二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

写真集を振り返る Part4 「写真集を読む」

2012年03月11日 | Blog & Photo


今日は2012.3.11。
あの東日本大震災から一年がたった。
ほんのときたまTVを見ると、被災地の報道番組ばかりで、今日も一日、そんな報道でうめつくされるだろう。あの大震災は、多くの人びとにとってと同じように、わたしにとっても、世界観、人生観をゆるがされるような大事件となった。
現代文明がこういった震災に見舞われたとき、われわれの生活なるものが、どれほど危うい基盤のうえに成り立っているか、だれもが痛感したに違いない。
しかし、このことについて、この板に書くのはひかえておこう。
その場の思いつきでなにかもっともらしく発言するには、あまりに重い、悲惨な現実を含んでいる。だれかさんの尻馬にのって、通りいっぺんのありふれた意見を開陳するのはやめておこうというのが、いまのわたしのスタンスである。当然のことながら、地球は人間のためにあるわけではない。

ところで、この「写真集を振り返る」シリーズは、前回(Part3)で一応終了させたつもりであったが、もう一回だけ、ここに5冊をピックアップし、簡単に感想を書きしるしておく気になった。「見る」というより「読む」という視点をもってページをめくっていくと、写真集のほんとうのおもしろさが姿をあらわす。


冒頭に掲げた写真、上からいってみよう(順不同)。

1)「déjà-vu」NO.14 特集1「プロヴォークの時代」 特集2「アンゼルム・キーファー」
フォトプラネット1993年刊 2718円+税
飯沢耕太郎さん責任編集のこの雑誌は、1990年代に、かなりの影響力をもっていた。
雑誌として高価なので、毎号購入するというわけにはいかなかったけれど、さっき調べたら「安井仲治と1930年代」ドキュメンタリーの現在」「牛腸茂雄」「ラリー・クラーク」とこれを合わせ、5冊は刊行直後に買って読み、いまでも大切に収蔵してある。
メンバーの高梨豊さんは写真家としてすでに名を知られていたので、プロヴォークといえば、中平卓馬さん、森山大道さんの雑誌であった。
掲載された評論もレベルが高く、読み捨てにはできない充実の内容であったが、営業的にはきびしい売り上げであったらしく、このNO.14をもって、惜しまれつつ廃刊となってしまった。
わたしは写真集「パーソナル・リレーション」を携えて、「はぐれ雲」メンバー3人と、飯沢さんに会いにいった。写真家デビューを夢見る若者が大勢きていて、熱気ムンムンの飯沢ゼミであったのを、いまはなつかしく思い起こす(^_^)/~
本号には、当時気鋭の批評家として活躍していた、多木浩二、大島洋、飯沢耕太郎、八角聡仁の4名による「現代写真の位相 ――プロヴォーク以降」というシンポジウムがあるほか、森山、中平のお二人がやや懐古的な文章を寄せていて、読み応えがあり、「プロヴォーク」をめぐる重要な“基本文献”のひとつとなっている。


2)「筑豊のこどもたち」土門拳 築地書館1977年刊 2400円(+税)
リアリズム写真の名著として「江東のこどもたち」とともに輝かしい名をしるす「筑豊のこどもたち」のリメイク版。この写真集の初版は1960年パトリシア書店から発行されている。
わたしが「はじめて」買った写真集として、記憶の底に永遠に沈んでいる。
この本とめぐりあっていなければ、その後ウォーカー・エバンスにあれほど傾倒することはなかっただろう。
人間とはなにか? 生の崖っぷちに立たされた、貧しい人びとの放つこの輝きとはいったいなんだ!? それは一口にいえば「人間の尊厳」ということである。どんな人間にもその「尊厳」がそなわっていることを、この写真集は雄弁に語る。それが、この本を手に取る人に、ある“痛み”を与える・・・とわたしは考えている。感動と似てはいるが、少し違う。この時代を席巻した「報道写真」の最高の成果ともいえるし、それを乗り越えた仕事ともいえる。
東日本大震災に取材した写真集がさまざま刊行されてきているが、その中に本書に匹敵しうる写真集があるのだろうか?


