二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

とるに足らない写真がおもしろい ~川内倫子小論

2012年05月08日 | Blog & Photo

40年も写真とかかわっていると、大抵の写真に飽きてしまっている。
雑誌のコンテスト欄もよく見るけれど、金賞をとるような写真には「おー!」と、歓声をあげてしまう作品が、たまにある。
プロが撮ってグラビアに発表しているようなコンセプチュアルなものは、「好き」と「嫌い」がはっきり分かれる。あるいは「なんだろう、これ?」と思いつつ、通過してしまう。

とるに足らない写真とは、「撮るに足らない写真」でもある。
意味があるようでない、ないようである。そのあわいに、何げなく、ふわっと、あるいはクッキリと浮かび上がる写真。

このあいだ、川内倫子さんの写真集「うたたね」を買ってきた。
1ヶ月ばかりまえに「花火」を買っているので、川内さんの写真集は、これが二冊目。
昔のあやしげなビニ本みたいにビニールをかぶっていたので、中身の確認ができない。
「まあ、これがつまらなかったら、川内さんとは、たぶん縁がないのだ」
そう考えながら、ビニールを剥がし、一枚一枚見ていった。

以前も書いたように、わたしは「女子カメラ」は読まないし、市橋織江さんの写真集を眺めているときも、「これ、半分以上失敗作じゃないの?」といいたくなる違和感があった。
「花火」は、あまりおもしろくなかったので、買ったあとで、がっかりだったけれど、「うたたね」には、息苦しいような日常性に対する、類い希な斬新な感覚が刻印されている。
これは非常にナイーヴな感受性の持ち主が、納得しきれない現実と出会って表出せざるをえない、こころの軋みのようなものといってもいい。
「女性ならではの・・・」といういい方はあまり好きではないが、やっぱり、そういってみたい誘惑にかられる。この人はもしかしたら、方向音痴なのではないかと思ったり、低血圧症で、よく目眩を起こしたりするのではないかと考えたり(笑)。
色彩や構図に対する、破天荒なゆさぶりがある。だから、通俗性からは、つまりコンテスト写真の世界からは、限りなく遠いところに、かなり内省的に成立している作品群である。
コンテストに応募しようものなら、金賞、銀賞はおろか、銅賞にもひっかからないだろう。

小学生がいたずらをしていたら、撮れてしまったような作品。
これはどうみても失敗作。これも失敗作・・・ところが、それら「失敗作」をページの順につぎつぎ見ていくと、ある特別な相乗効果が立ちあがってくる。
偶然性に身をまかせること。
現実には不愉快なものがあるが、そこから眼をそらさず、見つめようと、意志すること。
悲しみには、色や形があるということ。
幼い女の子のまなざしは、この世への違和感にこだわっている。それこそ、だれにも理解されない彼女固有の音楽である・・・とでもいいたげに。そこには、ある種「病的な繊細さ」が存在する。

わたしの理解は、しかし、そこからさきへはとどかない。「なんでこんなカットがここにあるんだろう?」
わたしには、わからない。
わからないからつまらない場合と、わからないけどおもしろい場合があるが、つまりこの「うたたね」は、その後者に属する。とるに足らない写真は、撮るに足らない写真である。

たしか、このころ川内さんはローライフレックスの二眼レフを使い、ネガカラーで撮影している。1972年生まれ、「花火」「うたたね」の二冊で、2002年に木村伊兵衛賞を受賞。ちょうどそのころ、わたしも6×6判に関心をもったので、なんとなくずっと気になるフォトグラフアーのお一人であった(-_-) 
「とるに足らない写真」の中に、ことばを拒否するかのようなフレーバーな香りがある。それは、「わかる人にしわからない」幽かな、かすかなものである。川内さんは、そういった感覚に敏感なのだ。
なにしろ、彼女が紡ぎ出す写真は、これまでのどの写真家にも、似ていないように見える。そこが、凄いといえば、すごい。
「いやだなあ。こんな写真は、もう見たくないぞ!」
はじめはそう思っているのに、つぎに見るときは、少し距離が縮まっている。そう感じるのは、たぶんわたしが「うたたね」に対する理解の手がかりをつかみかけているということである。もしかしたら、錯覚かもしれないのだけれど――。

トップにあげたのは、4月26日の日記で書いた、ヤシカ124Gによる沼田市の街角写真。
これがこのカメラのほぼ最短距離撮影、1mである。絞りは開放F3.5、中判なのでボケが大きいし、質感表現、色再現に、フィルム特有のテイストがある。こういう写真を見て・・・わたしがなぜ「フィルム回帰」をしたか、わかってもらえるかしら(笑)。



もう一枚、参考までに、4月26日に登場していただいた、東京からのステキなカップルのお写真を引用しておこう。フィルムはフジカラー400プロ。
さて、PENデジ、ファンタジックフォーカスの画像と比べて、皆さんはどんな感想をお持ちになるだろう。
☆4月26日mixi日記
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1840531154&owner_id=4279073




☆川内倫子写真集「うたたね」はこちら。
http://www.amazon.co.jp/%E3%81%86%E3%81%9F%E3%81%9F%E3%81%AD-%E5%B7%9D%E5%86%85-%E5%80%AB%E5%AD%90/dp/4898150527

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