二草庵摘録

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自分は生きているんだ、ほかのどんなときよりも ~「刑事の誇り」を読む

2023年10月03日 | ミステリ・冒険小説等(海外)
■マイクル・Z・リューイン「刑事の誇り」田口俊樹訳 (ハヤカワ・ミステリ文庫 1995年刊)


パウダー警部補シリーズは、翻訳されているのは3作である。いずれもハヤカワ・ミステリ文庫に収録されているが、現行本だと思う、おそらく。

夜勤刑事 
刑事の誇り
男たちの絆

このシリーズはニューハードボイルド小説とみなされ、一時期はエド・マクベイン、ディック・フランシス、ヒラリー・ウォー、ロバート・B・パーカーその他と並んで、よく売れ、よく読まれたはず。
なぜニューハードボイルドと称されるかといえば、リューインがレイモンド・チャンドラーにインスパイアされて作品を書きはじめたからだといわれているし、一世代下の小説家であるからだ。

早川書房編集部の「ミステリ・ハンドブック」によるとミステリにはサブジャンルとして、
ディテクティブ・ノベルⅡ(警察官が主人公。米タイプ)
̶があるのは前回ご紹介した。ついでに書き留めておくと、

ディテクティブ・ノベルⅠ (警察官が主人公。英欧タイプ)
1位 偽のデュー警部  ピーター・ラヴゼイ
2位 キドリントンから消えた娘  コリン・デクスター
3位 時の娘  ジョセフィン・ティー
4位 ウッドストック行最終バス  コリン・デクスター
5位 はなれわざ  クリスチアナ・ブランド

ディテクティブ・ノベルⅢ (警察官以外の探偵役。素人探偵・弁護士・新聞記者など)
1位 ホッグ連続殺人  ウィリアム・L・デアンドリア
2位 薔薇の名前  ウンベルト・エーコ
3位 女には向かない職業  P・D・ジェイムズ
4位 古い骨  アーロン・エルキンズ
5位 スイートホーム殺人事件  クレイグ・ライス

̶という順になる(1991年現在)。

本書「刑事の誇り」は、1991年の時点では、ディテクティブ・ノベルⅡの第2位にランクインしている。原本(Hard Line)の刊行は1982年である。そういった時代背景を頭の片隅に置いておく方が、きっと興味深く読めるだろう(´Д`)

《万年夜勤刑事だったパウダー警部補は失踪人課の長になった。が、正規の部下は車椅子の女刑事ただ一人という小さな部署。ぼやきながらの初仕事は、自殺未遂者の身元調べだった。その女は全裸で発見された上、一切の記憶がないという。さらに家出した妻、行方不明の姪など、捜索依頼が次々と舞い込む。折しも彼は息子が犯罪に関わっている気配に気づいた。公私に山積する難題に立ち向かう不撓の辣腕刑事! シリーズ第二弾。》(BOOKデータベースなし。表紙カバーに付された早川書房のコピーから転載)

ストーリィの焦点は、2つある。まずパウダー警部補が失踪人課に転属されたこと、つぎにキャロリー・フリートウッドという、仕事で身障者となった車椅子の女刑事が部下にくわわったこと。
「夜勤刑事」では、パウダーはやまあらしみたいな棘だらけの性格だったのが、少しおとなしくなり、一般市民や同僚と普通の挨拶はできるようになっている。
しかし、唯一の部下は、女性で車椅子に乗った部長刑事でありますぞ。

《複数の事件を同時進行させ、最後に収斂させるスタイルは、モジュラー型警察小説の典型といえる。》(「ミステリ・ハンドブック」51ページ)
パウダーが重度の仕事中毒男であるのは、前作「夜勤刑事」と変わらない。妻とは離婚しているが、問題を抱えた20代前半の息子がいる。
モジュラー型警察小説なので、章があらたまるたびに、新たな事件がパウダーを待ち受けている。「ふむ、つぎの事件はなんだね。そのつぎは・・・」である。

フリートウッドがとてもリアル。「ああ、そうか。そうだなあ、そうきたか!」
わたしはたびたびため息をついて考え込んでしまった。
彼女はいわゆるディスクワークのOLではなく、上司のパウダーとタッグを組んで、朝から夜遅くまで、クルマを運転し車椅子で飛び回る女性であり、部長刑事なのだ。減らず口ばかり叩いているパウダーは、実際的で容赦しない厳しい警部補。
原作の「Hard Line」を「刑事の誇り」と訳した編集部、そして訳者の眼が小説の底でギラリと光っているのを感じた。

本書はディテクティブ・ノベルⅡ(警察官が主人公・米タイプ)のジャンルでは「夢果つる街」につづき、第2位を獲得している。それだけの支持を集めたのは、登場人物としてフリートウッドを描くことに成功しているからだ。この車椅子の若い女性刑事は、上司であるはりねずみパウダーと互角に渡り合っている。

あんたは何で刑事などやっているんだねと訊ねられ、フリードウッドはこう答えている。
「そういうとき(危険に直面したとき)、ほかのどんなときよりも、自分は生きているんだって感じたのよね」(337ページ)
あっぱれというしかないが、まかり間違うと“臭いセリフ”になってしまうだろう。そこをリューインはうまくすり抜けている。
また拳銃の弾を食らって、手術の直前にもかかわらず仕事で駆けずり回るパウダーの扱いもうまい。同情やら悲壮感やらはいらない。おれは当たり前のことを最後まで貫きたいだけ。それが仕事ってもんさ・・・という声が、ページの背後から響いてくる。

若者たちの仮装パーティーの場面はじめ、数か所「おやおや、おや(´?ω?)」といいたいところがあったので、わたし的には星4つに留めておく。
リューインは実力のある小説家である。
日本にもこんな小説家いるかなあとかんがえていたら、お名前だけは知っていた横山秀夫さんを思い出し、文庫本を5~6冊買ってきた。
いつになるか・・・出番待ちしているものが山積しているから、まだまだまだ先になりそうだけど(^^;



評価:☆☆☆☆

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