
じつに久しぶりに、化粧箱に入った本を買った。
森山大道著「実験室からの眺め」河出書房新社 3,800円(税別)
ノンブルはないからハッキリわからないが、約80ページほどの薄い写真集。
高いといえば、高い本だとおもう。しかし、これは、森山さんふうにいえば、サン・ルゥへの手紙」という写真集に対する“終章”あるいは、反歌ということになるのだろう。
1827年7月に、歴史上はじめての一枚の写真が、フランスの片田舎、サン・ルゥで撮影された。
その人の名は、ニセフォール・ニエプス。
森山大道さんにとって、あるいはニエプスの名を知る多くのフォトグラファーにとって、サン・ルゥは写真の聖地なのである。
ニエプスは写真のことをヘリオグラフィ(太陽が描く絵)と呼んでいた。
この歴史上はじめて撮られたヘリオグラフィは、いま「ル・グラの窓からの眺め」と名付けられているそうである。
彼はこの一枚を、一日八時間、三日間かけて撮ったのである。
森山さんが「サン・ルゥへの手紙」という写真集を刊行したのは、1990年のこと。
わたしはその直後に、この写真集を手に入れた。「光と影」「サン・ルゥへの手紙」の二冊は、数ある彼の写真集の中で、わたしがいちばん好きな写真集。いや、「ニューヨーク」「ブエノスアイレス」「仲治への旅」も好きだけれど(^-^*)/
この写真集「実験室からの眺め」の中心をなしているのは、2008年7月、森山さんがサン・ルゥへいって写した「ル・グラの窓からの眺め」と、現在でも保存されているニエプスの実験室と、ニエプス自身のポートレイトのコピーと、ニエプスが使用したカメラオブスクラ(暗箱)である。同時に「サン・ルゥへの手紙」も、河出書房新社から復刊されたが、わたしはオリジナルの1990年版をもっている。
森山、荒木の二人は、現代写真の方向を決定づけた二人のカリスマ。巨匠ということばより、カリスマということばがぴったりで、かつて絶大な影響力を写真界にあたえていた。
いまでもそうかもしれない。
えらそうにいわせてもらえば、アラーキーの私写真の影響でデビューした写真家ははいて捨てるほどいる'`,、('∀`) 妻陽子さんがいたころの荒木には、とてつもない輝きがあり「東京物語」「冬へ」を出したころの彼は、自他ともに認める“天才”であったと、わたしもおもう。時代が荒木に追いついたのである。
だけど、いつのころからか、荒木の写真への興味がうすれ、本屋で新写真集を見かけても、立ち読み(立ち見)すらしなくなってしまった。ところが森山さんは、もちろん可能なかぎり、いまでも雑誌等で見られる写真、写真集のすべてを、見ずにはいられない。
荒木に比べると、森山はとても非情な写真家であると、なんとなく考えてきたが、「サン・ルゥへの手紙」は少し違う。感情の濃度、湿度が高く、センチメンタルといえなくもない。森山という写真家の私性のとても上質な部分が、写真集の中心を形づくっていて、そのあたりの見応えは、特別なものがある。・・・と、わたしが考えてきたということである。
そして終章が編まれた。エッセイ集「犬の記憶」に「犬の記憶・終章」があるように。
「サン・ルゥへの手紙」を再び、三度(みたび)とゆっくり見てから「実験室からの眺め」を、同じように見ていく。
そういう意味では、彼のファンにとっては決して高い買い物ではないだろう。いま、そんなことを考えている。
つぎの三枚は、本日の散歩の収穫。
視神経が敏感になっていると、こんな普通の風景がなにごとか囁きかけてくる。森山さんの写真が、わたしの視神経を敏感にしたのだろう。



※mixiアルバム「郷土遊覧記 P2」はこちら(友人まで公開)。
http://photo.mixi.jp/view_album.pl?album_id=500000082746636&owner_id=4279073