■ダシール・ハメット「血の収穫」田口俊樹訳 新訳版(2019年東京創元社刊)原作は1929年刊
(ハヤカワ・ミステリ「赤い収穫」1989年刊 小鷹信光訳)
この「血の収穫」は、ハードボイルド小説の“はじめの一冊”としてたいへん名高い。
わたしも20代の終わりごろから“読みたいなあ”と思いながら、読み了えた現在まで、あれあれ半世紀も引きずってしまった。
書棚を調べてみたら、「血の収穫」は、東京創元社の刊行で田中西二郎訳1959年とある。たぶん50ページは読んだはず。なぜかというと、ここにポストイットが挟んであるのである(;^ω^) ついでながら、解説は中島河太郎。
原文ではRED HARVESTとなる。直訳すれば“赤、赤い”だろうが、この赤はそのまま血の赤である。
「血の収穫」 東京創元社
「赤い収穫」 ハヤカワ・ミステリ
この違いは無視できるものとして読むことになったが、はたしてどうなのだろう。
ハードボイルドの御三家といわれる作家がいる。
1.ダシール・ハメット 小鷹信光訳
2.レイモンド・チャンドラー 清水俊二訳
3.ロス・マクドナルド 菊池光、小笠原豊樹、中田耕治その他訳
この3人のうち、レイモンド・チャンドラーが圧倒的な人気を誇っていたのは皆さんご存知の通り。チャドラーに比べ、ハメットやロス・マクは、古本を漁れば別としていまでは“代表作”しか読むことができない。
本国アメリカでは、ハメットの評価は高いようである。一般読者はチャンドラー、研究者はハメットという棲み分けができているのかも(´・ω・)?
ピンカートン探偵社で、なりわいとして私立探偵をやった経験があるのはハメットのみ。その経験がハメットのリアリティを裏付けるものと見なされている。
《コンティネンタル探偵社調査員の私が、ある町の新聞社社長の依頼を受け現地に飛ぶと、当の社長が殺害されてしまった。ポイズンヴィル(毒の市)と呼ばれる町の浄化を望んだ息子の死に怒る、有力者である父親。彼が労働争議対策にギャングを雇ったことで、町に悪がはびこったのだが、今度は彼が私に悪の一掃を依頼する。ハードボイルドの始祖ハメットの長編第一作、新訳決定版!》BOOKデータベースより
ハードボイルドでは、登場人物に容易に感情移入できないものである、たとえ主役であっても。小説を読むうえで、そのことは覚えておいた方がいい。
しかし、本書を読み了えるまで、ずいぶんな時間を要した。基本的につまらないからである。おもしろくて夢中になってしまえば、当然ながらよそ見はしない。
巻末で解説者の吉野仁さんが指摘しているが、ストーリーを辿っていくうえで、本書には数か所のゆるみがある。
・ドナルド・ウィルソン殺しの犯人探し
・ボクシングの八百長試合のゆくえ
・ダイナ・ブランド殺しの真相
結局このあたりが、よくわからないのである。
それに主役の“私(オプ)”の見る悪夢も、なぜそんなシーンが長々と挟み込まれているのか、腑に落ちない。この種のわからなさは、ほかにもある。
黒澤明が「血の収穫」にインスピレーションをうけてつくったといわれる「用心棒」、さらにセルジオ・レオーネ「荒野の用心棒」は、ことの真相追求をバッサリと切り落としたことで、名作となったとされる。
本編では第25章「ウィスキータウン」」における銃撃・爆弾シーンは、そののち続々つくられたアクションもの(映画や小説)の原型になったのかも知れない。
そういったことを頭に置きながら、遅々として読みすすめたが、何というか、登場人物に魅力がない、いやうすいというべきである。
エルヒュー、ウィスパー、ダイナ・ブランドあたりは、厚みのある人物として描けている。それと私(コンチネンタル・オプ)。ストーリーはやくざの出入りそのままである。
コンチネンタル社探偵3人のほか、登場人物は殆どが死んでいく。「血の収穫」は血と暴力に満ち溢れた小説である。
パルプマガジン(読み捨ての大衆娯楽雑誌)らしい主題といえば、それにつきる。お約束の金、女、暴力、権力闘争。
読みどころはそのストイックな文体であろう。
ハメットは、「血の収穫」ばかりでなく、「マルタの鷹」「ガラスの鍵」あたりは、現在でもよく読まれているようである。
わたしも先回りして、ハメットの作品の大半をストックしてある。はてさて、いつ、どれから手を付けたらいいかなあ。
古めかしい「探偵コンチネンタル・オプ」(砧一郎訳1960年ポケミス)だと、ダシール・ハメットはダシェル・ハメットという表記になっている。
評価的には星3つにしたが、4つでもいいかも知れない。「血の収穫」に感銘をうけた、感動したという読者がいるとは、わたしには思えないのだが。
