■ソルジェニーツィン「イワン・デニーソヴィチの一日」木村浩訳 新潮文庫(昭和38年刊)
ロシア文学に少しでも関心があれば、この名高い小説を知らないという人はいないと思うけれど、一応BOOKデータベースを引用しておこう。
《午前五時、いつものように、起床の鐘が鳴った。ラーゲル本部に吊してあるレールをハンマーで叩くのだ――。ソ連崩壊まで国外に追放されていた現代ロシア文学を代表する作家が、自らが体験した強制収容所での生活を描く。》
《1962年の暮、全世界は驚きと感動でこの小説に目をみはった。のちにノーベル文学賞を受賞する作者は中学校の田舎教師であったが、その文学的完成度はもちろん、ソ連社会の現実を深く認識させるものであったからだ。スターリン暗黒時代の悲惨きわまる強制収容所の一日をリアルに、時には温もりをこめて描き、酷寒(マローズ)に閉ざされていたソヴェト文学にロシア文学の伝統をよみがえらせた名作。》
ふーむ、たしかに高名な作品ではある。わたしが高校のころ、この作家の「ガン病棟」がたしかベストセラーになっていた。「煉獄のなかで」というのもけっこう読まれていたんじゃないかしら?
しかし、現在手軽に読むことができるのは、おそらくこの「イワン・デニーソヴィチの一日」1冊だけだろうと思う。
それほど人気が凋落したのだ。とくにソビエト連邦解体のあと、その凋落傾向に拍車がかかっているはず。
ある歴史的局面の役割をおえたということだろう。鉄のカーテンの向こうはどうなっているのか、当時の西側の人たちが興味をそそられたわけだ。
まあ何といってもノーベル文学賞受賞作家なのである。岩波文庫では「ソルジェニーツィン短篇集」がいまでも現役のようだ。「クレチェトフカ(クレチェトルカ)駅の出来事」「マトリョーナの家」などは、わたしめもいつか読みたいとかんがえてはいるし、本も手許にある。
Amazonのレビューでは、
《「マトリョーナの家」・「クレチェトルカ駅の出来事」・「公共のためには」・「胴巻きのザハール」…いずれもが宝石のような輝きを放っている。どの短編にも自己本位とは無縁の、「愛すべき人」が主人公となっている。
そしてその時代状況はソルジェニーツィンの体験した時代を見事に描写する。》と評しているファンもいる。
むろん現在でも、お好きな方は大勢いる。わたしが異を唱える必要はないのだろう。
《野菜汁のたのしみは、それが熱いことだ。しかし、シューホフがいま手にいれたのはすっかり冷えていた。それでも、彼はそれをいつものように、ゆっくりと、舌の先に神経を集中しながら、じっくりと味わっていった。たとえ天井が焼けだしても――あわてることなんかない。睡眠時間を別にすれば、ラーゲルの囚人たちが自分のために生きているのは、ただ朝飯の十分、昼飯の五分、晩飯の五分だけなのだから。》(24ページ 木村浩訳)
全255ページ、こういった描写でうめつくされている。
マイナス30度にせまる酷寒(マローズ)のさなかの単調な肉体労働。安たばこ、粗末な食物、狭く汚らしい部屋。読んでいるとよくわかるがシベリアの冬は「酷寒」が一番の敵なのである。
時代は1951年。なぜこういった収容所に収容されてしまったのか、シューホフにはよくわからない。ラーゲルでのいつもと変わらぬ一日。その些細な出来事を、作者は執拗な筆致で描写してゆく。
ああまたか・・・まだ続くのか( ゚д゚)
怒りとあきらめ。主人公シューホフの周辺人物たちを描き分けていく作者の手腕はたいしたものである。追いつめられると、人間はこうもいじましくなるものか。
しかし、あまりに単調な描写が、延々と続いてゆくので、わたしは途中で挫けそうになった。
淡々とした日常生活は変化に乏しいし、魂をえぐるようなことばもないといえばないといっていいだろう。
わたしはドストエフスキーの「死の家の記録」と、つい比べてしまう。「死の家の記録」は凄みのある洞察が、目をそむけたくなりながら凝視せずにはいられない恐るべき傑作だったが、こちらは記念碑的な小説ではあるものの、“佳品”レベルだろう。
収容所とは何であるのか!?
