二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

思慮深く、愛情深く ~「灰色の輝ける贈り物」にしびれる

2023年04月16日 | 小説(海外)
■アリステア・マクラウド「灰色の輝ける贈り物」中野恵津子訳(新潮クレストブック 2002年刊)


物語の大半が過去の話である。だから“哀惜の念”が、これらの短篇群を覆いつくしている。アリステア・マクラウドは、老齢になってから読むのにふさわしいといえる。
背景となる時間の地層は、一世代ではなく、二世代、三世代、あるいはもっと分厚い幅の中に横たわっている。
書かれている内容も、作者のスタイルも、ときおり息苦しくなるほどストイックで生真面目。

そういう作風なのである。好きな人にはたまらない味を持っている。味は“滋味”ということばの方がふさわしいかもね(´Д`)
たとえば、ブコウスキーのような小説家とは、対極にあるのだ。
感情のうねりはゆったりしているが、ときに激しく岩頭を噛む。そのあたりの作者の呼吸が見どころというか、読みどころである。名工の鑿とだれかが評しているが、その通りだとわたしもおもう。

《舞台は、スコットランド高地からの移民の島カナダ、ケープ・ブレトン。美しく苛酷な自然の中で、漁師や坑夫を生業とし、脈々と流れる“血”への思いを胸に人々は生きている。祖父母、親、そしてこれからの道を探す子の、世代間の相克と絆、孤独、別れ、死の様を、語りつぐ物語として静かに鮮明に紡いだ、寡作の名手による最初の8篇。》BOOKデータベースより

1. 船
2. 広大な闇
3. 灰色の輝ける贈り物
4. 帰郷
5. 秋に
6. 失われた血の塩の贈り物
7. ランキンズ岬への道
8. 夏の終わり

収録されているのはこの8篇。どれも完成度が高く、“ハズレ”はない。わたし的には「船」「広大な闇」「帰郷」「秋に」「ランキンズ岬への道」などにしびれ、目頭が熱くなった。訳者中野恵津子さんの日本語も自然ににじみ出るものがあって、訴求力があり、手編みのセーターかマフラーみたいだ♪

基本的に、厳しい自然の中で身を寄せ合って生きる、つつましい家族の物語である。「北の国から」の倉本聰さんの世界を連想する読者もいるだろう。

《ゆずれないこと、守りたいもの。カナダ東部の島の、美しく過酷な自然の中で、思慮深く、愛情深く生きる人々》
オビに付されたこのキャッチコピーが、これらの短篇の魅力を、一言で要約している。

《スコットランド高地からの移民が多く住む、カナダ、ケープ・ブレトン島。そこでは美しく過酷な自然の中、漁師や坑夫を生業とし、脈々と流れる<血>への思いを胸に人々は生きている。》
やや長めのキャッチコピーを引用すると、こういう内容となる。
ケープ・ブレトン島がどこにあるのか、わたしはたびたび地図を参照した。すると「赤毛のアン」の島、プリンスエドワード島のすぐ隣に位置していることがわかった(*^。^*)
そうか・・・そうだったか!

本書は「Island」に発表年代順に収められた16の短篇のうち、前半8篇を翻訳したものだと「訳者あとがき」で、中野恵津子さんが書いておられる。
年を取ると、なにげない一言が、痛切に胸にひびいてくることがある。そして、そしてじんわりと涙が・・・。メッセージ性も高い作風である。こういう短篇は、すらすらと快速で読むのではなく、噛みしめながら、スローリーディングするのがいい。31年間で、たった16篇(ほかに長篇一作)。まさに“名工”の技というべきか。

テレビも電話もない、そして冬の厳しい自然の中の生活に、せいいっぱいの愛情が注がれる。しばしば犬や羊などの動物が脇役をつとめるが、それらに向けられる視線のやわらかさ。
「ランキンズ岬への道」が、一読者たるわたしの胸を波立たせる。ラストシーンだけ、やや不満が残ったけれど、最初の一ページから、ことばの一つひとつが小さなルビーのようにキラキラと輝いているようにおもわれた。
まだ後半の8篇「冬の犬」が残してある。

本書は作者アリステア・マクラウドからの、そして中野恵津子さんからの、すばらしい、心尽くしのGiftである。








   (グーグルの画像検索からお借りしました。ありがとうございます。)



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