二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

「ドストエフスキー その生涯と作品」

2008年01月03日 | ドストエフスキー
 NHKブックスに収録されている現行本。ただし、わたしが持っているのは昭和46年5月、第14刷りとあり、現在は装幀が変わっている。
 埴谷雄高さんはいわゆる「戦後派」を代表する作家のひとりで、長編小説「死霊」短編集「虚空」「闇の中の黒い馬」で知られている。わたしが若かった70年代には、高橋和己などとならび、さかんに読まれた作家だが、現在ではあまり読まれていないとみえ「死霊」以外は入手しにくい。
 埴谷さんはドストエフスキーとエドガー・ポーの影響がつよく、読んでいくと、その痕跡がはっきり指摘できる。また非常に強靱な批評精神の持ち主で、どちらかといえば、左翼系の思想家といえる。わたしは20代だったころ、5~6冊読んだ程度で、よくは知らないが、いまでも熱烈な信奉者がいるようだ。
 ドストエフスキーに関しては、とくに「悪霊」「カラマーゾフの兄弟」などの影響を色濃くうけていて、作品が難解なため、わたしははやい段階で彼から離れてしまったが、この「ドストエフスキー」の入門書からは、多くの恩恵をこうむった。
 本書はNHK・FMで放送された「人と思想」という講座での記録がもとになっているため、初心者向けとしては最適のガイドブックで、いまでも十分通用する。こんど読み返して、あらためてその感を強くした。一ヶ月半ほどまえに加賀乙彦さんの「小説家が読むドストエフスキー」を読んだが、それよりわたしにはこっちがぴったりくる。勘所をしっかり押さえているし、引用がじつに的確。
 ドストエフスキーに関心を持ってはみたが、どんなふうに読んでいいのかわからない・・・、という人にはおすすめの一冊である。埴谷さんはドストエフスキーは「成長する作家」であると述べている。
<ドストエフスキーの作品は、次第にその時代のロシア文学の枠を越え、十九世紀世界文学の代表的作品となったばかりでなく、時の流れとともに、人類の文化史を飾る巨大な作品にまで成長してきた・・・>

 難解で知られる埴谷さんが、めずらしく、平明なわかりやすいことばで書いている。大長編が多く、一筋縄ではいかない、巨大な山塊のようなドストエフスキー。基礎知識と忍耐と読解力がなければ、たちまち迷子になってしまうが、本書はそういった初心者向けのガイドブックとしては最適だし、ていねいに読めば、かならず思いがけない「発見がある本」になっている。

 埴谷雄高(はにや・ゆたか)「ドストエフスキー その生涯と作品」日本放送出版協会>☆☆☆★

 

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