二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

見事な構図、そして第二幕がはじまる! ~ヒラリー・ウォー「事件当夜は雨」を読む

2023年12月06日 | ミステリ・冒険小説等(海外)
■ヒラリー・ウォー「事件当夜は雨」吉田誠一訳(創元推理文庫 2000年刊)原本は1961年刊


ショッキングな書き出しにびっくりさせられる。わけのわからない奇怪な開幕は近ごろのミステリなみ・・といっていいかな?
しかし、そのあとがいささか中だるみだと思えた。緊迫感が足りないのですね、たとえば「失踪当時の服装は」に比べて。
ミスディレクションはある。サブ・ストーリーもないではない。
そういったものを折り込んでゆくと、上下2巻、1000ページの大作、などとなりかねない(^^; そこがいいのさ、という人もいるだろうが。

聞き込みをすればするほど、謎が深まり、捜査関係者を混乱と当惑の沼に引きずり込む。
主役と脇役は、「失踪当時の服装は」の場合、ブリストル警察の署長フォード、巡査部長キャメロンの二人であったが、本編では、コネチカット州スコットフォード警察署長フレッド・C・フェローズと、部長刑事シドニー・G・ウェルクス・・・の二人に変わる。

「事件当夜は雨」は二重底になっている。ここが物語の底辺だろう、終わりだろう、ラストシーンだろうと思わせておいて、その先へと読者を引っ張ってゆく。そして、第25章からつぎの幕が開く(^^;
ヒラリー・ウォーは不器用な小説家かと想像していたが、そんなことはないですねぇ。

《どしゃ降りの雨の夜。果樹園主を訪れたその男は「おまえには50ドルの貸しがある」と言い放つや、いきなり銃を発砲した…コネティカット州の小さな町、ストックフォードで起きた奇怪な事件。霧の中を手探りするように、フェローズ署長は手がかりを求める。その言葉の意味は? 犯人は? 警察の捜査活動を緻密に描きつつ、本格推理の醍醐味を満喫させる巨匠ウォーの代表作登場。》BOOKデータベースより

どしゃ降りの雨の夜。読んだ人はだれでもいうと思うけど、これがすばらしく印象的な効果を発揮し、不穏な空気を漲らせている。そして農場主が銃で撃たれ、2時間後に死亡。
農場主なら当然だが、小さな町の郊外が舞台の背景に選ばれている。綺麗な女子学生ではなく、おじさん(。-ω-)

アリバイ崩しが幸運にめぐまれたことはやや不満が残るものの、犯人は意外な人物。
この男が主犯なのか、はたまた従犯なのか、そのあたりが、最後までもつれ、読者を引っ張る推進力となる。
殺された男の妻、マータ・ロベンズが終始怪しい挙動をする。
第24章(233ページ)で物語は表面上終息するが、はてそのあと50ページも、何が書かれているのか半信半疑だった。
そこからウォーは見事な“うっちゃり”の技を決める!

ヒラリー・ウォーは、フェローズ署長シリーズ・シリーズを全部で11作書いている。
この「事件当夜は雨」が3作目。つぎが第5作「生まれながらの犠牲者」で、先日新刊で買ってきた。
このシリーズは人気があるのだろう、11作のうち、6作が翻訳されている。地味な作風のためどちらかというと冷遇されているウォーにしては珍しい。
ちなみに、
第1作 ながい眠り
第5作 生まれながらの犠牲者
第9作 冷えきった週末

・・・は手許にストックしてある。すべて創元推理文庫。日本版翻訳権を独占しているからだ。
ひきつづき「ながい眠り」を読みはじめたが、出だしは快調である。
昔からヒラリー・ウォーの小説は何冊か持ってはいた。
しかし、創元社は文字が小さめなので躊躇しているうち、老年になってしまった。新刊を手に入れたものの、やっぱり小さめなので、老眼にはきびしいものがある。
エポックメイキングな「失踪当時の服装は」(1952年)と並び称されるだけに、本編「事件当夜は雨」(1961年)も輝かしい秀作である。
ゴール間近な直線コースに入ってからピッチをあげて、「失踪当時の服装は」を追い越した・・・とはいわないが、追いついたと、わたしは思っている。

この1か月あまりで、手に入るかぎりのウォーの作品が集まってきた。
警察小説のお手本となるような本を、ほかにもきっと書いているはず。
中でもウォーといえばこれ、ボズウェルのノンフィクション「They All Died Young(彼女らは皆、若くして死んだ)」も、昨日偶然手に入った^ωヽ*



あとは読むだけ。


※どうでもいいことといえばそうだが、「失踪当時の服装は」と「事件当夜は雨」、それぞれに誤植を1か所ずつ発見した(;^ω^)



評価:☆☆☆☆☆

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« エポックメイキングな傑作! ... | トップ | 着地が決まってさらに傑作と... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ミステリ・冒険小説等(海外)」カテゴリの最新記事