二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

仕事にかけた男たちのクールな神話 ~ギャビン・ライアル「深夜プラス1」のいま

2024年01月26日 | ミステリ・冒険小説等(海外)
■ギャビン・ライアル「深夜プラス1」鈴木恵訳(ハヤカワNV文庫 2016年刊 新訳トールサイズ)原本は1965年


冒頭からこんなことをいっては申し訳ないが、かつて冒険小説の最高峰の1冊として取り沙汰されていた「深夜プラス1」。
だが、今回の読書では、わたし的評価では、残念なことに冒険小説のオールタイム・ベストの30から陥落しそうである。
本編を有名にしたのは、よく知られているようにコメディアン&書評家、内藤陳さん。内藤さんは日本冒険小説協会設立発起人の一人で、新宿に酒場「深夜プラス1」を経営なさっていた。
わたしもそこに友人と二人で出かけていったことは、すでに述べさせていただいた(*´σー`)

「深夜プラス1」がヒギンズの「鷲は舞い降りた」とならんで、冒険小説の代名詞となったのには、内藤陳さんの功績が大きい・・・といわれている。
はじめて読んだのがいつだったか、うろ覚えだが、そのときは菊池光さんの訳であった。ヒギンズやライアル、ディック・フランシスやロバート・B・パーカー等で菊池さんの仕事には、ずいぶん世話になった。今回もはじめは菊池さんの訳で読むつもりでいたが、文字の大きさ、読みやすさに負けた(^^;;)

この小説はルイス・ケイン(キャントン)の一人称で語られている。
しかも男たちのシニカルなジョークの応酬で大半が埋め尽くされ、どこまでがジョークでどこから“本当”なのか、立ち止まってかんがえなければならないほど。内藤さんが気に入ったのは、このケインのサビのきいた語り口にあるのではないか?
そして訳者菊池光さんのストイックな、余計なものをそぎ落としたシャープな日本語の見事さ。

オビにはゲームデザイナー小島秀夫さんの「わたしの人生を変えた傑作(ハードボイルド)にまた逢えるなんて」ということばが紹介されている。

(旧)ルイス・ケイン(カントン)
(新)ルイス・ケイン(キャントン)
(旧)ハ―ヴェイ・ロヴェル
(新)ハ―ヴィー・ラヴェル
この表記の違いがとても気になったが、全420ページの半ばあたりで慣れてきた(ノω`*)
キャントンとは家鴨(アヒル)の子の意味があるそうである。
アクション・シーンが訳文のせいか、ちょっとぎこちないのが気になる。

《腕利きドライバーのケインが受けた仕事は、ごくシンプルに思えた。相棒となるボディガードとともに、大西洋岸のブルターニュからフランスとスイスを車で縦断し、一人の男を期限までにリヒテンシュタインへ送り届けるだけだ。だがその行く手には、男を追うフランス警察、そして謎の敵が放った名うてのガンマンたちが立ちはだかっていた!  次々と迫る困難を切り抜けて、タイムリミットの零時1分過ぎまでに、目的地へ到達できるのか? 車と銃のプロフェッショナルたちが、意地と矜持を見せつける。冒険小説の名作中の名作が、最新訳で登場!》Amazonのデータベースより

ギャビン・ライアルの銃器やクルマに対するこだわりは相当なものがある。
シトロエンDSだとか、特注のロールスロイス・ファントムⅡ、スミス&ウェッソンM36、モーゼルM712その他、“男の道具”が、ストーリーの展開の上で大きな比重を占めている。それらがマニア心をくすぐる。
しかし、彼らを本当に躍らせているのは、シニカルにいえば金なのである。

また見方によっては、フランスのブルターニュ沿岸からリヒテンシュタイン公国までのrun away(逃亡)の小説の一類型といえなくもない。
そのほとんどは自動車による移動なので、国境を突破するのが難事で見所となる。

本編をどう読むかは、当然読者によって違う。わたしは佳品レベルだと判断したけれど、21世紀の現在でも、傑作だという人はいるだろう。
レジスタンス時代のキャントンの愛人であったジネット・ド・マリス(伯爵夫人)や、高齢のフェイ将軍の描写は、誇張はあるにせよ、際立ったキャラに仕上げてある( -ω-)
すぐに名を思い出すことはできないが、あとからきて評判になった冒険小説が、本編をお手本にしながら、それ以上の出来映えをしめす・・・ということがあったろう。

全体としてはかなり退屈な作品となったのはやむをえないにせよ、部分的に「おっ!」とうなってしまったシーンがあった。
3点か4点か迷いながら、かつての名作に敬意を表し、☆4つをつけておこう。その昔一世を風靡したギャビン・ライアルの本は、「ちがった空」「もっとも危険なゲーム」「本番台本」など、軒並み古書店めぐりで探すしかない。現在生き残っているのは「深夜プラス1」だけ、という淋しさである。


   (モーゼルM712のモデルガン。グーグルの画像検索からお借りしました、ありがとうございます。)



評価:☆☆☆☆

※ 登場人物についてはこちらに詳しい紹介がある。
https://w.atwiki.jp/aniwotawiki/pages/46947.html

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