に身を投じていた…。異常な連続絞殺事件を捜査する87分署の精鋭たちと、命がけで強姦魔に挑む女刑事の姿を描く巨匠の自信作。》BOOKデータベースより
特捜班の女刑事アイリーン・バークが、囮捜査で警戒していたのに暴漢に襲われ、負傷する。まさに手に汗握る山場シーン(´Д`)
拳銃を2挺携行していたが、結局それを使うことができなかったのだ。アイリーンは刑事バート・クリングの恋人でもある
手慣れた手法といえば、そうなる。エド・マクベインは読者にスリルをたっぷり味合わせる。そしてシリアス。アイリーンは“女であること”に深く傷つくのだ。
もちろんエンターテインメントなので、作者はそのいわば限界をよく心得ている。犯罪者は殺人鬼と暴行魔の二人が登場する。本編を傑作とか秀作とは一概にいえない(^^;;)
キャレラの同僚、二級刑事のマイヤー・マイヤーが、“ビリヤードの玉のような”禿頭に鬘かぶる、かぶらないで大笑いさせてくれるし、ぜんたいとして涙と笑いがうまく釣り合っている。
しかしマクベインの“87分署”としてはこれで普通レベルであろう。
バックグラウンドは勧善懲悪(犯罪者は大抵は逮捕される)だが、その図式が透けて見えるほど“ヤワな”作品ではない。憎まれ口ばかりたたいているよその分署の一級刑事オリ―・ウィークス(でぶのオリ―)あたりは、毛色が変わっているが存在感のあるキャラだといえる。
いずれにせよこのレベルの作品を、56篇も書いたところはすごいとしかいいようがない。
36. 凍った街 1983年
37. 稲妻 1984年
38. 八頭の黒馬 1985年
今回の読書では1980年代のこの3篇を読もうと思っている。すでに読んだ「凍った街」こそ、87分署シリーズ屈指の秀作だとわたしはかんがえているし、このころの作者は、脂がのっていたのではないかと勝手に想像しているのだ。
「凍った街」はこの機会に再読してもいいかなあ♪
評価:☆☆☆
一つの分署の複数の刑事(Detective)たちを主役とした警察小説といえば、エド・マクベインの87分署シリーズを連想する方が多いだろう。資料によると、最終巻は「最後の旋律」(第56巻 2005年)である。
何と同じシリーズを営々と、56巻も書き継ぎ、ぞくぞく出版されたのは驚異的。
最初の4巻「警官嫌い」「通り魔」「麻薬密売人」「ハートの刺青」は、よく代表作として紹介される。ほかに第8巻「殺意の楔」(1959年)、第10巻「キングの身代金」(1959年)あたりが映画化された影響で有名かもね♬
直井明編集の「エド・マクベイン読本」など、特別編集の本を3~4種類見かけている。
現在はデジタル版で10冊くらいは読めそうだが、紙の本としては古本にたよらざるを得ない。
古いのは場合によって傷みが激しかったり、文字が小さかったりという不都合がある。
初期にはいろいろな方が訳していたが、のちに井上一夫訳に統一されるようである。
本編「稲妻」(シリーズ第37巻1984年)は井上一夫さん訳で、445ページのボリュームがある(^^;;) 初期の作品に比べ、1.5倍あるいは2倍の長篇である。
エンターテインメントとして、大人向けにディテールにいたるまで、しっかりとかんがえて創作されている。それにしても56巻ですぞ! シリーズものとはいえ、よくぞこれだけ書いたなあ。
ほかに“ホープ弁護士シリーズ”が、翻訳されたものだけで13巻ある。
「金髪女」「白雪と赤バラ」などが、1980年代に刊行されている。さらにノンシリーズもの、別名義ものと、マクベインは書きに書いた。丁寧に読んでいうのではないが、たぶん玉石混淆なのではないか?
映画の原作とされるものがおよそ20作。日本のTVシリーズ「七人の刑事」はおおもとは「87分署」だし、スウェーデンのお二人が描いた「マルチンベック・シリーズ」も、もとをたどればこの「87分署」に行きつく。それだけのBIG NAMEなのだ。
《こんな光景は西部劇でしかお目にかかったことがなかった。ジェネロ刑事が見たものは街灯からぶら下がった若い女の絞殺死体だったのだ。果たしてこれはデフ・マンの新たな挑戦状か? 色めきたつ刑事たちの前で、やがて第二、第三の殺人が。一方、特捜班のバークは強姦魔逮捕のため危険な囮捜査に身を投じていた…。異常な連続絞殺事件を捜査する87分署の精鋭たちと、命がけで強姦魔に挑む女刑事の姿を描く巨匠の自信作。》BOOKデータベースより
特捜班の女刑事アイリーン・バークが、囮捜査で警戒していたのに暴漢に襲われ、負傷する。まさに手に汗握る山場シーン(´Д`)
拳銃を2挺携行していたが、結局それを使うことができなかったのだ。アイリーンは刑事バート・クリングの恋人でもある
手慣れた手法といえば、そうなる。エド・マクベインは読者にスリルをたっぷり味合わせる。そしてシリアス。アイリーンは“女であること”に深く傷つくのだ。
もちろんエンターテインメントなので、作者はそのいわば限界をよく心得ている。犯罪者は殺人鬼と暴行魔の二人が登場する。本編を傑作とか秀作とは一概にいえない(^^;;)
キャレラの同僚、二級刑事のマイヤー・マイヤーが、“ビリヤードの玉のような”禿頭に鬘かぶる、かぶらないで大笑いさせてくれるし、ぜんたいとして涙と笑いがうまく釣り合っている。
しかしマクベインの“87分署”としてはこれで普通レベルであろう。
バックグラウンドは勧善懲悪(犯罪者は大抵は逮捕される)だが、その図式が透けて見えるほど“ヤワな”作品ではない。憎まれ口ばかりたたいているよその分署の一級刑事オリ―・ウィークス(でぶのオリ―)あたりは、毛色が変わっているが存在感のあるキャラだといえる。
いずれにせよこのレベルの作品を、56篇も書いたところはすごいとしかいいようがない。
36. 凍った街 1983年
37. 稲妻 1984年
38. 八頭の黒馬 1985年
今回の読書では1980年代のこの3篇を読もうと思っている。すでに読んだ「凍った街」こそ、87分署シリーズ屈指の秀作だとわたしはかんがえているし、このころの作者は、脂がのっていたのではないかと勝手に想像しているのだ。
「凍った街」はこの機会に再読してもいいかなあ♪
評価:☆☆☆