二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

花の里で出会った老夫婦

2012年04月20日 | Blog & Photo


管理物件に出かけたついでに少し足をのばし、わたしがひそかに「花の里」と名づけている赤城山麓を一周してきた。
このあたりには、M霊園という、前橋地区では最大の墓地がある。
フィルムカメラをもって風景写真を撮っていたころ、また、デジ一を二台ぶらさげてチョウを追いかけていたころ、幾度となく訪れた里山地区の一つである。

もう遅いかな・・・と心配したけれど、杞憂だった。
散りはじめの桜にまにあった。














都市公園で見かける桜とは、ずいぶんおもむきがことなる。
若いころはよくこんな写真を撮ったものだけれど、いまのわたしは、手放しでこんな風景を讃美することは、めったにない(=_=)
マイミクのみなさんが撮影してアップしていらっしゃる写真を拝見していれば十分。三毛ネコさんは、もうひとひねり・・・というか、違った路線でいこう、という思いがあるからである。

薄曇りではあったが、ベニシジミはじめ、数種のチョウがひらひらと舞って、クルマの中では、窓を開けていても汗ばむような陽気であった。
M霊園でツツジにカメラを向けていたら、八十がらまりとおもわれる老夫婦が近づいてきて「シャッターを押していただけますか?」と声をかけられた。
昔は、よくこんなシーンと遭遇したものだが。
昨今は「自分撮り」がはやっているらしく、「シャッターを押してもらえますか」と頼まれることはめったにない。





その老夫婦が、こちら。
桐生からやってきたと、問わず語りに話してくれた。
「毎年、この時季にやってくるんです。カメラを去年落下させてしまって。おはずかしいカメラなんですが」
見ると、「バカチョンカメラ」とバカにされていた、古いフジのフィルムカメラ。裏蓋がガムテープで補修してあった。

「わたしは高崎からきたんです。いいお天気でよかったですね。昨日、今日が見頃かもしれません。わたしのカメラでも、一枚撮らせて下さい」
そんな世間話をして写真を撮らせていただき、お名前もご住所もお訊ねせず別れた。

会社へもどる途中、わたしは森鴎外の名短編「じいさんばあさん」を思い出した。
森鴎外といえば「阿部一族」「寒山拾得」「雁」は以前からの大ファンで、愛読してきた。
だけど、・・・わたし自身が五十の坂を越えたころ、ある名作の存在に気がついた。
それが「じいさんばあさん」である。
これはアラン・シリトーの「漁船の絵」とならぶ、珠玉の名品である。テーマは人の・・・いや夫婦の出会いと別れ。「じいさんばあさん」は再会の物語で、いまでは、この一編をあげよ、といわれたら、鴎外では「じいさんばあさん」を選ぶだろうというほど惚れこんでいる。この短編については、いずれキチンと取り上げることがあるだろう。

春。
こんな出会いが、大げさにいえば、わたしに、少し「生きる勇気」をあたえてくれる。



アラン・シリトー「漁船の絵」はこちらを参照。
http://blog.zaq.ne.jp/comsat/article/44/
新潮文庫「長距離走者の孤独」所収(丸谷才一訳)。


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ぼくの図書館(ポエムNO.70) | トップ | フィルムカメラの愉しみ  »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Blog & Photo」カテゴリの最新記事