二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

作家の値うち

2008年10月26日 | エッセイ(国内)
「作家の値うち」福田和也 飛鳥新社

著者の独断と偏見で、現代文学をメッタ斬りした痛快きわまりない一冊。
福田さんが、まえがきでこう宣言している。
『本書は、エンターテインメントと純文学双方の現役主要作家の、主要作品すべてについて100点満点で採点した、究極かつ前代未聞のガイド・ブックである。』
本書をはじめて読んだのは3、4年まえであったろうか。

村上龍「限りなく透明に近いブルー」が世に出たのは、1976年「群像」6月号。
このあいだ本の整理をしていたら、掲載号の「群像」がひょっこり出てきた。
単行本、文庫本などで350万部も売れたというから、
いまでは考えられないミリオンセラーである。
わたし自身が、あのころは「同時代の文学」に対して、まだ関心を失っていなかったのである。そのあとはっきり記憶に残っているのは、山田詠美さんの「ベッドタイム・アイズ」である。本作品は1985年の文芸賞として登場した。
福田さんの採点だと、
「限りなく透明に近いブルー」・・・71点
「ベッドタイム・アイズ」・・・73点

ちなみに、90点以上をもらっている作品は、17冊。また最高点96点は、
「仮往生伝試文」古井由吉
「ねじまき鳥クロニクル」村上春樹
「わが人生の時の時」石原慎太郎
・・・で、つぎに小島信夫「抱擁家族」の93点がくる。
現代文学といっても、初版刊行時の2000年ですでに物故した作家を除く、現役作家100人(エンターテインメント50人、純文学50人)の574点にのぼる、まさに「前代未聞」の採点表なのである。

これだけの本を、1年たらずで読んだというが、その「読み方」に問題はないのだろうか? 以前本書を読んだときには、話題提供をあせるあまりのパフォーマンスだと考えて、ほとんど読みすてていたような記憶がある。
しかし・・・。
今回読み返して、ずいぶん乱暴に読み飛ばしたものだとは思うのだが、
あちこちにはさまれた9編の「コラム」をていねいに読んでみると、
非常にまっとうな主張ばかり。
「文学の衰弱」を真剣に憂えているその基本姿勢に好感を覚えた。

「若者たちの活字放れ」といわれるようになって久しいが、
この著者には、文学に対する確固たる「理想」があり、だからこそ、こういったおそるべき率直な「直言」が可能となっているのがよくわかる。
「評価に値しない」として点数すらつけなかった船戸与一さんあたりは、喧嘩を売っているとしか思えぬ激越な論調で斬って捨てている。
ここまで書くと、「売ったものの勝ち」といった出版社から干されしまうのではないかと心配になる(笑)。
しかし、この本の読者が100%このような評価に賛同してくれるとは、著者はまったく期待してはいない。
「きみはきみの評価基準を確立したまえ」著者はそういっているだけである。
じつにまっとうなアドバイス、というべきではなかろうか。

いまあらためて読み返し、いくつか読んでおきたい同時代の本を発見することができた。 これこそ、本書の「効用」というべきである。

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