二草庵摘録

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「21世紀の戦争論 昭和史から考える」 (文春新書)半藤一利・佐藤優

2017年11月13日 | 座談会・対談集・マンガその他
予想以上の凄みを感じさせる、内容のたっぷりつまった対談であった。切りのいいところで中断しようとかんがえていたけど、結局明け方までかかって、最後まで読み通した。
「文藝春秋」その他に5回に渡って連載したという。
3時間ずつ、5回、この両者が対談したと、半藤さんが「おわりに」にしるしている。

内容が濃い・・・と感じるのは、その対談に、本書を編集するにあたって、大幅な加筆・修正がなされているからだろう。データはより具体的になり、引用には正確さがました。
ご存じのように、半藤一利さんは昭和史のプロ、佐藤優さんは、外交、その中でもロシアのプロである。
お二人とも、机上の人ではなく、広い意味でそれぞれの体験に裏付けられた見解が、知識と一体となり、まれに見る迫力ある対談となった。

わたしのような無知なヤカラは、ただ、ただ圧倒されるばかりであった。
21世紀の戦争論とは、21世紀になって起こった戦争について語ったというのではない。軸足は「昭和の戦争」に置かれている。310万人の死者を出した、“あの戦争”である。
それに対し、21世紀の現代を生きる知の巨人二人が、計15時間語り尽くしたのだ。その後公開された極秘資料や、わかってきた戦争の舞台裏を踏まえて、“あの戦争”がどういうものであったか・・・が振り返られている。

参考までに、もくじを引用しておこう。

第一章 よみがえる七三一部隊の亡霊
第二章 「ノモンハン」の歴史的意味を問い直せ
第三章 戦争の終らせ方は難しい
第四章 八月十五日は終戦ではない
第五章 昭和の陸海軍と日本の官僚組織
第六章 第三次世界大戦はどこで始まるか
第七章 昭和史を武器に変える十四冊

あの大戦はどういうふうにはじまり、終ったのか?
日本と日本人はあの大戦によって変わったのか?
現代と、近未来の日本はどうなるのか?

その大項目がこの対談の根底に存在している。
わたしは学ばねばならぬことだらけ。
「そうか、そうだったのか」
「マスコミが伝えることがない、そういう舞台裏があるのか」
「国家間の外交とは、形を変えた戦争である」

半藤さんの強みは、戦争を背負った生き残りの多くに対し、直接取材した経験があること。佐藤さんの場合は、外交官としてロシアに赴任し、ロシア・東欧の情報収集の任にあたったこと。
それによって、大学の先生方と違う、迫真の対談を実現したのだ。

まあ百歩譲って、日中戦争、対米戦争をはじめてしまったことは仕方ないとしよう。だがなぜもっと早期に、それらの戦争をやめることができなかったのか? たとえば東京大空襲の直後にでも・・・。そうすれば沖縄は修羅の巷になることはなかったのだし、広島・長崎に原爆が投下されることもなかった。死者の大部分は昭和20年に発生しているというから、犠牲ははるかに少なくてすんだのである。
そのあたりに、日本型組織の致命的な欠陥があり、本書の中で、もっとも大きなヤマ場を形づくっている。
天皇の「ご聖断」がなく、さらに降伏が遅れていたら、北海道は釧路・留萌ラインで分断され、スターリンのソ連がそこを占領し、傀儡政権が誕生していた可能性があった。そうなれば、第二のベトナム、第二の朝鮮になっていたかもしれないのである。

本書の刊行は2016年5月。したがって、対談はホットな「いま」を見据えたものになっている。
しかも、本書第七章には、昭和の戦争を顧みる上で基本的な文献が14冊リストアップされ、それについても、お二人のコメントが付されている。厳選された7冊×2というわけである。すでに読んだ本もあるが、読んでいない本のほうがずっと多い。読んだ本も、読み返したくなっている。これまでとは違った光が当たっているからである。



また文春新書からは「写真で見る 日めくり日米開戦・終戦」という本が上梓されている。
「あの日、何があったのか!」という文字が、オビに大きく躍っている。こちらは2017年8月の出版。後付を見ると、「共同通信編集委員室」とあるが、「21世紀の戦争論」とあわせて読むのがいいだろう。

戦後72年。
日本は何とか平和と繁栄を謳歌しているように見える。
しかし、これがいったいいつまでつづくのか、予断は許されないと、本書を読みながら痛感せざるをえなかった。




評価:☆☆☆☆☆

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