3)「我われは犬である」エリオット・アーウィット(ソフトカバー版)
JICC出版局1992年刊 3786円+税
アーウィットの大規模な写真展があるというので、東京赤坂にある画廊まで、友人と二人で出かけていったのは、いつだったろうか? 出かけるまえに買ったのか、そのあとしばらくして、古書店で買ったのか、思い出すことができない。
わたしがmixiのプロフで現在使用しているセルフポートレイトはこのとき撮影したもの。カメラとレンズが、コンタックスG1と、プラナー45mmF2だったことは、なぜかよく覚えているのに(^^ ;)
アーウィットは洒脱な写真家である。
日本人には、こういう上質なユーモアをかもしだす写真家は存在しない。そこに惹かれたのである。(唯一の例外をあげれば、植田正治さんには、諧謔がある)。
Googleで画像検索をしたら、アーウィットの代表作を一望できる。便利な時代になったものである。
本写真集の主役はいうまでもなく犬。図鑑的な意味での犬ではなく、人間の同伴者、隣人としての犬である。犬を撮ってこれだけ愉しませてくれるアーウィットは、ライカ使いの名人でもあった。


4)「THE BALLAD OF SEXUAL DEPENDENCY」NAN GOLDIN
輸入版 1980年刊4490円
80年代から90年代にかけて「私写真」がものすごくはやったことがあった。
日本ではなんといってもその第一人者は荒木経惟、アメリカではこのナン・ゴールディンと、サリー・マンあたりだろうか? 自身とその周辺人物の私生活を、かなり暴露的なカメラ・アイによって、生々しく描出する。
ミニマムな世界に向けられたドキュメンタリーでもある。性的な解放がすすみ、かつては「隠蔽すべきもの」だったはずの性の“暗がり”が、メディアの表面に浮かび上がってきて、人びとの耳目をあつめたのである。
むろん、ポルノではないのだけれど、きわどい写真もある。
しかし、わたしはこのナン・ゴールディンの写真は、どう逆立ちしても好きにはなれない。わたしの独断と偏見では、長島有里枝さんも、HIROMIXも、それほどの(評判になったほどの)写真家ではない。
女性たちの多くが「自己表現の手段」として写真を手に入れた場合、なぜ関心がまず自己自身に向かうのだろう?
読んでみるとわかるが、たしかに、単なるナルシズムではない。世界や世間と関係する場合、まずなんといっても、その身体性が問われるということはあるだろう。彼女たちが暮らす狭い空間の中では、その事実は無視しえぬ、一義的な問題であったのだろう。これは遠くから眺めているわたしの無責任な推測にすぎないのだけれど。


5)「消滅した時間」奈良原一高
 株式会社クレオ1995年刊9515円+税
日本人があの広大なアメリカ大陸を横断しながら、無我夢中で写真を撮りつづける。そこにどんな意味が付与されるのだろう。
わたしはこの写真集のはるか彼方に、ロバート・フランクの「アメリカンズ」を想像せずにはいられない。スイス人フランクにとっても、“アメリカ”は他者の世界であった。フランクはなかば無意識に、写真によって、それまでだれも指摘したことのない“アメリカ”をとらえたのである。
それに比べると、奈良原さんのこの写真集は、ずいぶん絵画的で、超広角レンズ、広角レンズによって、画面効果を狙ったカットが眼につく。たいへんドライで、情緒性など、微塵もない・・・といっていいほど。
そこが、いま見ても、フレッシュである。「自前の思想と伝統の重圧のない」国に生きるとは、どんなものだろう。人びとは幻影のように登場する。アメリカそのものが、巨大な悪夢だというように。
藤原新也さんにも、アメリカを横断しながら撮った写真集があるが、この「消滅した時間」と、藤原さんの「アメリカ」と、石元泰博さんの「シカゴ、シカゴ」が、三大傑作であるとおもう。
しかし、初期の「人間の土地」ではあれほど生々しく、斧で大木を伐採するように写真を撮っていた奈良原さんは、この「消滅した時間」あたりを最後にして、あまりに理知的で抽象的な作風へと転換していく。奈良原さんの根っ子には、写真ではなく、絵画、あるいは図像があるのだろう。わたしはこれ以降の奈良原さんには、まったく関心がない。





☆エリオット・アーウィット画像検索
http://www.google.co.jp/search?q=%E3%82%A8%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%83%E3%83%88%E3%83%BB%E3%82%A2%E3%83%BC%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%83%E3%83%88&hl=ja&rlz=1T4ADBR_jaJP330JP340&prmd=imvnso&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=gjRcT5StIuqDmQWy-OmcDw&ved=0CE0QsAQ&biw=1024&bih=499

☆石元泰博「シカゴ、シカゴ」画像検索
http://www.google.co.jp/search?q=%E7%9F%B3%E5%85%83%E6%B3%B0%E5%8D%9A+%E3%82%B7%E3%82%AB%E3%82%B4%E3%82%B7%E3%82%AB%E3%82%B4&hl=ja&rlz=1T4ADBR_jaJP330JP340&prmd=imvnso&tbm=isch&tbo=u&source=univ&sa=X&ei=KzxcT5uVI6TjmAWkvqH3BA&ved=0CDIQsAQ&biw=1024&bih=499

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« クラシックカメラがやってきた | トップ | カメラの肖像を撮る »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

Blog & Photo」カテゴリの最新記事