評価:☆☆☆
(ハヤカワ・ミステリ「赤い収穫」1989年刊 小鷹信光訳)
この「血の収穫」は、ハードボイルド小説の“はじめの一冊”としてたいへん名高い。
わたしも20代の終わりごろから“読みたいなあ”と思いながら、読み了えた現在まで、あれあれ半世紀も引きずってしまった。
書棚を調べてみたら、「血の収穫」は、東京創元社の刊行で田中西二郎訳1959年とある。たぶん50ページは読んだはず。なぜかというと、ここにポストイットが挟んであるのである(;^ω^) ついでながら、解説は中島河太郎。
原文ではRED HARVESTとなる。直訳すれば“赤、赤い”だろうが、この赤はそのまま血の赤である。
「血の収穫」 東京創元社
「赤い収穫」 ハヤカワ・ミステリ
この違いは無視できるものとして読むことになったが、はたしてどうなのだろう。
ハードボイルドの御三家といわれる作家がいる。
1.ダシール・ハメット 小鷹信光訳
2.レイモンド・チャンドラー 清水俊二訳
3.ロス・マクドナルド 菊池光、小笠原豊樹、中田耕治その他訳
この3人のうち、レイモンド・チャンドラーが圧倒的な人気を誇っていたのは皆さんご存知の通り。チャドラーに比べ、ハメットやロス・マクは、古本を漁れば別としていまでは“代表作”しか読むことができない。
本国アメリカでは、ハメットの評価は高いようである。一般読者はチャンドラー、研究者はハメットという棲み分けができているのかも(´・ω・)?
ピンカートン探偵社で、なりわいとして私立探偵をやった経験があるのはハメットのみ。その経験がハメットのリアリティを裏付けるものと見なされている。
《コンティネンタル探偵社調査員の私が、ある町の新聞社社長の依頼を受け現地に飛ぶと、当の社長が殺害されてしまった。ポイズンヴィル(毒の市)と呼ばれる町の浄化を望んだ息子の死に怒る、有力者である父親。彼が労働争議対策にギャングを雇ったことで、町に悪がはびこったのだが、今度は彼が私に悪の一掃を依頼する。ハードボイルドの始祖ハメットの長編第一作、新訳決定版!》BOOKデータベースより
ハードボイルドでは、登場人物に容易に感情移入できないものである、たとえ主役であっても。小説を読むうえで、そのことは覚えておいた方がいい。
しかし、本書を読み了えるまで、ずいぶんな時間を要した。基本的につまらないからである。おもしろくて夢中になってしまえば、当然ながらよそ見はしない。
巻末で解説者の吉野仁さんが指摘しているが、ストーリーを辿っていくうえで、本書には数か所のゆるみがある。
・ドナルド・ウィルソン殺しの犯人探し
・ボクシングの八百長試合のゆくえ
・ダイナ・ブランド殺しの真相
結局このあたりが、よくわからないのである。
それに主役の“私(オプ)”の見る悪夢も、なぜそんなシーンが長々と挟み込まれているのか、腑に落ちない。この種のわからなさは、ほかにもある。
黒澤明が「血の収穫」にインスピレーションをうけてつくったといわれる「用心棒」、さらにセルジオ・レオーネ「荒野の用心棒」は、ことの真相追求をバッサリと切り落としたことで、名作となったとされる。
本編では第25章「ウィスキータウン」」における銃撃・爆弾シーンは、そののち続々つくられたアクションもの(映画や小説)の原型になったのかも知れない。
そういったことを頭に置きながら、遅々として読みすすめたが、何というか、登場人物に魅力がない、いやうすいというべきである。
エルヒュー、ウィスパー、ダイナ・ブランドあたりは、厚みのある人物として描けている。それと私(コンチネンタル・オプ)。ストーリーはやくざの出入りそのままである。
コンチネンタル社探偵3人のほか、登場人物は殆どが死んでいく。「血の収穫」は血と暴力に満ち溢れた小説である。
パルプマガジン(読み捨ての大衆娯楽雑誌)らしい主題といえば、それにつきる。お約束の金、女、暴力、権力闘争。
読みどころはそのストイックな文体であろう。
ハメットは、「血の収穫」ばかりでなく、「マルタの鷹」「ガラスの鍵」あたりは、現在でもよく読まれているようである。
わたしも先回りして、ハメットの作品の大半をストックしてある。はてさて、いつ、どれから手を付けたらいいかなあ。
古めかしい「探偵コンチネンタル・オプ」(砧一郎訳1960年ポケミス)だと、ダシール・ハメットはダシェル・ハメットという表記になっている。
評価的には星3つにしたが、4つでもいいかも知れない。「血の収穫」に感銘をうけた、感動したという読者がいるとは、わたしには思えないのだが。
評価:☆☆☆