二草庵摘録

本のレビューと散歩写真を中心に掲載しています。二草庵とは、わが茅屋のこと。最近は詩(ポエム)もアップしています。

タイトルがよくないなあ ~丸谷才一さんの2冊を読む

2020年08月18日 | エッセイ(国内)

■「日本文学史早わかり」講談社文芸文庫 2004年刊(原本は1984年刊)

これはどういうわけで、こういうタイトルになったのだろう。丸谷才一さんがかんがえていることがまるっきりわからないわけではないが、このタイトルは読書欲をそそらない。
友人でもある大野晋さんなどにも不評だったと認めている。
巧みに要約されているので、amazonのBOOKデータベースからコピーさせていただく。

《古来、日本人の教養は詩文にあった。だから歴代の天皇は詞華集を編ませ、それが宮廷文化を開花させ日本の文化史を形づくってきたのだ。明治以降、西洋文学史の枠組に押し込まれてわかりにくくなってしまった日本文学史を、詞華集にそって検討してみると、どのような流れが見えてくるのか。日本文学史再考を通して試みる文明批評の1冊。詞華集と宮廷文化の衰微を対照化させた早わかり表付。》

戦後になって、どれほどの「日本文学史」が書かれているのか知らないが、わたしも若いころ吉田精一さん、小西甚一さんあたりで読んだ覚えがある。
しかし、本書はそういった在来型の「日本文学史」に向かって投げ込まれた小さな爆弾である(@_@)
国文学の専門家なら、まずこういう論点を発見することはできなかったろう。
革新的な「日本文学史」である。

丸谷さんの教養(知的生活)の背景にあるのは、T・S・エリオットやジョイスなどのイギリス文学。しかも、いい意味でも、悪い意味でも卓越した知的エリート。
長くなるので内容には立ち入らないが、趣旨は首尾一貫していて、強い説得力をもっている。

解説の大岡信さんがつぎのように述べている。

《素朴よりは趣向
涙と感傷よりは笑いと知性
生真面目よりは遊びと悪戯
陰気よりは景気
孤独よりは社交
「純文学」よりは「風俗小説」
「宮廷」そのものではなく「宮廷文化」
政治的復古主義ではなく文化的古典主義
 (中略)
江戸と断絶した近代ではなく江戸と連続した近代》(本書211ページ)

この本が目指している方向性を、うまく箇条書きにしている。
丸谷さんと大岡さんがやってきた文学史についての仕事は、楕円を描くなら半分くらい重なっている。したがって、解説はすぐれた“知己の弁”といえるものだ。

だれもが引用し、すっかり有名になったことばに、正岡子規の、
「貫之は下手な歌よみにて古今集はくだらぬ集に有之候」(歌よみに与ふる書)
がある。
わたしはよくは知らないのだが、この断定的な子規の意見は驚くべき影響力を多くの近代歌人にあたえ、斎藤茂吉を頂点とした「アララギ」に引き継がれて日本全土を風靡したと認識している。彼らは「万葉集」を手本とし、古今集以後の八代集の精華を反故同様なものにしてしまった。
「日本文学史早わかり」は、この子規のいわば“定理”を、もう一回ひっくり返した書といえる。
その意味では、本書は丸谷才一の大変な野心作である。

ただし、いくらなんでも「日本文学史早わかり」では誤解を招く。タイトルがよくない。わたしも退屈な入門書のたぐいだと思って、これまでスルーしていたのだ。
いま、この年になって八代集のすべてが読めるとも思えないが、丸谷さんの所説に負けて、「古今集」「新古今集」「百人一首」だけでも、しっかり読んでおこうとかんがえるようになった。
勉強のため・・・というより、“老後の”愉しみのために。

芭蕉、蕪村、一茶の世界の表面を撫で回した程度ではあるにせよ、俳句、俳諧には多少親しんではきたのだ。それに対し「万葉集」をふくめ、この時代の和歌について、あまりにも無知であったと、反省しきり。
困ったなあ、ここまできては、時間との競争になってしまうぞ。



評価:☆☆☆☆



■「完本 日本語のために」新潮文庫 平成23年刊
これはまだ「i 国語教科書批判」しか読んでいない。このあと、
・日本語のために
・国語教科書を読む
・言葉と文字と精神と
・大学入試問題を批判する
・付録

さらに巻末には湯川豊さんによるインタビュー「日本人はなぜ日本語論が好きなのか」とつづく。

教科書批判に、いささかムキになって取り組んでいるのだ。これは・・・
、これはどうかんがえたらいいのか?
この国の「国語」の行く末を心底憂えている。述志の書といえるものである。
読みおえることができたら、後日もう一遍取り上げるかもしれない。
しかし、現在20冊以上の本をスタンバイさせてあるので、関心がほかに移ってしまうこともありうる。

猛暑のため、集中力が途切れがちだなあ。
汗だらだらの8月(^^;)



評価:読みおえていないため、無評価

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