刑事犯はともかくとして、何のために、たいした罪もないような多くの人びとを囚人として隔離するのか、シューホフにはもちろん、他の収容者にもわからない。愚劣の極み、それはたしかに存在する・・・とソルジェニーツィンは、耳を傾けてくれる人々に、静かな声で語り続ける。
わたしは講談社世界文学全集の第83巻を、間違って買ってしまい2冊持っている(;^ω^)
そちらにはショーロホフの「人間の運命」が、江川卓さんの訳で収録されている。いずれそちらも読まずばなるまい。
ロシアのことをかんがえると、気持ちがどんどん暗くなる。
トルストイを読み返すつもりで「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」その他を準備してあるけれど、そのパワーが、読者たるわたしに湧いてくるのはいつだろうか。
(このソルジェニーツィンはグーグルの画像検索からお借りしたものです。ありがとうございます♪)
評価:☆☆☆
ロシア文学に少しでも関心があれば、この名高い小説を知らないという人はいないと思うけれど、一応BOOKデータベースを引用しておこう。
《午前五時、いつものように、起床の鐘が鳴った。ラーゲル本部に吊してあるレールをハンマーで叩くのだ――。ソ連崩壊まで国外に追放されていた現代ロシア文学を代表する作家が、自らが体験した強制収容所での生活を描く。》
《1962年の暮、全世界は驚きと感動でこの小説に目をみはった。のちにノーベル文学賞を受賞する作者は中学校の田舎教師であったが、その文学的完成度はもちろん、ソ連社会の現実を深く認識させるものであったからだ。スターリン暗黒時代の悲惨きわまる強制収容所の一日をリアルに、時には温もりをこめて描き、酷寒(マローズ)に閉ざされていたソヴェト文学にロシア文学の伝統をよみがえらせた名作。》
ふーむ、たしかに高名な作品ではある。わたしが高校のころ、この作家の「ガン病棟」がたしかベストセラーになっていた。「煉獄のなかで」というのもけっこう読まれていたんじゃないかしら?
しかし、現在手軽に読むことができるのは、おそらくこの「イワン・デニーソヴィチの一日」1冊だけだろうと思う。
それほど人気が凋落したのだ。とくにソビエト連邦解体のあと、その凋落傾向に拍車がかかっているはず。
ある歴史的局面の役割をおえたということだろう。鉄のカーテンの向こうはどうなっているのか、当時の西側の人たちが興味をそそられたわけだ。
まあ何といってもノーベル文学賞受賞作家なのである。岩波文庫では「ソルジェニーツィン短篇集」がいまでも現役のようだ。「クレチェトフカ(クレチェトルカ)駅の出来事」「マトリョーナの家」などは、わたしめもいつか読みたいとかんがえてはいるし、本も手許にある。
Amazonのレビューでは、
《「マトリョーナの家」・「クレチェトルカ駅の出来事」・「公共のためには」・「胴巻きのザハール」…いずれもが宝石のような輝きを放っている。どの短編にも自己本位とは無縁の、「愛すべき人」が主人公となっている。
そしてその時代状況はソルジェニーツィンの体験した時代を見事に描写する。》と評しているファンもいる。
むろん現在でも、お好きな方は大勢いる。わたしが異を唱える必要はないのだろう。
《野菜汁のたのしみは、それが熱いことだ。しかし、シューホフがいま手にいれたのはすっかり冷えていた。それでも、彼はそれをいつものように、ゆっくりと、舌の先に神経を集中しながら、じっくりと味わっていった。たとえ天井が焼けだしても――あわてることなんかない。睡眠時間を別にすれば、ラーゲルの囚人たちが自分のために生きているのは、ただ朝飯の十分、昼飯の五分、晩飯の五分だけなのだから。》(24ページ 木村浩訳)
全255ページ、こういった描写でうめつくされている。
マイナス30度にせまる酷寒(マローズ)のさなかの単調な肉体労働。安たばこ、粗末な食物、狭く汚らしい部屋。読んでいるとよくわかるがシベリアの冬は「酷寒」が一番の敵なのである。
時代は1951年。なぜこういった収容所に収容されてしまったのか、シューホフにはよくわからない。ラーゲルでのいつもと変わらぬ一日。その些細な出来事を、作者は執拗な筆致で描写してゆく。
ああまたか・・・まだ続くのか( ゚д゚)
怒りとあきらめ。主人公シューホフの周辺人物たちを描き分けていく作者の手腕はたいしたものである。追いつめられると、人間はこうもいじましくなるものか。
しかし、あまりに単調な描写が、延々と続いてゆくので、わたしは途中で挫けそうになった。
淡々とした日常生活は変化に乏しいし、魂をえぐるようなことばもないといえばないといっていいだろう。
わたしはドストエフスキーの「死の家の記録」と、つい比べてしまう。「死の家の記録」は凄みのある洞察が、目をそむけたくなりながら凝視せずにはいられない恐るべき傑作だったが、こちらは記念碑的な小説ではあるものの、“佳品”レベルだろう。
収容所とは何であるのか!?
刑事犯はともかくとして、何のために、たいした罪もないような多くの人びとを囚人として隔離するのか、シューホフにはもちろん、他の収容者にもわからない。愚劣の極み、それはたしかに存在する・・・とソルジェニーツィンは、耳を傾けてくれる人々に、静かな声で語り続ける。
わたしは講談社世界文学全集の第83巻を、間違って買ってしまい2冊持っている(;^ω^)
そちらにはショーロホフの「人間の運命」が、江川卓さんの訳で収録されている。いずれそちらも読まずばなるまい。
ロシアのことをかんがえると、気持ちがどんどん暗くなる。
トルストイを読み返すつもりで「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」その他を準備してあるけれど、そのパワーが、読者たるわたしに湧いてくるのはいつだろうか。
(このソルジェニーツィンはグーグルの画像検索からお借りしたものです。ありがとうございます♪)
評価:☆☆☆